最終話 忘れたくないこの日

 魔王城の重厚な扉をくぐり、レオンたちが足を踏み入れた先──


 そこには、かつてレオンが幾多の試練を越えた先にあったあの闇のような空間が、まるで夢の中のような光景へと姿を変えて広がっていた。


 天井からは淡く輝く光の結晶が浮かび、空間全体を優しく照らしている。魔法で編まれた布が波のように揺れ、壁には無数の小さな光の花が咲いていた。荘厳でありながら、どこか懐かしく、そして温かな雰囲気に満ちている。


 中央には大きな円卓が用意されており、その上には色とりどりの料理が所狭しと並べられていた。焼き立てのパン、香ばしいローストチキン、彩り豊かな前菜に、季節の果物を使ったデザートまで──どれもこれも、レオンの好みに合わせた品ばかりだ。


「……皆がここまで用意してくれていたなんて……」


 思わず息を呑んだレオンの横で、リリスがウインクを飛ばす。


「せっかくの記念日なんだもの、これくらい華やかにしなくちゃね!」


 その瞬間、軽快な音楽が魔法の楽器から流れ始め、宴がゆっくりと始まった。


 レオンたちはその日、政務のことも、肩書きも、すべてを忘れ、ただ一人の“仲間”として、互いの存在を祝い合った。


 談笑しながら杯を交わし、時折腹を抱えて笑い、食べ、語り、思い出を振り返り……心からの穏やかな時間が流れていた。


 そして、宴も佳境に差しかかった頃。


 レオンはふと、席から立ち上がり、仲間たちの顔を順に見渡した。月明かりと魔法の光が交差するなか、彼は感極まったように言葉をこぼす。


「……こんな仲間たちに囲まれて……君たちと出会ったことは、一生の宝だ。」


 その素直な言葉に、誰もが笑みを浮かべた。


「ふっ、それはお互い様だ。」


 ディーは相変わらず表情を崩さなかったが、その声音にはどこか微かな照れが滲んでいた。


 すかさず、すでに酔いのまわったゴーンが豪快にレオンの肩に腕を回し、豪快に叫ぶ。


「そーだそーだ! 俺たちだって、レオンの仲間になってよかったって、心から思ってるぜ!」


「ぐっ……ちょっと、重い……!」


 レオンがややたじろぐなか、アゼルは静かにナイフでステーキを切り分けながら言葉を添えた。


「……俺としても、立派な王の下で国を治められることを、誇りに思っている。」


「皆、よせよ……そこまで言われると、流石に大げさだ。」


 レオンが顔を少し赤らめながらも、どこかうれしそうにうつむく。


 そこへ、満を持してリリスが追撃する。


「ふふっ、レオンったら照れてるのね。可愛いじゃない。」


「くっ、リリスまで……」


 盛大な笑い声が、広間に響き渡る。


 夜は更けていった。杯が進むたびに話題も移ろい、語られるのは過去の苦労や未来への夢。誰かが笑えば、誰かがそれに続き、自然と心が通い合っていく。


 この一夜は、彼らにとって何にも代えがたい記憶となった。


 王国解放という偉業を果たした英雄たち。


 だが、彼らは何よりも、互いを信じ合い、支え合い、共に歩む“仲間”であった。


 そしてその絆は、これから先どんな困難があろうとも決して揺らぐことのない、確かな礎となっていく。


 笑い合いながら、肩を並べて過ごしたこの夜──

 それは、王国にとっても、彼ら自身にとっても、永遠に輝き続ける“新たな歴史”のはじまりだった。

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新たな王冠と四色の宝石 〜暁の勇者と闇の眷属〜 飯田沢うま男 @beaf_takai

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