童話 素敵なお誕生日プレゼント

八無茶

童話 素敵なお誕生日プレゼント

素敵なお誕生日プレゼント

               八無茶

「おばあちゃん、お誕生日おめでとう。八十三歳になったね」

「ありがとう。雪菜は一年生だね。大きくなったね」


 四月下旬の暖かい日、おばあちゃんは床の間と仏壇がある和室の掃出しを開け、庭に向かって座っている。


「おばあちゃん、何を見てるの?」

「庭のハナミズキだよ。今年もきれいに咲いたね」

 淡いピンクの花が、傘を開いたような大きな木に咲き誇っている。

「こんなきれいなハナミズキ、あと何年見れるかな」と力弱い声で独り言を言っている。


「おばあちゃん、タイムマシンって知っている?あると未来に行っておばあちゃんの生活を見てこれるのにね」


おばあちゃんは突然の話に呆れてしまいました。

「そんな事より雪菜の将来の方が楽しみだし心配だよ」


「私は中学、高校、大学に行くか就職するかはどちらにしてもその内、好きな人と結婚するんだ」


「結婚して、うまくいっているかな?」

おばあちゃんは笑顔で雪菜を見ている。


「大丈夫、うまくやれる秘訣はおばあちゃんに教えてもらっているから」

「そんな事、教えた覚えはないけど」とおばあちゃんは首をかしげています。


「パパとママが口喧嘩をしている時、おばあちゃんが言ってたじゃない。『生まれた所も違えば育った環境も違うのだから口喧嘩もおおいに結構。しかし仲良くやるにはお互い我慢、我慢、譲り合いそして許し合える事が秘訣だよ』と言ってたのを聞いていたよ」

「良く覚えていたね。いつまでも忘れない事だよ」


「大丈夫」と相槌をしてあくびをしながら、

「おばあちゃんの膝は気持ちがいいね」と言って横になり、白とピンクで淡い桜色に染まったハナミズキの花を眺めていました。



「雪菜、雪菜起きなさい。お母さんが呼んでいるよ」

目をこすりながら起きた雪菜が、おばあちゃんの目をキッと見据えて言った。

「おばあちゃんは長生きするよ」と言って、指を折り、数えている。

「八十九歳までは確実に元気だよ」突然の話におばあちゃんはびっくりしている。


「なぜなの?」

「だって中学入学の祝いにママからは最新型のスマホを貰ったし、おばあちゃんからは、まんねんひつを貰ったもん。モンブランのまんねんひつ」

「万年筆って何だか知っているのかい?」

今時は消せるボールペンや書き易いサインペン等があり、万年筆など子供が知っているわけがないと思ったからだ。


「インクを入れたら字が書けるんだろ。おばあちゃんがその時教えてくれたじゃない。

真っ黒い胴に金のリングが入っていてキャップの頭には山の頂上に雪が積もっているデザインのかっこいい素敵なペンだったよ。

私は宝物にするつもりでもらったの。嬉しかった。

それからもうひとつ。ハナミズキもきれいに咲いていたよ」

そう言い残してキッチンの方へ走って行った。


 おばあちゃんは仏壇の方に向き直り、静かに話し始めた。

「じいさんや、雪菜に最高の誕生日プレゼントをもらったよ。嬉しくて涙が止まらないよ。

また・・・・おまえさんが良く手入れをしていたハナミズキと一緒に・・・・長生きするんだって・・・・」


「しかしおまえさんが愛用していた万年筆は見せたことが無かったのに、私ですら忘れていたのに・・・・」

「納戸のどこに片づけたかなぁ。さっそく探してみよう」


 立ち上がりかけたおばあちゃんは座り直して、いつまでも笑顔でハナミズキを眺めていました。

                 完


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