第二話 鉄の音 鬼の声

彼女は死んだ。死んだはずだった。

しかし、彼女の意識は続いており、肉体もなお部屋の硬い床に横たわっていた。


部屋は無機質なコンクリートでできており、広さはワンルームほど。

にもかかわらず、その先には不釣り合いな巨大な石製の扉が取り付けられていた。

それを照らす灯りは、小さな蝋燭が一つだけ。あまり溶けていないことから、ここに来てそれほど時間は経っていないようだった。

扉の上部には、空気穴のような複数の穴が開けられている。


「何? ここ……? 私、死んだはずじゃ……」


しばらく混乱していると、部屋の隅に一人の老婆がいきなり現れた。

その老いた姿は、最初こそ戸惑いの表情を見せたが、誰かの存在に気づくと、まるで貼り付けたかのような不気味な笑顔に変わり、唯一見える人物に話しかけた。


「ここがどこだかわかるかい?」


いきなり現れた老婆に戸惑いながら、彼女は答えた。


「すいません……わかりません。私もさっき来たばっかりで……もう不安で、どうしたらいいか……」


老婆は笑顔を崩さないまま、話を続けた。


「そうかい。私も、意味がわからないままここにいて困ってたのさ。……ここは一つ、協力しないかい?」


その申し出に、彼女はなんとなく不気味さを感じた。

だが、彼女は断らなかった。理由を見つけられなかったのだ。

彼女にとって、この無機質な空間に一人きりという状況は、到底耐えられるものではなかった。


「私は凛。佐藤凛といいます。よろしくお願いします」


「そうかい、私は――」


「キャーーーーー!!」


耳を突くような甲高い声が、扉の向こうから部屋に響き渡った。

二人は思わず身を縮こまらせた

次の瞬間――


ゴンッ! ゴンッ!


――鉄を打ちつけるような音が聞こえ、二人は息を殺し、身を隠そうとした。

しかし部屋には何もなく、できることといえば、身を震わせることくらいだった。

だんだん大きくなる鉄の音に、心臓が呼応する。たった一つしかない灯りすら扉の向こうから来る存在に怯えその火を揺らしている。


この時間を、凛は無限のようにも感じた。

だが、ドアは――その巨大な扉とは思えぬほど――軽く開けられた。

凛はそれに一瞬の疑問を抱いたが、入ってきた“モノ”を見た瞬間、その疑問は消えてなくなった。


簡単に人を刺してしまいそうな、どこまでも伸びたツノ。

人を軽々と持ち上げそうな、丸太のような腕。

人々がこれを見ても、生物だとは到底思えないだろう。


そして、それは凛が子供の頃に絵本で見た、地獄の番人――「鬼」に、よく似ていた。


凛は、確信した。


――ここは地獄だ

  そしてこれから殺される


この状況を理解したつもりの凛だったが、

その直後、鬼が放った一言は――


確信を、あっけなく揺るがせた。


「……は?」

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地獄JK―あの日、死んでよかったと思える革命を あきまん @akimanjuu0928

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