彼、葉山くんはどこで村瀬さんを好きになったのかな、とふと一話に戻って読んだ時、作者様の丁寧な描写から、すっかり彼の気持ちが滲み出ていることに気づきます。
静謐で淡々と進む会社の様子を描いた、込み入った人間関係の中に、一人ひとりに焦点を当てて、鋭くその情緒を描かれています。
一話ずつが大切なことを書かれているので、目が離せず、地の文に登場人物の心を細かく伝え、会話はそこから選び抜いた言葉が並ぶ。
厳しいようで実は外見とは裏腹に葛藤がつまっている人々が愛おしい。
大人たちの素直じゃない恋の駆け引きがぎっしり詰まった文学作品です。
ぜひ、じっくり味わって読んでほしい、オススメです。
本作は巧みな「お仕事BL小説」なのですが、その真髄はそれだけに留まりません。
この物語を読んでいると、登場人物たちの心の内を覗き見するような、背徳的な感覚になることが多々ありました。誰かが誰かに惹かれていく過程、気持ちに名前がついていく瞬間。決して外からは見えない心の動きが、リアルに丁寧に描き出されているからです。
触れた身体の骨格を確かめ合う、密やかで色っぽい時間。「身体が冷えるよ」という何気ない一言に込められた慈愛。そして、セックスの最中に自らの出生に思いを馳せる、あまりにも感動的な気づきの瞬間。
そんなシーンが、彼らの息遣い、肌の温もり、そして心の奥底の震えまでを想像できるように描かれていて、心に刺さっていつまでも抜けません。
まるで図書館の片隅で、偶然出会った名作のような風格を纏う一作。ぜひぜひ、この背徳感を味わってみてください😳
第十七話までのレビューです。
社内と自宅での人間関係と心情描写にフォーカスされた美しい文体の文芸BL。極々自然な流れで展開され、意図的な描写を感じさせない安定感が心地よく、BLを読んだことのない読者でも比較的入りやすい作風だと感じます。
主人公・葉山は高卒で入社試験をトップで新卒入社するも周りは大卒揃い。隔たりを感じ同期と馴染めず、周囲から任される仕事が増えていく。
段々と疲弊していく葉山は残業を重ね、上司の村瀬に気遣われるように。
ふと何気なく肌が触れる、労いの先々。
特別な親しさ――それは近くにいてくれる安心感と優しい言葉から生まれるのでしょうか?
施設で育った葉山は両親からの優しさと愛の温もりを知りません。そして十分に甘えさせてもらえなかったからなのか……
上司の村瀬に言葉少ないまま、どこか依存していく。この流れるような秘める欲望が息づいていく感じが堪りません。
村瀬は疲れて体調の優れない葉山を気遣い、何度か自宅へ迎え入れます。
そこで感じた優しさと温もり。
心地よさから胸の澱が溶け、抱きしめられたくて、ついには甘えてしまう。
BLの極地はまだ先々に眠っているに違いありません。
心底に眠る意識の先に横たわる特別感――距離の取り方、近づけ方、そして合わせ方。
葉山と村瀬の両サイドでこれらを丁寧に織り込み、新たな秘密を明かしていく展開――コントロール可能な愉悦と上澄みの快楽が二人を滑らせるように惹き合わせていく。
手に取るような繊細で美しい心情描写。心と身体を許してしまう魅せ方を慰めの癒しとして堪能してみてください。