第2話 なんで卒業式に来なかったの?

「俺ってここ2週間ぐらい休んでたじゃん?

 でも風邪は1週間で完治してて。

 両親はそれをいいことに、元々予定してた、消えそうな有給を使った夫婦旅行に出かけて、入学式の2日前まで…つまりあと2週間ぐらいは帰ってこない。

 卒業式になんて恥ずかしいから来るな!って言ってたからちょうどいいんだけどね」

そう言われたからって本当に来ない親、いるんだ…

「そして、それをいいことに俺はサボリ」

「まあ気持ちはわかるけどさ、元気ならせめて卒業式にはおいでよ…」

「荷物のこと忘れて、こんな日に絢音に迷惑かけたのは本当に悪かったけどさ…

 どうしても行きたくない理由があったんだ。

 実は…


 一週間伏せってる間に、3㎏太った」

「えっ?!

 普通、伏せってたら減るんじゃないの?」

「いやあ、俺って風邪ひいても食欲落ちないタイプなのよ。

 だったらカレーとか食べた方が早く治るって親が言うから、お任せして食っちゃ寝食っちゃ寝してたら、この有様」

羊司はダークマターなマント…いや、毛布をバサっと脱ぎ捨てた。

「い、いや、たかだか3㎏なんてわかんないよ、そんなに恥ずかしがることないって…」

「嘘つけ!

 もし本当に他人が見てわからないとしても、自分で制服着てみたら一目瞭然だったよ! 萎えるわ!

 絢音はスッキリ着こなしてるのにねえ!」

…そういえば。

今、卒業式帰りだから、中学の制服着てるんだっけ…

「ただでさえみんなと同じおぼっちゃんみたいなダッセェブレザー着て大人に支配されてる感丸出しなのに、更に憂鬱!

 中学上がったら髪も黒くするしさあ!」

そう言って俯いた羊司の髪は、既にだいぶ頭頂部が黒いプリンになっていた。

ある意味貴重な光景かも。

「いや、黒髪でブレザー着てても羊司なら似合うって…」

「じゃあ似合うようにしてくれ!

 外に出られないから親が残したカップ麺だのレトルトだのばっかり食べることになって、腹筋だの腕立て伏せだのしても体重が減らない悪循環なんだよ!」

「そっか、家の中で走るとかするわけにもいかないしねえ」

とんだ自意識過剰だと言いたいところだが、ダークマターっぽさへの拘りが強いだけあって、まあ私とは美意識が違うのだろう。

「じゃあヘルシーなもの買ってきてあげるよ」

「おっ、助かりーっ。

 親が食事代は置いてってるから、よろしくねー」

テッカテカでチェーンのついた黒財布からお代を渡される。

「ほんっと、そういうのばっかり選ぶよね。

 保育園の頃は私と同じピカチュウのブランケットとか使ってたのに」

「そりゃ0歳の時に親が選んだもんだろ」

「でも、卒園まで嫌がる様子もなく使ってたよね」

「ま、まあな…

 てか、お揃いだねって喜んでたよな…

 今思ったらあれ、忙しいお互いの親が、絶対うちの近くの同じ店で買ったよな!」

「だよね! しまむらかサンキだよね!」

「なのに今や絢音は、裁縫箱ピカチュウもあったのにディズニープリンセスとか選んじゃってさ、色気づいちゃってさあ」

「そんなこと言ったら羊司だって、ピカチュウがあるのにドラゴンの裁縫箱選んでんじゃん!

 それはそれで男子として色気づいてるでしょ?!」

「た、たしかに…

 そ、そうだ、あのピカチュウまだあったかなあ?」

色気づいてると言われたのがよっぽど照れ臭かったのか、慌てて話題を逸らしてピカチュウを探し始める羊司。

その後ろ姿…

身長はずっと二人とも同じぐらいなのに、肩幅に差がついたなあ…

3㎏増えたから…なんて次元じゃない気がする。

「あったー!」

「本当にまだあったんだ」

「なんだよ、今見るとちっちぇーな。

 保育園の昼寝の時なんか、俺が絢音のに潜り込んでも余裕だったのにねえ!」

そんなこともあったなあ…

心地よいあったかさを覚えると共に、先生に見つからないかと、こっちまで息を潜めて…

「で、いっつも見つかって怒られてさ。

 今思えば、あんなに怒らなくてもいいのに。

 そりゃ、今やったら問題だろうけどさ」

今…

「あっ、想像しただろ〜」

「ばっ、ばかっ…」

ピロリロリロリロ

「あっ! いっけなーい!

 もしもし…」

『ちょっと絢音、いつまで綿貫んちで油売ってんの!

 卒業記念にカラオケ行く約束でしょ!』

「ご、ごめん、急に手伝い頼まれちゃって!」

羊司のダイエットの…ね!

「すぐ行くー!」


「いいよなあ、キッズ用ガラケーだとしても、かっけえわ。

 うちは家買って金ないからダメだってさ」

あっ、そっか…

お金かけるところが違うだけで、そんなに大差ないんだなあ…

「ごめんね、カラオケ行ってきなよ」

「うん、明日食材買ってくるね」

「さんきゅ。

 できたら、女子がうちに入ってるの見られると恥ずかしいから、男装してきてくれると助かる。

 絢音だって噂になったら嫌だろ」

「そ、そうだけど、男装ったって…」

「黒字にキラキラ英字の服持ってんじゃん、あれにジーンズとか」

「よ、よく見てるね…」

「そりゃ、あれ見て、絢音にもダークマター精神あるんだなあって思ったもん」

「ない、ない!

 バランス的にそういうのも1着ぐらいあった方が面白いかなーって思っただけ!」

「ちぇっ、なーんだ」

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