「俳句✕掌編= 詞綴(ことつづり)」

成阿 悟

「AI」に 「愛」の意味訊く 藍浴衣

 金魚すくいの水面が、朱に染まっている。

 あれはきっと、提灯の色。

 足元をさらう風に、裾がふわりと揺れた。

 藍色の浴衣。

 祖母が仕立ててくれたもの。

 浴衣を着るのは、今年が最後かもしれない。

 そんな気がしていた。

 配られていた紙うちわを、何気なく受け取る。

 表は明日の花火大会の広告、裏にはQRコード。

 歩く足を止めて、スマホで読み込んでみる。

 「⎯⎯こんにちは。なにかご用ですか?」

 最新AIの声は、その温度のなさが、かえって不思議な安心をくれた。

 少し迷って、それから訊ねてみた。

「ねぇ⎯⎯『愛』って、どういう意味?」

 0.5秒。

 ほんの一瞬の沈黙。

 だけど、そのあいだに、風鈴の音が遠くで鳴った気がした。

「それは……人間が、定義できないものです。」

 わたしは、ふっと笑った。

 なぜかは、自分でもよくわからなかった。

 スマホを切って、空を見上げる。

 縁日の喧騒の中、夜の空は広く静かで緩やかに流れていた。

 感じる。

 胸の奥で、小さな光がひとつ、そっと灯ったことを。

 それがなんなのか、言葉にはできないけれど——

 今夜のことを、きっとわたしは、ずっと忘れない気がする。

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「俳句✕掌編= 詞綴(ことつづり)」 成阿 悟 @Naria_Satoru

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