逢魔時の御屋敷
黒井ちご
逢魔時の御屋敷
逢魔時、それは幽霊が出る時間と言われている時間帯。そんな時間に、彼は帰ってきます。
「どこよここ…離しなさいよっ」
今日のお客様は騒がしいお嬢さんですね。口調からして彼を知っていそうだ。
「静かにしろ。僕は君の血が欲しいだけだから」
やはり今回も、彼は血を欲しているようです。
「血…?なんで私の血を…?」
彼は答えません。いつものことです。必要のないことは喋りませんからね。
灯はひとつもない。ただ月明かりが廊下を照らしています。
パリンッ。お嬢さんの手が華の生けられた花瓶に当たってしまったようです。
彼は花瓶の破片を手に取りました。
「これで君の腕を切って、血を取るか?」
お嬢さんは勢いよくかぶりをふりました。
「やめて…。そんなの、痛いに決まってるじゃない…。」
最初はあんなに威勢の良かったお嬢さんも顔が青くなってきています。
「どうして、そんなサイコパスなことをしようとするの…?私、あなたに何かした?」
「僕には何もしてない」
シュルッ。何かの拍子に彼とお嬢さんを繋いでいた手錠が外れたようです。
お嬢さんはチャンスだと言わんばかりに走り出しました。でもこの御屋敷はとても広い。出口を見つけることは至難の業です。
それを分かっているからか、彼は走ることなく、歩きながらお嬢さんを追いかけました。
お嬢さんは出口の扉を見つけました。ぱあっと明るい顔で扉のノブを引きました。しかし、扉は開きません。先程の明るい顔とは変わり、青い顔が見えました。
そこで彼が追いつきました。
「開かないよ。その扉はこのカギがないと開かないんだから」
成程。彼が歩いていたのはそういうことだったんですね。
「うぅ…。」
次の瞬間、お嬢さんは息を飲みました。彼は手にナイフを握っていたからです。調理に使う包丁ではありません。食事に使うナイフです。
「やめて…ごめんなさい…ごめんなさい…」
目に涙を溜め、お嬢さんは懇願しました。
「何をしたのかもわからないのに謝られても」
彼は呆れたように言いました。
「嫌だ…死にたくない…ごめんなさい…殺さないで…」
それでもお嬢さんは詫びの言葉を並べました。「殺す気はない。血が欲しいだけだ。……その前に話でもしようか」
彼は階段の段差に腰掛けました。
「どうして君がこんなことになっているか。それは君が神様の逆鱗に触れたからだよ。」
お嬢さんは何を言っているのかわからないと言うようにポカンとしています。
「君はこの前、神社の祠を壊したね?」
お嬢さんの顔が青白く変わっていきます。
「あの祠は、僕が信仰する神様のものなんだ。そしてあの祠を壊すと必ずしなければならないことがある。」
彼は一息吸いました。
「壊した者の血を祠に入れることだ。」
お嬢さんから血の気が引きました。しかし、納得するような表情も見せました。
「だから僕は君の血が欲しいんだ。」
彼は立ち上がり、お嬢さんに近寄りました。
そして、ナイフでお嬢さんの腕に切れ込みを入れました。
「痛っ…!」
溢れ出した血を彼は紙で吸い取りました。しかし、彼は止血をすることなく、どこかへ消えてしまいました。
それに気づいたお嬢さんは血を止めようとしましたが、上手く腕が上がりません。恐怖で震えてしまっているのでしょう。
そしていつの間にか、お嬢さんは眠りについてしまったのでした。
次の日の新聞に、こんな記事が載っていました。
『◯◯湖の沖で中学生少女の死体
昨夜未明、◯◯湖の沖で釣りをしていた高畑太郎さん(57)が中学生くらいの少女が湖に浮かんでいるのを発見し、110番通報しました。その少女は病院で死亡が確認されました。死因は失血死と見られており、警察は事件性があるとして、犯人の捜索を急いでいます。また、警察に市内の中学校に通う⬛︎⬛︎⬛︎ちゃん(14)の捜索願いが出されていたことから、この遺体は⬛︎⬛︎⬛︎ちゃんであると見て、身元の特定を急いでいます。
◯◯市ではこのような少女殺害事件が多発してー』
おっと、ここからは見せられませんね。この娘があのお嬢さんだったかは、誰にも分かりません。
おや?さっきから話しているお前は誰なんだ、って?ふふふ。
私も昔は、お客様でしたからね。
逢魔時の御屋敷 黒井ちご @chigo210
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます