第2話:地上
「ここが地上か。」
周りには木や草木が生い茂り、自然豊かである。
「自然豊かなのは良い事じゃ・・・しかし、ここから街へ行くにはどうしたもんかのう。」
この森を抜ければ、街が近くにある事は記憶からわかるが、具体的な道筋はわからない。
闇雲に進んでは、迷って餓死か獣達の餌になるだろう。
「他に頼れるのは召喚術じゃが・・・これは使えんな。」
召喚術は召喚対象と契約・・・つまり了承を得て名を与える事により召喚が可能となるため、誰とも契約していない今は使えない。
悪魔召喚とは全くの別物である。
「さて、どうするか・・・一応迷宮があった場所なら、人が出入りした足跡があるはず。探してみるかのう。」
周りを調べると、本来の迷宮の入口を見つけたが見事に崩れており、入る事は不可能だ。
人の足跡がいくつかあり、それをたどっていけば森からの脱出は可能かもしれないが、それだけではかなり困難だと思われた。
「迷っている時間はないな。暗くなると身動きが取れなくなる・・・とはいえもう少し何かないかのう。」
ふと、背中に視線を感じ振り向くと、一匹の狼が遠巻きにこちらを見ていた。
(なんと!これはマズイ・・・。)
狼は群れで狩りをする、一匹いたら他にもいると考えるのが普通だ。
集団で襲われたらどうしようもない。
(それに、こやつただの狼ではない・・・魔物であるブラッディウルフじゃ。)
魔物には色々と種類があるが、中には動物が力を得て魔物になるパターンがある。
ブラッディウルフは、普通の狼がこの世界のエネルギーである魔力を吸収して変化した魔物で、普通の狼より一回り大きく目が血のように赤い。
(すぐに逃げるべきじゃが、背中を向けたら瞬時にアウトじゃ。)
目を逸らさぬまま奴の動向を探る・・・が、お座りのポーズのまま動く気配がない上に仲間を呼ぶ様子もない。
(こやつ・・・まさか・・・。)
『おぬし、召喚された魔物か?』
召喚士は、対象に話しかける事が出来る。
もちろん言葉を交わすわけではなく、魔力の波長を合わせ意志を伝えあうのだ。
『・・・そうだ。迷宮の入口の監視を命じられていた。だが、その命令が途絶えた。』
『命令した召喚士は死んだぞ。もうお主は自由じゃ。』
『何という事だ。こんなところで一匹・・・これからどうすればいいのだ・・・。』
狼は群れで行動する。
それは魔物であるブラッディウルフでも同じ事であり、いくら強くても一匹で生きていく事は難しい。
(ふむ、しかしこれはチャンスじゃな。)
『ならわらわと一緒に来ぬか?契約してくれたのなら飯は保障するぞ。』
『契約・・・言いなりになれという事か?』
『そうじゃ・・・と言いたいところじゃが、そこまでの強制力はない。もちろん、それなりに働いてもらうがのう。これから狼の群れを見つけてそこに入り込んでいくのは大変じゃろ。こっちの方が楽じゃぞ。』
『たしかに、群れでやっていくには今の環境に慣れすぎた。契約を承認しよう。』
彼は契約を了承してくれたようで、近づいても攻撃してくる意志はない。
これなら後は名前を決めて、契約を交わすだけだ。
(さて、何という名前にするかのう・・・せっかくだから悪魔っぽい名前にするか。)
彼の頭に手を乗せて、魔力を込めて叫ぶ!
『なんじの名は【バルバトス】・・・我に従え!』
手から大量の魔力が注がれて、かなりの脱力感を感じる。
(くぅ・・・ここまでとは。ブラッディウルフは召喚レベル2の下位の魔物だというのに、まだまだ未熟なようじゃ。)
魔物と契約した時に、こちらに危害を加えないように魔力によって見えない鎖をつけるのだが、自分の魔力を超える場合は契約する事が出来ない上に、その場で気絶してしまう。
最悪、気絶している間に魔物に殺される可能性もあるので、相手が了承したとしても気を付けなければいけない。
ちなみに召喚する魔物にはレベルがあり、最高レベルが9である。
つまりは、レベル2という下位のブラッディウルフとの契約でギリギリだという事は、まだまだ召喚士として未熟という事である。
(まだまだ、会得する事が山盛りじゃな。楽しみじゃ。)
己が未熟だという事は、まだまだ到達する場所があるという事。
久しぶりの高揚感を感じで気持ちが弾む。
『どうしたのだマスターよ。随分と嬉しそうだな。』
『ほう・・・マスターとな?なかなかカッコいい呼び方よのう。』
『気に入ってくれてなによりだ。それより、これからどうする?』
『そりゃ・・・まずはお主の力でこの森を抜けだす事じゃ。』
『承知した。マイマスター!』
この狼、ノリノリである。
心強い仲魔を得て、意気揚々と脱出への道を進みだした。
召喚された悪魔令嬢の自由気ままな人助け旅 国米 @kokumai
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