『俺達のグレートなキャンプ37 ギネスを狙え!ロングみたらし団子作り』
海山純平
第37話 ギネスを狙え!超ロングみたらし団子作り
俺達のグレートなキャンプ37 ギネスを狙え!ロングみたらし団子作り
「よし!決めた!今回のグレートなキャンプは——世界一長いみたらし団子作りだ!」
石川の声が八ヶ岳高原キャンプ場に響き渡った瞬間、テントを設営していた千葉の手が止まる。薪を割っていた富山の斧が宙に浮く。
「また始まった...」
富山が小声でつぶやく間もなく、千葉が目をキラキラと輝かせて食いつく。
「みたらし団子!いいじゃないですか!でも普通のじゃつまらないですよね?」
「そうだ千葉よ!普通じゃない!」
石川がニヤリと不敵に笑い、両手を大きく広げて宣言する。
「100メートルの一本につながったみたらし団子だ!ギネス記録を狙うぞ!」
富山の顔が一気に青ざめる。斧を地面に落とす。
「100メートル!?それってもはや団子じゃなくて麺——」
「そこがグレートなんですよ、富山さん!」
千葉が興奮して手をパンパンと叩く。
「石川さん、必要な材料はどれくらいですか?」
石川がリュックからメモ帳を取り出し、得意げに読み上げる。
「白玉粉50キロ、醤油5リットル、砂糖10キロ、みりん3リットル、片栗粉2キロ!」
「量がおかしい!」
富山が頭を両手で抱える。
「というか、どうやって100メートルの団子を焼くのよ!普通のコンロじゃ無理でしょ!」
「それがな——」
石川が得意げに胸を張る。
「キャンプ場の管理人さんに相談したら、今日は平日で空いてるから、キャンプ場全体を使っていいって許可もらったんだ!端から端まで150メートル!完璧だろ?」
富山がガクっと膝を突く。
午後2時。近くのスーパーマーケット「フレッシュ八ヶ岳」。
「白玉粉50キロください」
石川が店員に堂々と言い放つ。店員の目が点になる。
「ご、50キロ...?業者さんでしょうか?」
「いえ、キャンプで使うんです」
富山が申し訳なさそうに頭を下げながら説明する。
「キャンプで50キロの白玉粉って...一体何を作られるんですか?」
「みたらし団子です!世界記録狙いなんです!」
千葉が満面の笑みで答える。店員がさらに困惑する。
結局、店にある白玉粉を全て買い占め、醤油コーナーも品薄状態にしてしまう。レジの金額を見て富山が震え上がる。
「食費が...今月の食費が...」
キャンプ場に戻ると、隣のサイトの山田家が興味深そうに大量の材料を見ている。
「お疲れさまです。何か大掛かりなことをされるんですね」
山田さん(40代、優しそうなお父さん)が声をかけてくる。
「世界一長いみたらし団子作りです!」
石川が胸を張って答える。
「世界一?本当ですか?すごい!うちの子供たちも手伝わせてもらえませんか?」
「もちろんです!みんなでやりましょう!」
千葉が即座に快諾する。こうして山田家の小学生二人も巻き込まれることになった。
夕方4時。いよいよ製作開始。大きなボウルを5つ並べて生地作りスタート。
「まずは50キロの白玉粉と格闘だ!みんな、袖をまくれ!」
石川が気合を入れて袖をまくる。千葉が白玉粉の袋を勢いよく開けた瞬間、粉が舞い上がって辺り一面真っ白になる。
「うわあああ!吸い込んじゃった!ケホッケホッ!」
千葉が咳き込みながらよろめく。
「最初から粉まみれね...はあ」
富山が呆れながらも手を動かし始める。
しかし問題は粉の量だけではなかった。50キロの粉に対する水の量の計算で早速大混乱。
「えーっと、普通の白玉は粉100グラムに水80cc...つまり50キロなら...」
富山が電卓を慌てて叩く。
「40リットル!?」
山田さんが目を丸くして驚く。
「バケツ持ってこーい!」
石川が大声で叫ぶ。
水を加え始めると、今度は混ぜる大変さが発覚する。普通のボウルでは全く歯が立たない。
「これ、手で混ぜるの無理じゃない?」
富山が汗だくになりながら必死に捏ねる。既に額に汗がにじんでいる。
「足で混ぜよう!昔のお餅つきみたいに!」
千葉が突然提案する。
「足って...衛生的にどうなのよそれ」
「大丈夫!靴下脱いで足洗えば!ワイルドでいいじゃないですか!」
気づくと全員が裸足になってタライの中で足踏み作業。まるで葡萄の踏み潰し作業のような光景。
「なんか楽しくなってきた!ぺちゃぺちゃする!」
山田家の長男(小5)が大喜びで飛び跳ねる。
「ぬるぬるする〜!気持ち悪いけど面白い!」
次男(小2)も大はしゃぎで踏み続ける。
しかし30分経っても全然まとまらない。全員が汗だくになって息を切らしている。
「なんで固まらないんだ?おかしいな...」
石川が困惑して首をひねる。
「水が多すぎるのよ!だから言ったでしょ!」
富山が指摘すると、今度は慌てて粉を追加する。そうするとまた水が足りなくなる無限ループに突入。
「うわああああ!もうめちゃくちゃ!でも楽しい!」
千葉が叫びながらも楽しそうに笑っている。
1時間後、ようやく生地らしきものが完成。しかし今度は新たな難題が立ちはだかる。
「この生地、どうやって100メートルの長さにするの?現実的に考えて」
富山が現実的な問題を冷静に提起する。
「手で伸ばすんだ!こうやって少しずつ...」
石川が生地を取って慎重に伸ばし始める。
プチッ。
あっさりと切れる。
「切れた」
「やり直し!」
プチッ。プチッ。プチッ。
何度やっても同じ結果。
「全然だめじゃない!このままじゃ日が暮れるわよ!」
富山が頭を抱えて嘆く。
そこに他のキャンパーたちがぞろぞろと集まってきた。大学生グループ、家族連れ、ベテランキャンパーのおじさんたち。みんな興味深そうに作業を眺めている。
「何やってるんですか?すごく面白そう!」
大学生の一人が目を輝かせて聞く。
「世界記録挑戦です!みなさんも手伝ってください!」
千葉が即座に巻き込みにかかる。
「面白い!俺たちも参加します!」
「パスタマシンあったら薄く伸ばせるかも」
別の大学生が提案する。
「キャンピングカーにあります!妻が持ってきてるんです」
山田さんが手を上げる。
「なんでキャンピングカーにパスタマシン...普通持参する?」
富山が呆れて首を振る。
「妻の趣味で...イタリア料理が好きなんです」
こうしてパスタマシン作戦が開始される。しかし生地の量が尋常ではない。
「みんな、順番に機械に通すぞ!流れ作業だ!」
石川が指揮官のように指示を出す。
しかしパスタマシンは普通の家庭用。50キロ分の生地を処理するには途方もない時間がかかる。
「計算上、800回くらい機械に通さないと全部処理できないわね...」
富山が電卓を叩いて絶望的な数字を叩き出す。
「800回!?」
全員が絶叫する。
「やるしかないでしょ!みんなで協力すれば!」
千葉が拳を握って気合を入れる。
ガリガリガリ。ガリガリガリ。単調な機械音がキャンプ場に響き続ける。
30分後、既に全員が疲労困憊。汗だくになって肩で息をしている。
「まだ50回も通してない...先が長すぎる」
富山が泣きそうな顔でつぶやく。
「みんな、交代制でやろう!一人5分ずつ!」
石川が提案する。
キャンパーたちが次々とパスタマシンに挑戦する。まるで工場の流れ作業のような光景。
「次の人!」「はい!」「疲れた!腕が痛い!」「代わります!」
掛け声が飛び交う中、気づくと15人近いキャンパーが参加している。キャンプ場が異様な熱気に包まれる。
「これ、キャンプじゃなくてもはや工事現場よ...」
富山が汗を拭いながらぼやく。
2時間後、ようやく薄く伸ばした生地ができあがるが、今度は手で更に伸ばす作業が待っている。
「そっと引っ張って...切れないように慎重に...」
富山が神経質になりながら慎重に作業する。
プチッ。
「だから言ったじゃない!慎重にって!」
「継ぎ足せばいいじゃん、見た目は気にしない!」
大学生が気楽に提案する。
「それもう一本じゃないでしょ!ギネス的にどうなのよ!」
試行錯誤を重ねた末、ついに20メートルの団子が完成する。
「おおおお!」
歓声が上がる。みんなが拍手する。
しかし喜んだのも束の間。次の現実的な問題が立ちはだかる。
「これ、どうやって焼くの?現実問題として」
富山が冷静に問題を指摘する。
「バーベキューコンロを並べよう!みんなのを借りるぞ!」
石川が提案する。
「何台必要なのよ...計算してみなさいよ」
夜9時。キャンプ場にいる全員のバーベキューコンロが動員された。20台近くのコンロが一列に並ぶ光景は圧巻。まるで屋台の縁日のよう。
「火起こし班、生地伸ばし班、タレ作り班に分かれるぞ!効率よく行こう!」
石川が完全に指揮官モードに入っている。
火起こし班は炭起こしに悪戦苦闘。
「風が強くて火がつかない!」
「うちわで扇いで!もっと強く!」
「扇ぎすぎて炭が飛んだ!危ない!」
「うわあああ!」
一方、タレ作り班は大鍋と格闘している。
「醤油5リットルって、業務用の寸胴鍋でも満杯よ...重い」
山田さんの奥さんが大鍋を両手でかき混ぜる。
「砂糖10キロ全部入れるの?本当に?」
「ギネス記録のタレだ!普通の甘さじゃ意味がない!」
石川が力強く叫ぶ。
しかし砂糖10キロは想像以上の量。鍋から溢れそうになる。
「甘すぎない?これ人間が食べられるレベル?」
「大丈夫、100メートル分だから薄くなる!多分!」
生地伸ばし班は更に過酷な状況。
「50メートル...60メートル...まだまだ」
千葉が汗を拭いながら距離を測る。
「腕が...腕がもう限界...筋肉痛になる」
富山がヘロヘロになりながらも作業を続ける。
「みんな、気合だ!ギネス記録まであと少し!」
石川が檄を飛ばす。
しかし気合だけでは解決しない物理的限界がある。生地を伸ばしすぎて薄くなりすぎ、夜風で揺れてしまう。
「風よけが必要だ!このままじゃ形が崩れる!」
「みんなで囲もう!人間の壁作戦!」
15人のキャンパーが100メートルの生地を囲んで人間の壁を作る。上空から見たら完全に異様な光景。
「これ、絶対変よ...通報されそう」
富山がつぶやく。
夜11時。ついに生地の伸ばし作業が完了。100メートルの生地がキャンプ場に横たわっている。
「やったああああ!ついにできた!」
全員が歓声を上げて抱き合う。
しかし最大の難関がまだ残っていた。焼き作業。
20台のコンロで100メートルの生地を焼くには、絶妙な火加減とタイミングが必要。
「左端から順番に焼き始めるぞ!タイミングを合わせろ!」
石川が指示を出す。
「火が強すぎる!焦げちゃう!」
「こっちは弱すぎ!全然焼けない!」
「焦げてる!ひっくり返して!」
「まだ生!もっと焼いて!」
コンロごとに火力が違い、焼きムラだらけになる。
「もうメチャクチャ!でも楽しい!」
千葉が笑いながら叫ぶ。汗だくで顔が真っ赤。
「すごく楽しい!お祭りみたい!」
山田家の子供たちも大興奮で駆け回る。
深夜12時。焼き作業がようやく半分終了。しかし全員がヘトヘトになっている。
「疲れた...もう立ってられない」
富山がへたり込む。
「でも、なんか達成感あるな。みんなでやってるからかな」
大学生の一人が汗を拭いながらつぶやく。
「みんな、最後まで頑張ろう!ゴールは目の前だ!」
石川が疲労困憊ながらも気合を入れ直す。
しかし深夜の作業で集中力が限界に達している。焼きすぎたり、生焼けだったり、コントロールが効かない。
「もういい加減でいいんじゃない?完璧を求めすぎよ」
富山が弱音を吐く。
「だめだ!ギネス記録だぞ!妥協は許されない!」
「ギネスって、味も審査するの?見た目だけじゃなくて?」
「...知らない」
午前1時。ついに100メートルの団子が焼き上がった。
「完成だああああ!やったぞ!」
全員が疲労困憊ながらも達成感で満たされ、抱き合って喜ぶ。
最後はタレかけ作業。大鍋のタレをハケで塗っていく。
「リレー形式でやろう!バトンタッチみたいに!」
ハケからハケへタレが受け継がれていく。しかし50メートル地点でハプニング発生。
「タレが足りない!底が見えてる!」
「え?うそでしょ?」
計算ミスでタレが不足。慌てて追加のタレ作りに取りかかる。
「もう朝になっちゃう...体力の限界」
富山が泣きそうな顔でつぶやく。
「大丈夫!もう少しだけ!みんなで頑張ろう!」
千葉がみんなを励ます。
午前2時。ついに100メートルのみたらし団子が完成した。
キャンプ場の端から端まで、タレの照りで光る巨大な団子が横たわっている。
「す、すごい...本当にできてる」
全員が呆然と立ち尽くす。
「本当にやっちゃった...信じられない」
「ドローンで撮影しよう!記録に残さないと!」
なぜか誰かがドローンを持っていた。
上空から見た100メートルのみたらし団子は圧巻。夜空に浮かぶ黄金の帯のよう。
「これ、どうやって食べるの?現実問題として」
富山が現実的な問題を提起する。
計算すると、15人で食べるには一人約6.7メートル。
「無理でしょ...物理的に無理」
「大丈夫!朝食、昼食、夕食、3食これでいこう!」
石川が提案する。
「3食みたらし団子?栄養バランス最悪よ」
翌朝7時。他のキャンパーも起きてきて100メートルの団子に仰天する。
「これ、何ですか?アート作品?」
「食べ物です、みたらし団子」
「本当にギネス申請するんですか?」
「もちろん!これが俺たちのグレートなキャンプだ!」
石川が胸を張る。
一週間後、石川の元にギネス・ワールド・レコーズからメールが届いた。
「みたらし団子の長さの記録はないため、新記録として認定できません。しかし、『最も多くの人を巻き込んだキャンプ料理』として申請してはいかがでしょうか?」
「やったー!新しいカテゴリーだ!」
富山が頭を抱える。
「また次回に続くのね...」
千葉が元気よく言う。
「次はもっとたくさんの人を巻き込みましょう!全国規模で!」
こうして、俺達のグレートなキャンプは続いていく。
次回、第38回「俺達のグレートなキャンプ 全国キャンパー大集結!超巨大カレー鍋作り」
「全国って...やめて」
富山の震え声が、八ヶ岳の風に消えていった。
〈完〉
『俺達のグレートなキャンプ37 ギネスを狙え!ロングみたらし団子作り』 海山純平 @umiyama117
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます