第11話 フウリの悩み

「…ごめんね、言い逃げみたいになっちゃって」


申し訳なさそうに謝るエヒメ。


「いや、それは全然気にしてないよ…」


彼女は少し俯いたまま、海風に髪を揺らしていた。


再び気まずい沈黙が流れる。


俺は迷っていた。

あの日エヒメが言った言葉の真意を聞くべきかどうか。


今、フウリはある3つの悩みを抱えている。

そのどれもが、エヒメのあの言葉からきているものだった。


でも、問い詰めるなんてしたくなかった。

あのときの、苦しそうで、泣きそうな顔。

――あれを思い出すと、言葉が出なくなる。


エヒメは何を抱えているのか。

今でも、あの時の泣き顔が頭から離れない…。


たぶん、それが――俺の中で一つ目の悩みになっていた。


できれば、エヒメが自分から話してくれるのを待ちたいけど…。


いい解決策が浮かばない俺は、アインに助けを求めた。


助けて、アイえもーん。


[まったく、しょうがないなぁフウリくんは]


[そんな時には、〜♪小粋なジョーク〜(効果音付)]


感情の少ないアインのそれは棒読みもはなはだしく。

普段とのギャップと雰囲気に合わないシュールな返答に思わず――


「っん、ん”ふんっ」


シリアスな場面をぶち壊さないように、吹き出しそうになるのを無理やり咳払いで誤魔化した。


「大丈夫?」


「う、うん大丈夫。ちょっと喉に唾が入っただけだから」


「あー、たまにあるよねー」と言いながら、エヒメはまた海を眺めている。


アインさん!?


頭の中で叫ぶ俺。


[なんでしょうかマスター]


通常営業のアイン。


さっきのは何!そんなキャラだっけ!?


[マスターの問いかけに対して、適した返答ができたと判断します]


柔軟性の方向が明後日の方を向いている。


変な呼び方した俺が悪かったけど、普通に返してくれればいいから。


〚メモリを更新しました〛


……あれ、前も言ってたよな、メモリの更新。


それって何なの?


[マスターの意向を以降の処理にも反映させるために、アインのメモリを更新する処理になります]


なるほど。


それで、さっきの返答だけど[小粋なジョーク〜]っていうのは一体。


[はい。このような場合では、エヒメは心情面で本心を打ち明けづらい状態にある可能性があります。

ですので、マスターの小粋なジョークで彼女の心を解きほぐし、話しやすい状況を作り出すのが有効だと提案します]


……まさか、ふざけてるようでちゃんと考えてたなんて。


頭の中でアインに拍手を送る。


[ありがとうございます]


心なしかフフンと嬉しそうなアイン。


でも俺、こんな時に飛ばせる小粋なジョークなんて持ってないよ?


[アインが提案することも可能です。提案しますか?]


おぉ、アインがどんどん頼もしく感じていく。


是非ともお願いします!


[はい。小粋なジョークを生成しています]


[こちらはいかがでしょう?]


そうアインが言うと、頭の中に小粋なジョーク?が浮かんできた。


こんなこともできるのか…。


…えっ、てかこれ言うの?


フウリは、アインの提案に従って言葉を選ぶ。


「……ねぇ、エヒメ」


「ん?」


「おれさ……狩りは苦手だけど、君の心は一発必中で射抜いちゃったかもしれない」


……。


エヒメがきょとんとした顔でフウリを見る。


「……え? なに?」


「あ、いや……だから、その……」


あまりの寒い空気に、フウリは耳まで真っ赤になって頭を抱えた。


「うわああっ、やっぱ今のナシ! 忘れて! 風が飛ばしたってことにして!」


自分でも何を言っているかわからない。

小粋なジョークを風が飛ばしたってか?


さっきまで俺の中で上がっていたアインの株も大暴落だ。


[…]Σ(゚д゚lll)ガーン


なんか浮かんできた…。


なんて自虐しながら二人して落ち込んでいると、そんな狼狽える俺の姿にエヒメがふっと吹き出す。


「ぷっ…あはは!なにそれ、意味わかんない……けど、フウリっぽくてちょっと面白かったかも」


「ふふふ」と笑う彼女を見て俺は少し安心した。


いつものエヒメだ。


エヒメはまた海の方を向きながら、嬉しそうな、申し訳なさそうな、少し困った顔をして話し始めた。


「私ね。さっき山の村に行った時、聞いちゃったんだ。

フウリ…最近、全然山の獲物とれてないんでしょ?」


「…」


あの夜以来、弓を構えるたびに――あの泣き顔が浮かんでくる。


自分の迷いは弓にも動物にも伝わる。

それからというもの、狩りに出ても空振りばかり。


そんな風にして、俺はいつのまにか山を避けるようになっていた。

……それが、二つ目の悩みだ。


「私のせい…だよね。ごめんね、困らせちゃって」


「別にエヒメのせいってわけじゃないよ!それは俺の問題だから…」


「ふふ、フウリはやっぱり優しいね。

でも、私があんなこと言ったのが原因なんだから、やっぱり私のせいだよ」


「…」


「さっき狩が苦手なんて言ってたけど、フウリの弓がすごいことも、みんなに頼りにされてることも知ってるよ。

何年幼なじみやってると思ってるの」


そう言って笑うエヒメには、なんでもお見通しみたいだ。


敵わないなぁ…。


「フウリ、もうすぐ成人の儀式だし、このままじゃよくないって分かってるから…」


成人の儀式――


島の子どもが15歳になって成人を迎えた時に行われる行事だ。

7日間、最終日を満月の日に合わせて行われる。

子を村の果実として、成人するまで育ったことを島に感謝し、今後も元気に成長していくようにと願いを込めて祝福する儀式。

当人はこれまで培ってきた技術や知識・能力を活かし、村のため、島のためになることをする。

それを満月の日にみんなの前で村長むらおさに渡すことで、それからの島での役割や仕事が決まっていく。

一般的には親から教わったことを受け継ぐ人が多いが、小さい頃から違う分野に興味を持ったりする例外もある。


――


成人の儀式まで、もう時間がない。


俺は当然、父さんのように猟師になるもんだと思ってた。そうやって育ってきたし、自信もあった。


でも今は、自分がその道に進みたいのかどうかも、よくわからなくなってる。


けれど、これは誰かに答えをもらうことじゃない。

自分の心で決めるしかないからこそ、怖いんだ。


それが――三つ目の悩み。


エヒメを責めたいわけじゃない。

だけど、自分の中に答えを出さない限り、この問題は解決しない。


そして、それはエヒメの話を聞かなければ叶わないことだ。


それをエヒメもわかっているからこそ、こうして話しに来てくれたんだろう。


海の方からこちらに向き直したエヒメは、真剣な顔で俺に語りかける。


「フウリ、迷惑かもしれないけど。私の話を聞いてほしい」



--------------

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


フウリ&アイン

「なぁアイン、オレ…正直まだ悩んでるけど、進むしかないんだよな」

[はい。マスターの選択は、誰かの心にも響いているようです。もしこの章が響いたなら、評価やフォローという形での“応答”をお願いします]

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キミは世界を渡る者 無限の箱庭転移譚 渡り者 @watarimono

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