5.些細なはじまりの話
「というか、3日後のそれ。パーティー? 俺も行くかもしんない」
そんなアズマの一言に食べていた生ハムを皿に落としたロクロと、分厚いステーキを
「なに、アズ。会場の掃除でもすんの?」
「そりゃあ掃除屋だもん、するだろ。汚い会場に人が集まるわけないしな」
「じゃあどっかで会うかもだね、アズマ」
「ま。俺らは一番早く来て一番遅くに帰るみたいなもんだから、時間が合えば会えるよ」
そう言ってフライドポテトを口の中に運ぶアズマ。第7区画にある掃除屋ダストクリーニングがアズマの職場であり、キャッチコピーは【どんな汚れも綺麗に】という至って普通に見える店だ。だがその内容は、掃除に関する全てであり中には殺しや事件、事故処理も含まれている。
島において殺人は逮捕されるべき罪状ではあるのだが、例外があるのだ。
「んで、そっちの賞金稼ぎは近況どうよ」
「8人ぐらい突き出した。ちなみに2人が島外からの高い賞金掛けられた犯罪者」
「うわー……」
「流石カノン。相変わらずの強さですこと」
それが、賞金制度である。一定以上の犯罪を行った人間に賞金が掛けられ、その対象については例え殺しても犯罪として扱われない。ダストクリーニングの殺しの依頼も、賞金首以外は受付していないのだ。
この制度は、楽園島という国家とは違った場所が仇となって出来てしまった問題から生まれた――要は島外からの観光客や移民に混じり、国に居られなくなった犯罪者たちが集まりやすい場所となってしまったのだ。
その為一時期は、島の一部区画に犯罪者達の温床が出来てしまい、ワルキューレすら頭を抱えていたのだが――そこで生まれたのが賞金稼ぎと呼ばれる、
カノンもその一人であり、賞金稼ぎの集団ハンディマンというところに所属している。この集団は、ロクロ達と同じく逮捕権を持っておりワルキューレのライバルでもあるのだ。
「ザイアさんが唸りそうな内容だあ……」
「あー、あのおっさん? あたしは別に気にしてないんだけどね」
「そういうとこだよ、カノン……」
ワルキューレはあくまでも島の警備がメインであって、犯罪者の逮捕などは行っても大きな犯罪者にたどり着くというのは、あまりない。だからこそ、大物は賞金稼ぎ達に持って行かれている現状は、気に入らないという部分はあるのだ。
ロクロはさほど気にならないが、上司でありバディであるザイアはそう言った評判を気にしているようで、カノンの事は特に苦手意識を持っていた。
「でも、あたし達は逆に言えば島の治安を荒らすこともあるからさ? そこはワルキューレいてくれて助かってるんだけどなあ」
「そう言われるだけで僕としては有難いよ」
「俺は気持ち的にあの人の言い分、分からんわけじゃないけど。メディアが好むのは目立つ方だしさ」
「メディアだけが全てじゃない、って返せなかった。あーあ」
「よし俺の勝ち」
「勝ち負けの問題……?」
「他人の意識の問題」
へらへらと笑いながら、いつの間にか最後の一つになっていたポテトを口に放り込んだアズマ。
「問題といえば。違法武器改造業者の
「そうだけど……」
「
「あたしもそれ思った。3日間で50人以上だったんでしょ?」
「そりゃあ、僕だって気にならなかったわけじゃないけどさ。取り調べに対してほぼ全員が、『欲に抗えなかったから』、なんていうんだぜ?」
魔が差した、なんていう言葉があったとしても多すぎる人数だ。それに大半の業者が、偽造許可証を持っていたことも引っかかる。許可証自体、そっくりに作るにはかなりの技術が必要になるというのに。
それをばら撒くなんて真似、誰が考えたのだろうか。
「詐欺師グループでもいたのかな」
「もしかしたら黒幕登場なんてありそ~」
「どーせ魔法かなんか掛けられたんだろ」
「……考えが子供っぽいね、アズマ」
「アズってばガキっぽーい」
「二人して白けた顔すんなっつの!」
そう笑い飛ばしながらも、彼らの話題は別のものへと変わっていく。結局、カフェが昼の営業を終えるまですっかり話し込んでしまった。支払いはもちろんカノンのはずだったが、金額が足りないというハプニングが発生。
最終的には割り勘になったのだった。
「んじゃーな、ロクロ、カノン!」
「じゃねー。今度お金送るから」
2人と別れ、その後結局ぶらぶらと一人で買い物などをしていればすっかり夕方だ。さっさと帰って、今日はもう寝てしまおう。そんな事を思いながらロクロは、歩みを止める。
魔法、という言葉でふと記憶から抜け落ちていたあることを思い出した。
商店街の人込みに紛れていた白髪の少女の周りに飛んでいた、
「……まさかね」
楽園のラジエル 夏月あおい @natsuki09010
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