第3話 この気持ちは何だろう?

次の日。

「さんきゅー!」

「しかし、サラダチキンとか野菜スティックとか、本気度が凄いね…」

「引きこもってるせいで散々迷惑かけてんだから、やりきるしかないだろ。

 …ところで、カラオケは何歌ったの?」

「あー、昨日羊司と話して保育園の時のこと思い出したからブリンバンバンボン歌ったら、懐かしいってバカウケした」

「あー、お遊戯の時間によく合わせて踊ってたたな!

 俺も未だにあの曲好きよ、魔法相手に鍛えた体で最強でーすって超かっけえし」

ふふっ、羊司らしい。

「あっ、でも

 …もしかしてケツ振った?」

「えっ、うん、みんなで踊ったけど」

「…女子だけだった?」

「えっ、う、うん

 …って、何考えてんのっ?」

「さーてと! 味噌汁つくろ、味噌汁!」


「ご馳走になっていいの?」

「味噌汁なんか鍋で一人前作る方が難しいし、作り置きなんてマズいだけだろ?」

「そ、そうだね…」

そういえば、調理実習の時も手際が良かったっけ。

両親共働きだし、よく自分で作ってるんだろうなあ…

「でも、私のぶんの洗い物まで増えちゃうよ」

「そんなん気にすんなって、こっちが絢音に掛けさせた手間を考えればさ。

 …なあ、絢音…」

羊司はあの頃と変わらない、まん丸く輝く瞳で、まじまじと見つめてきた。

「なんで絶交回避したさにここまでしてくれるような奴が、部屋覗いたりしたんだよ…

 俺、お前のことどう捉えればいいんだか、わかんねえよ…」

「あっ、あのっ、ピンポンしても誰も出てこないから、羊司が一人で部屋のベッドで苦しんでるんじゃないかと思って…」

「それなら、ドア閉まってたんだから、まずはノックをするだろ?」

って、そんなこと言われたって

…あの時はそこまで気が回らなくて…

「もしかして…


 …お前、俺のこと好きなの?」

「えっ?! 何言って…」

「そ、そうだよな!

 好きだったら寧ろ、絶対嫌われたくないから部屋なんか見ないもんな!

 ごめん、今の忘れて!

 優しくされてちょっと調子乗ったわ!」

「うっ、うん!

 味噌汁ごちそうさま、また明後日来るね!」

「なんで明後日…」

「えっ、だって、この服洗濯してたらそうなるでしょ」

「そ、そうか、そうだよな…」

…びっくりした。

でも、なんで…

忘れてって言われて、ホッとできないんだろう?


「あんな変なこと言ったから、もう来ないと思ったよ」

「そんなわけないじゃん!」

「よかったー。

 ところで、聞いてー!

 おかげさまで、わたくし綿貫羊司は、なんと2日間で1.5㎏マイナスに成功しましたー!」

「よかったじゃん!」

「暇さえあれば腹筋やらストレッチやらして、おやつササミにした甲斐あったわー」

「えっ…スゴ…」

「やっぱりダークマターな男はシャープなボディーでないとな」

でも…

羊司がさっさと-3㎏達成して、外に出られるようになったら

…ご両親が帰ってくるより前に、私がここに来る理由はなくなるんだ…


…ん?

なんだか外が騒がしいぞ?

「えー、羊司ってまだ風邪で寝てるんじゃないの?」

「絶対違うよー、今さっき誰か家に入ってったもん、チビの男だから絶対親じゃないもん」

「なんだよ水くさいな、今からでもあいつの卒業式やってやろうぜー」

げっ!

羊司と仲のいい針谷たちだ!

ピンポーン

「どうする? 出る?」

「…いや、まだ体重落としきれてないし、絢音がいるってボロ出たら恥ずいし、やめとくわ」

「なんで絶対いるのに出ないんだよー」

「気づいてないだけだろ? 裏にまわってみようぜー」

ま、まったく

…羊司の部屋に勝手に上がり込んじゃった私が言うのもなんだけど

…小学生って非常識っ!

「やべっ! このまま突っ立ってたらバレるぞって! こっち来い!」

手を引っ張られてソファーの陰に隠れる。

「きゃっ…」

「静かに!」

口を掌で覆われる。

ほ、ほんとに

…身長は同じぐらいなのに、私とは全然違う

…大きくてゴツゴツした手っ!

保育園で手を繋いでた時は…

同じようなフワフワした手、だったのになあ…

「…行ったな。

 …って、ええっ?

 なに真っ赤になってんの?

 もしかして俺の風邪が残っててうつった?」

「そんなわけないじゃんっ!」

…いま…

はっきり自覚した。

私は…

「ねえ、羊司…


 ひとを好きになったことって、ある?」

「えっ? なに急に?

 …えっと、恋愛的な意味でってなら

 …ない…けど」

「ふふっ、まあそうだよねー」

「なんだよっ!

 お前、恋を知らない人間の方をお子ちゃまだってバカにしてくるタイプ?」

「そうじゃないけどさ

 …誰かを好きになったことがあるなら、わかるはずだもん。

 

 そりゃ、好きになった相手に嫌われるようなことはしない!って基本的には思うよ。

 でも、好きだからこそ相手への好奇心や…自分の欲が勝って

 …自分の行動で相手がどう思うかを、ついうっかり忘れちゃうこともあるんだって」

「えっ…

 それって…」

「また同じクラスになった時、保育園から2年生までの無邪気な楽しさを思い出したくて、話しかけたいと思った…

 でも羊司は男子に囲まれてて、骨格も声も雰囲気も変わっちゃってたから、もうそんなことできないなと思った…

 だけど、じっくり話してみてわかった。

 雰囲気や声が変わっても、男子とばっかり遊ぶようになっても、ピカチュウよりダークマターが好きになっても、見た目をやたら気にするようになっても、羊司は羊司のままだって。

 芯はかわいらしくて優しいままだって。

 ごめん、おとといあんなこと言っといてなんだけど…

 

 好きです。

 彼女にしてください」

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