ただ肉を食べるだけ

テマキズシ

ただ肉を食べるだけ


腹が減った。苦学生として大学生活を送る身としてこの問題は特に酷い。


買うものは常に制限されている。バイトのお金は学費や生活費で飛んでいく。皆が知るようなキラキラな大学生活は俺には訪れない。


フラフラと近くのスーパーに入り込む。今日は何を買おうか?半額の惣菜はずっと書い続けるとすぐに金が溶けていく。もやしや安い旬の野菜。見切り品を中心に買い、飽きないようにしているが限界は来る。



だが今日は限界が近い。何か贅沢でもしたい。


こういった我慢のできないときはチョコスティックパンを安いブランド物の緑茶でふやかして食べている。普段は食べない甘いもの。苦みが混ざって普通に食べるより美味く感じるのだ。


これをコンビニで買うと更に罪悪感がでて旨味が増す。コンビニとは罪の味だ。



だが今日は違う。今日俺の脳はあるモノに釘付けにされていた。



それは人類史上最高にして最強の食べ物。原始の時代から人が食べ続け、今なお世界中の人々が食べている神の食材。


そう、肉だ。



俺の目の前には肉のパックがある。それも半額になったお得品。


駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ!!!!!!!!



こんなの食べるわけにはいかない!見ろ!!!半額でも423円もするんだぞ!!!しかもオーストラリア産のアンガスビーフ!!!こんなもの買っていいわけがない!!!








「………………あ。」


気がついた時には手に取っていた。俺は欲望に負けたのだ。


なるべく手元を見ないようにしながらレジを通す。開かれた財布を見て手を震わせる。



ここが最後のチャンス。ここでやめれば財布が軽くならなくて済む。だが既に俺の心の中には肉の悪魔が召喚されていた。


『喰え……喰え……。』


俺の頭を悪魔が囁く。俺は悪魔に導かれるように会計を通し、帰路についていた。



家に帰るとまるでゾンビに追われていると錯覚する程の必死さでキッチンへと辿り着く。既に俺の胃袋は悲鳴を上げている。早く作ろう!!





今日作るのはシンプル!ステーキのみ。お米はない。節約しなければいけないから!味噌汁もない!節約しなければいけないから!


取り出すわオーストラリア産アンガスビーフ!半額で423円!!!安くて薄べったいこの肉を全力で焼いていく!!!


筋が入ったような厚みの無い肉に塩と胡椒を振りかける!余り使いたくないので気持ち程度に両面に降ってやる。ペチペチ少し肉に入り込むようにしてやると美味くなるぞ!!!



そしてフライパン用意!!!覚悟を決めろ!着火!!!!!



本来ならば牛脂やオリーブオイルをやりたい。さらにガーリックチップでニンニクの香りを追加して最高のステーキを食べたい。



しかしそんな金は無い!!!



サラダ油を少量ズドーン!!!!そしてそこに肉をドーン!!!!!



ああ!!!あまりにも…あまりにも贅沢すぎる!!!肉の焼ける音で俺の心は天へと舞っていくようだ!!!!


蓋を止め、心を落ち着かせる。不健康な体にいきなり幸福な刺激を与えると最悪死に至る。



昔連日徹夜だった男がパチンコで大当たりして、その喜びで死んだ例があるらしい。俺はそんな方法で有名になる気はない。








暫し待ちとうとう時が来た!蓋を開け、肉をひっくり返すと美しい色へと肉が変貌している。


完璧だ!もう片面も焼けたことを確認すると火を止め、フライパンの前に椅子を用意する。



もう我慢できない。このまま食させてもらおう!!!



手に持つはナイフとフォーク。使われなくて久しい二つの神器を封印していた棚の中から引っ張り出してきた。



「いただきます。」


ではいざ!!!至高の世界へと出発だ!!!!







ガチャガチャ、ガチャガチャ。



切れない…。スジが多くて美味く切れない。何とか切ることができ、ようやく口の中に肉を取り込むことができる。



「ん〜!!!!!うまい!!!!」


やはりうまい!!!俺は確かに高級肉の溶けた感じも大好物。だがこういった安い肉は安い肉だからこその肉食ってる感が現れる。噛めば噛むほど旨味は姿をあらわにする。


噛み応えがあり、赤身の味がしっかりとする。これこそが牛肉の本来あるべき姿なのかもしれない。


肉感のある肉。肉感があるということは最高の肉だということだ!!!


今まで肉をまともに食ってこなかった体に肉食ってる欲を満たしてくれる安い肉。



これぞ贅沢。これぞ至高の境地。






「………ああ。明日も頑張ろう。」




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