最終幕 -幕引き-

「22年、やっぱり短かったよ。

……でも、私は真剣に生きた。

うまくいかない日もあったけど、笑った日も、悔しかった夜も、全部ぜんぶ、ちゃんと刻んでた。——だからね、胸を張って言えるんだ。『いい人生だった』って。」


スクリーンを見つめるユイナの横顔は、もう迷っていなかった。


そして、もう何も映らないスクリーンを見つめながら、静かに微笑んだ。


「こんなふうに最後に振り返らせてもらえるなんて、思ってもみなかった。……なんだか、ご褒美をもらったみたいだね。

大事に抱えてた思い出たちも、忘れようとしてたあの頃のことも、ちゃんと観ることができてよかった。」


ユイナは少し言葉を切ってから、しみじみとつぶやく。


「……それに、“もしも”まで見られるなんて。悠歩くんと、もうひとつの未来を歩いた私。懐かしい日々の続きが、あんなふうに広がっていたかもしれないなんて、……ほんと、嬉しかったな。泣いちゃった。」


少しだけ鼻をすすり、誤魔化すように小さく咳払いをする。


「ソウマ、ありがとう。

あなたが案内してくれて、ここでちゃんと“私”を見届けることができたから、私は心から言えるよ。安心して、次に進める。」


その言葉を聞いて、ソウマの表情に、やわらかな光が差す。


「その言葉が聞けて…本当に良かったです。


それでは、ユイナさん…名残惜しいですが…


——これにて、上映は終了です。


足元にお気をつけて…


いってらっしゃいませ。」


ソウマの声は、深く優しく、まるで抱きしめるようだった。


ユイナはそっと立ち上がり、もう一度だけシアターを振り返る。そこには、たしかに自分の歩んできた人生があった。


涙も、笑顔も、叫びも、沈黙も、愛しさも——ぜんぶ。


2人は次の扉の前まで歩き、ユイナは一歩、その先へ踏み出した。




ゆっくりと、空気が動く。





扉が閉まる音は、まるで本の最後のページを閉じるようだった。






一つの物語が、静かに——幕を下ろす。






シアターのなかに、再び静寂が戻る。


ソウマはゆっくり瞬きをし、そして場内を見渡す。


カーペット敷きの館内をゆっくりと歩く。静かさで耳がキンとなる。


また、赤い椅子のひとつに、ぽつんと佇む新たな人物の姿。


ソウマはそっと歩み寄り、微笑みをたたえて言葉をかける。


 


「初めまして。」


突然の問いかけにその人物の目は戸惑いに揺れ、まるで世界から取り残されたかのようだった。


ソウマは続ける。


「ようこそ…ここは現世と次の世界を繋ぐスキマです。


——残念ですが、あなたは亡くなりました。」


また、新たな物語の“上映”が、ゆっくりと始まろうとしていた。


 

〈了〉




*.°✴︎あとがき+°;✴︎


まず初めに。

私の拙い文章を読んでいただき、本当にありがとうございます。


構想はずっと前からありましたが、実際に創作に取りかかり、最後まで書き切れたのはこれが初めてです。

自分でも驚いていますし、同時に、この物語がどんなふうに受け取られるのか、少し怖い気持ちもあります。


初めて世に出したこの作品、ブラッシュアップしてnoteにも掲載予定です。



「過去と未来、行けるとしたらどっち?」

そう問われたら、私は迷わず「過去」と答えます。


大切で愛しい思い出たち。

匂いや風景とともに心に残っていて、時折その懐かしさに胸が締めつけられます。

本作には、そんな私自身の記憶や感情が多く混ざっています。

登場するスーパーや花の匂い、思春期のやりとり、通信手段の変化。

あの頃の空気を、少しでも感じていただけたなら嬉しいです。


本作の舞台は平成、私が生まれ育った90年代から2010年代初頭ごろの空気を纏わせています。

閉鎖的な環境や災害、不安な出来事もありましたが、美しい記憶もたくさんあります。

失敗も、迷いも、無意味じゃなかった——。

そう思える今だからこそ、愛しい時間を物語に込めました。


また、物語のもう一つの軸、「死後の世界」は、身近な人を見送った経験から想像したものです。

もし本当に、死後に小さな映画館のような場所で、自分の人生を振り返ることができたなら…それはきっと、静かで優しい時間になるのではないかと思います。


そして、現在進行形で私の人生は進んでいます。

小学生になった我が子を見ていると、自分の子ども時代がよく蘇ります。

連絡帳の書き方や、行事、遊びの話。

まるで、もう一度あの頃をやり直しているようで楽しいです。


そして、親にしてもらったことを、今は自分が子どもにしてあげたいと思う、そんな循環が愛おしくて幸せです。


きっと、今この瞬間も、

10年後にはかけがえのない記憶になっているはず。


だからこそ、あたりまえの毎日を、大事に抱きしめながら生きていきたいと思っています。


——


最後に


重たいテーマを含む物語ではありますが、

それでも、私はできるかぎりの愛と誠実さを込めて書きました。

この物語が、どこかで誰かの心にそっと触れることができたなら、これ以上に嬉しいことはありません。

本当にありがとうございました。






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エターナルシネマ-死後の映画館で、私の人生を辿る- ちぬのうみ @chinu583

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