色々極めすぎた僕、凡庸な冒険者に擬装中。〜その正体を垣間見せるのは、パーティの勇者が危殆に瀕する時〜
茉莉鵶
第1話 僕は凡庸な冒険者に擬装した
いつかのどこか────
──ザッ…
「た、頼む…!!い…命だけは!!」
──スッ…
「あっ、そうなのぉ?!別に良いよぉー?うーんっ…でもなぁ?あっ、そうかぁ!!じゃあさぁー?君の命に相応する何か、くれるぅ?」
「ああ、良かった…!!ワタシは悠久の時間を長く生き永らえてきたが、き…キミのような規格外な○○など、相手にしたことなんて一度も無かった…!!本当に完敗だ…。」
「僕ねぇ、気が短いんだぁー。」
──ザッ…
「ま…待ってくれ!!究極スキルとかでも良いかな…?そうだ!!“【真】擬装”でも、良ければ…どうかな…?」
「おおーっ!?本当に良いのぉー?!でもさぁ…?それだと君ぃ、今後は真の姿を完全には擬装出来なくなるよねぇ?だって究極スキルってさぁー?この世界では唯一無二で、譲渡して継承して繋いでく系のスキルでしょー?」
「い、命がここで…!!こんなところで…!!無に還るよりマシだ!!だ、だから…素直に受け取って欲しい…。“譲渡:【真】擬装”!!」
──ピコンッ…
──『究極スキル“【真】擬装”が譲渡されました。』
「ありがたく使わせてもらうねぇ?僕は、貰うものも貰ったしぃー?これで帰るとするよーっ!!もう、君とは二度と会わないと思うけどねぇー?」
「き、今日は助かった!!キミのことは、配下の誰からも手を出させないと、今ここで誓おう。」
「じゃあ、じゃあっ!!もしもぉ、僕に手を出してきたらさぁー?その配下のことはぁ…僕の好きにして良いよねぇー?」
──ゴクリッ…
「あ、ああっ…!!キミの好きにして構わないさっ!!この私が、キミの前では赤子同然。命乞いするくらいなんだぞ…?」
「はーいっ!!じゃあねぇー!!」
──ビュンッ…
そして現在────
ある目的の為、色々極めすぎた僕は、自分的にはほんのちょっとした野暮用な感覚で、パーティも組まずにたった一人だけで、とある場所へ赴いた時のことを、ふと思い出していた。
あの日のおかげで、今の僕があるといっても過言ではないだろう。僕一人で、あの場所を訪れなければ、絶対に成し得ることはなかった。
この世界では、ただ一人のみ習得可能な究極スキルである“【真】擬装”も、譲渡されることなく討伐され失われていた事だろう。
あの後、僕と別れた“君”がどうなったかは、いずれ分かるだろう。
僕はといえば、あれから直ぐにひと気のない場所へ、真級スキル“空間転移”で移動すると、究極スキル“【真】擬装”を試した。
因みに、魔法やスキルについては下級、中級、上級、特級、真級、究極の六つに分類される。
特級までは、素養さえあれば努力次第で習得可能だ。
“空間転移”のような真級は、世界で僅少だが複数存在が確認されているが、習得には真級の所持者を殺害するか、譲渡させることでしかできない。
既述の通り、究極は世界に一つしか存在せず、譲渡させることでのみ習得が可能となっている。
真級スキル“空間転移”については、過去に魔族を討伐した際、勝手に習得したスキルの一つだが、何かと重宝している。
この辺で話を戻すが、究極スキル“【真】擬装”の能力は外見を変えるだけでなく、表向きなレベルや能力、所持魔法やスキルまでも、自由に設定することが出来る。
だから、スキル使用中に“能力鑑定”スキルや、“能力解析”魔法を、万一掛けられたとしても絶対にバレることはない。
“擬装”スキルは存在するが、あくまで相手に外見を変えたように見せているだけなので、背などは変更する事が出来ない。それに“真贋“スキルや、“心眼”魔法を使われれば、一発で正体がバレる。
そんな“【真】擬装”スキルのおかげで、僕は凡庸な冒険者に擬態し始めることになった。
まずは手始めに、僕が野暮用と呼んで赴いたあの場所から、拠点としていた冒険者ギルドのある街へは、元の姿では戻ることは二度としなかった。
それから一週間ほど経った頃、僕が戻ってこないと宿屋の主人から冒険者ギルドへ連絡が入り、大規模な捜索が行われた。その捜索には、参加するだけで報酬が貰えると耳にした僕は、擬装した冒険者の姿で参加を行ったのだが、自分自身の捜索を行うのはとても滑稽で笑えた。
しばらくの期間、冒険者ギルドは僕の捜索を行った後、正式に僕の作戦行動中行方不明が認定されると、後任の選定が行われ、表舞台から姿を消すこととなった。
ようやく僕は、自分を取り巻く環境からの、色んなしがらみから解放されたのだった。
それまでの僕は多忙を極めており、知らぬうちに疎かになってしまっていた本来の目的を成就させるべく、その答えを見つけるためにも、無計画ではあったが世界を巡る旅に出たのだ。
はじめのうちこそ、噂話だけを頼りにひとり行動していたのだが、現在では各地の冒険者ギルドなどで稀に募集されることがある、高難易度な依頼のパーティに参加するようになっていた。
まずは、採用される確率を上げる為、募集中のパーティの中で不足している職を、独自に調査するところから始める。
冒険者ギルドや酒場に通い、ある程度狙いが定まったところで、参加条件を最低限満たすレベルの冒険者に擬装する。
そして、冒険者ギルドにはその姿で登録を行い、募集中の依頼を受けてみたいと申し出るのだ。大概の場合、その日のうちにパーティリーダーとの面接する場が設けられることが多い。
大体、こんな感じの流れを経て、僕は少しでも目標の答えに近づく為にも、高難易度な依頼に挑むパーティへと潜り込むことを続けている。
そんな僕の正体や真名を知る者は、当然のことながら存在しない。
正確には、間近で僕の正体を垣間見た者は、確かに存在“した”ことは何度かあるのだが、幸か不幸かそれはパーティの勇者が危殆に瀕した時なのだ。
「勇者さん、頑張ったねぇ?あとは僕に任せてぇ!!冥土の土産になるかなぁ?これは勇者さんだけの特別だからねぇ!!」
自らの正体を明かした僕は、もう命の燈も消えかけ、無惨な姿で横たわる勇者の代わりに、敵の前へと立ち塞がった後、必ずそう声をかけるのだ。
「さてぇー、君はどうするのかなぁ?自分の未来を選ばせてあげるよぉ?」
勇者への声かけが終わると、今度は敵に向かって声をかけるのだが、物分かりが悪い場合が多く、僕へは返事ではなく攻撃が飛んでくることが殆どだ。
例の野暮用で僕だけで赴いた際、対峙したあの“君”の物分かりが良すぎただけかもしれないと、薄々勘付いてはいるが、懲りずに声かけは続けている。
そういう訳で、声掛けして攻撃されてしまった場合は、僕は交渉決裂とみなして一切容赦はせず、命乞いされたとしても覆ることはない。
途中で命乞いするのであれば、こちらは交渉するつもりなのに、最初からそうすればいのに機会を自らふいにしているだけだ。
敵前逃亡を図ろうとする勇者や敵もいるが、勇者が敵と一対一で戦う際に“英雄空間”というスキルが発動する。勇者とその相手のみが、特別な空間へと飲み込まれていき、どちらかが雌雄を決するまで抜け出すことは不可能となる。
ただ、降参も可能ではあるが、“英雄空間”が発動された時点で、天の声によって周辺地域へ知れ渡る為、勝敗の結果も当然知れ渡ることになる。
話は戻るのだが、戦闘不能な勇者の代わりに敵と対峙した僕が、雌雄を決する攻撃を放つまでは、ほんの一瞬のことではあるのだが、その間に勇者は息絶えてしまっている。
しかし、天の声は相打ちと判定することで、“英雄空間”の効果が終了し、特別な空間からは息絶えた勇者が現れるのだ。
「デュレス!!正式にパーティへの君の参加が了承されたんだ。宜しく頼むね?」
「ありがとうございます。宜しくお願いします。」
そして現在、相変わらず凡庸な冒険者に擬装中の僕だが、たまたま勇者パーティへの参加が決まった。
今の僕の名前はデュレスといい、職は治癒士ということになっている。
色々極めすぎた僕、凡庸な冒険者に擬装中。〜その正体を垣間見せるのは、パーティの勇者が危殆に瀕する時〜 茉莉鵶 @maturia_jasmine
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