イヤーワームが死んだ

硝水

🐝

 イヤーワームが死んだ。


 それは致命的なことだった。耳から外したカプセルの中で、力なく横たわるそれが。

「死なせちゃったの?」

 背後から彼女の声がして、びくつきながら振り向く。彼女の両耳には健在なカプセルと、ぶんぶん飛び回る虫。

「私のせいじゃない、こいつが勝手に、そもそもあの売人が老いた虫を」

「人のせいにしちゃダメだよ」

 ああ、ああ、ああ。彼女はこんなことを言う人間だったか?

「だって、私はちゃんと」

「ちゃんと? 同じ売人から同時に買った私の虫がまだこうして元気に生きてるのに」

 それとも、私の言葉が、彼女にはどう聞こえているのか?

「ルミア、お願い、きいて」

「聞いてるじゃない」

「それを外して」

「なんでよ。逃げちゃうでしょ」

 彼女はカプセルをぎゅっと押さえる。大切なんだ、それが、私の本当の言葉より。

「ルミア、」

「はやく新しい虫を買いに行かなきゃ。ずっとそうじゃ大変でしょ」

 イヤーワームが死んだ。私を外界から守っていたそれ。都合のいいことばかり言われて喜ぶ私を笑っていたそれ。イヤーワームが死んだ。イヤーワームが死んだ。本当の世界は、みんなが憎み合っている、もちろん私も。イヤーワームが死んだ。イヤーワームが死んだ。イヤーワームが死んだ。イヤーワームが死んでいてはいけない。

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イヤーワームが死んだ 硝水 @yata3desu

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