最終話 中学生になっても

羊司は目をまんまるくして聞いていた。

…が、私が全て言い終わると、顎に手を当てて考え込む仕草を見せた。

「うーん…

 そうだなあ

 …あっ! そうだ!


 まだ親帰ってきてないだろ?

 今すぐ絢音の部屋見せてくれたら彼女にしてやんよ!」

「えっ?!

 いや、部屋見せるのはいいんだけど

 …掃除とか整理とかあるし、今すぐはっ!」

「いやいや、俺は何の支度もなく絢音に部屋見られたんですけど〜?

 本当に俺のこと好きで、部屋見たの悪いと思ってるなら、できるよね〜?」

「そ、そうだよね…

 羊司、こんな気持ちだったんだね

 …わかったよ。

 部屋はなくて、狭いマンションだからリビングに勉強机あるって感じだし、寝室は家族みんな一緒だけど…」


うちに向かう最中、羊司は上機嫌だったが、私は素直に喜べなかった。

彼女にしてくれるのは嬉しいけど、条件付きだなんて

…羊司にとって私って、ギリギリOKな女ってことだよね?

「なんだよー、掃除だの整理だの言うほど汚くねーじゃん」

「そ、そうだけどさ…」

「てか、布団の柄までディズニーのプリンセスかよー、好きだなー。

 いや、うちはマイホームで金なくて、家でだけ使う雑貨は一番安いの選ぶの強制だから、ダークマターな部屋にもできないし、好きなの選べて羨ましいんだけどさ。

 それこそピカチュウの方が…いやそれは別物としても、人間の女の子だけで言ったってプリキュアとかのが可愛くね?」

「だって、プリンセスって羨ましいじゃん。

 綺麗なドレス着て、お金持ちで、国中の人に綺麗だねー品があるねーって言われて、王子様に愛されたいじゃん」

「とんだ強欲だなっ?!」

「いや、理想だよ理想っ!

 本気でそれ望んでるなら、まず私がもっともっと頑張れよって話になるし?」

「あっはははははは! そらそうだよな!

 本気でそう思ってるなら、王子様とは似ても似つかない俺に下手に出るわけないもんな!

 でも、まあ…

 

 彼女の理想がわかってるのに何もしてやらないのも、かっこわりぃしなー。

 俺達が長く続いたら、せいぜい頑張って稼いで、たまにドレスぐらいは着せてやんよ」

「…羊司…」

「だから絢音も、品があるねー言われるぐらいにはなれよ?

 す…好きな相手だからって、興味や欲に任せて勝手に部屋見るみたいなことは、下品すぎてもってのほかだからな?」

「わ…わかった、本当にごめんね。

 でもさ、やっぱり

 …同じ、何の準備もなく部屋を見られるでも、私と羊司じゃハードルが違うよ…

 だって、こっちは好きな人に見られてるんだし…」

「…おいおい。

 なんで俺の方は


 …好きな人に部屋見られてないと思った?」

「えっ?!

 いや、だって、付き合うのに条件出してくるなんて

 …好きな人相手にすることじゃないじゃん」

「あっ、そうか…

 そりゃそう取られるか…

 いや、なんつーか

 …それこそ絢音の言う、『好きになった相手に嫌われるようなことはしない!って基本的には思うけど、好きだからこそ相手への好奇心や欲が勝つこともある』ってヤツ?

 …す、好き…って言っていいのかわからないけど、間違いなく興味はあるんだけど…

 それとは別に、部屋を見られたことは恥ずかしすぎて、せめてお互い様に持ち込んで納得したいって気持ちがあって、そっちが勝っちゃった…っていうか?」

「な、なに…それ…

 もし私が、そんな条件出すなら付き合わなくていいよ!って言ったらどうしてたのっ?!」

「いやいや、幼馴染バカにすんなや?

 …絢音がそんなこと言う奴じゃないってのは、わかってるし

 …絢音ならわかるだろ?

 できれば好きな人の部屋、見たいなって…」

「…うん」

「ごめん! 変に不安にさせちゃったね!

 でもまあ…そういうことで

 …安心して今後末長くよろしく!」

「…うん!」

「そしたらいつかまた同じ布団で寝ようねー」

「もうっ!」

「おやおやー、何考えてんのかなー?」

「そっちだって保育園の頃と意味合い違うの、わかってんじゃん!」

「てへぺろ。

 そうだね、純粋じゃ…なくなっちゃったね。

 でもまあ、それも悪いことだけじゃないっていうか」

「そのぶん…先生が見回りに来なくたってドキドキするもんね」

「そうそう。

 昔も今もこれからも他の男とは寝させん!

 …あっ、そうだ。


 入学式の写真一緒に撮ろうぜ。

 周りになんか言われても、幼馴染で親同士が仲良いからとか言えばなんとかなるだろ」

「そうだね、それ嘘じゃないし、実際親も懐かしんでくれそうだもんね

 …嬉しい!

 そうだ、帰りにカラオケも行こうよ」

「それいいな!

 うっせえわとかhabitとか歌っちゃお!」

「あはは、羊司らしい」

「絢音はやっぱりあの曲か?

 他の男の前でブリンバンバンでケツ振るのは、今後一切禁止だかんな!」

「あはははは!

 大丈夫だよ、他にも色々歌えるし」

「マジ? じゃあさ、欅坂とか歌える?

 俺、去年までは歌えてたんだけど、声変わりしてから歌えなくなっちゃって…」

シュンとする羊司。

「えっと、サイレントマジョリティなら多分」

「マジ?! やったあ!」

「ほんとに好きなんだねえ」

私のことを好きと言っていいのかわからない、と彼は言う。

でも、興味と独占欲、そして私の願いを少しでも叶えたい気持ちがあるなら、今は充分。

告白された側の方が気持ちがまとまるのに時間がかかるのは当然だし、じっくり時間をかけて

…いつか好きって言わせたい。

中学生。

小学校よりも無骨な建物で過ごし、やるべきことも増える、得体の知れないオトナの世界。

でも、羊司と手を取り合えば

…きっと乗り切れる。

それを確かめ合うように

…私達はそっと手を繋いだ。

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幼馴染の部屋を覗いたら激怒されました あっぴー @hibericom

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