名探偵、楽々羅烏の殺害

@DachoDancho

殺害

放課後、図書委員であることをいいことに、図書室を占領し本を読んでいる二人組がいた。

「先輩!先輩の先輩のこと教えてください!」

「なかなか紛らわしい言い方をするなお前は」

「暇でしょ?話してくださいよ、はよ、はよ」僕のことをなんだと思ってるんだ。そんな都合よく暇なわけないだろう?


「暇なので話してやろう」都合よく暇であった


「そうだな……ここから大体千文字くらい話すぞ」そこから先は、触れてはならない、火傷やけどしてしまう。



****



現在放課後、僕こと鶯谷うぐいすだに隼人はやとは、変人名探偵兼図書委員長、白でかパーカーを常に着用した小柄で童顔の先輩、楽々羅らくらくらからすとともに、図書室を占拠していた。

各々小説を読んだり、駄弁ったり。

家では親がうるさいので、この時間は割と好きだったりする。


「実は今日ここを占拠したのはちゃんと理由があってだな」

いつもは理由がない。ページを捲る手を止め顔を上げる、まあろくでもないことだとは思うが。

「じゃじゃーん!今日はこの依頼を一緒に解こうと思ってな」

そういうと烏は茶封筒を取り出す。


この女は私営探偵を勤しんでいるらしく、時たまこのような依頼を持ってくる。守秘義務は?と聞いた時に返ってきた答えは「お前を探偵事務所の一員に登録してるから大丈夫だ」だった。

他人に漏らしちゃダメだけど身内ならいいってか?なんで勝手にそういうことするかな、わくわくするじゃんか。

「それじゃあ開けるぞ」

烏が封筒に指をかけ、ひっぱる。

中から出てきたのは謎の文字列。と、21×21の方眼紙。謎の文字列は大体100~200桁だと思われる。

「依頼主からはこの暗号を解いてほしいとだけ聞いている」

謎の文字列に法則などはないように見える……しかし烏はもうすでにわかってしまったようだ。

「暗号自体は簡単だな、しかしめんどくさい、非常に」

そういうと烏はおもむろにスマホを取り出す。なぜ中学校にスマホを持ってきているのだろうか?まあ放課後の図書室にくる先生なんていないから基本見つかることはないのだが……それに、前に司書の先生に見つかったときは、なんか普通に許してくれたし。

「よし、できた」烏は忙しなく動かしていた指を止め、こちらに画面を突き出してくる、そこにはメモ帳のアプリが開かれていて、1111101011…と0と1が続く文字列が表示されている。二進数であることはわかるが……あぁそういうことね。しかしめんどくさい。こんなことしたら気が滅入るな。そう思っていると、烏はすっと21×21の方眼紙と、どこからともなく鉛筆を出す。なぜか「んっ」とウィンクする烏、しかしフードでほぼほぼ見えない。掲げられたスマホに表示された文字列を脳内で変換しながら方眼紙に書き入れていく。気が狂う!気が滅入る!吐き気がする!

どれくらい時間が経っただろうか?まぁ、別にそこまで時間がかかる作業でもないんだがな。

0は何も書かず、1はマスを暗く塗りつぶす。二進数で表示された441文字を全て書き終えた時、そこにはQRコードが現れた。

「ありがとな」烏はすぐさまQRコードを読みとる。

「すまん鶯、方眼紙を三つ折りにして封筒に戻しておいてく……れ……?」


烏の視線は画面に釘付けられ、瞳孔が大きく開かれている。額からは冷や汗が吹き出し、全身から血の気が引いていったかと思うと、烏はその場で膝をつく。片手で持っていたスマホを両手で握りなおし、絶え間なく浅く細かい呼吸をする。しかし、烏の視線は画面から離れない。烏の目はとうに光を失い、何かをぶつぶつと呟いているようにも見える。

「おい、烏!大丈夫か!」

あのQRコードには何が……いや、今はそんなことはどうでもいい!

烏の肩に手を置き後ろから声を投げかける

「烏!おい、烏!?」続けて声をかけていると、烏がぐるっとこちらを向いて手を伸ばしてくる。よかった、気がついた。

そう思ったのも束の間、伸ばされた腕は僕の首に絡みつき、そのままの勢いで僕は押し倒される。

「ぐぅ……!」

首に絡まれた腕は力を増し、僕の首を強く縛り付けた。声にならない声、嗚咽混じりの悲鳴は、烏の耳にさえ届かず、ただただ張り詰めた空気に飲まれていく。抵抗….!そんな考えが脳裏によぎる。瞬間僕の腹に片足が乗り、瞬間的に体重がかけられ僕の腹部を強烈に圧迫する。

「うぁがっ……」今度は、声が出た。烏は、笑っている。清々しい笑み。そんな顔するんだな……。その時、烏の顔に傷を見つけた。さっきのウィンクのときはすぐ目を逸らしたから気づかなかったが、と言うか、いつもフードをかぶっている烏の面をまじまじと見るのも初めてだ。

「ぅうっぐっ……」さらに力が増す。さらに高らかに笑う。抵抗……!そんな考えがもう一度頭をよぎる。しかし僕の意識は、ゆっくりと、ゆっくりと、薄れてゆく。最期にみた烏の顔は、何故だろう。

とても、美しかった。






楽々羅烏は、殺害に悦びを感じる。

烏は笑う。何もかも忘れるために。こうやっている間は、素の、自分が出せるから。首から手を離し、笑う。放課後の図書室には誰もおらず、ただ、私の声だけが響いている。誰の耳にも届かず、ただ部屋の中に、響いている。笑いは止まらない。





んっ……ここはどこだ?僕は……誰だ?

なんちゃって。記憶喪失なんてそう簡単にはならない、僕は鶯谷隼人だ。

意識が戻ると、そこは保健室だった。

何があったっけ……カラスに首を絞められ、腹を踏まれ、意識を失った。あれ?烏は?

「気がついたみたいだね、隼人くん」保健室の先生の声は、なんだか安心する。

「あっすいません、ちょっと寝ちゃってて」

ちらりと見た時計の短針は5を指していた。

「何もないならよかった、気をつけて帰るんだよ」

「すみません、ありがとうございました」一礼して保健室から退出し、そのまま帰宅。


21×21の方眼紙を印刷し、記憶を辿ってQRコードを描く。一度描いたものだからか、さっきよりもずっと早く描けた。気色悪いウィンクがいなかったからかもしれない。


それを読み取り、動画を再生する。

とあるアパートが火事で焼失するまでを録画した24分19秒の映像だった。

この映像、どこかで……。

しかし、烏が豹変した理由がさっぱりわからない。どうして、あそこまで?

何かある。僕は家中を引っ掻き回して、一年前あたりの、いや足りない。過去二年間の古新聞を集める。うち、新聞捨ててないのか?探せば探すほどボロボロと古新聞が出てきた。さてと、軽く目を通すだけでいい。自室に山のように新聞を持ち込み、読んでは|傍〈わき〉に避け、読んでは避ける。幼稚園児バスに放置、これは虐待か……ちがう。小谷またもホームラン……ちがう。児童虐待の秘密、五人の子供にインタビュー……。ちがう……いや違くない。いや間違い、違った。


なかなか目的の記事は出てこず、次に時計を確認した時、針は"5"を指していた。

オールかよ……まぁいい、目的のものを見つけた。だが、たりない。

城谷荘炎上事件。二人死亡、今年の3月4日の午後、近隣住民が通報したが、建物は全焼、二人死亡。放火の疑いあり。割と近くで起きたから地方ニュースで連日報道され、映像を見たことがあった。あぁ、最近の新聞から見ればよかった!二年前の4月から確認するんじゃなかった! はぁ、まあ見つかっただけいいか。


自転車にまたがり強くペダルを踏む、初速の不安定な車体が徐々に安定していく。初めていく場所だ。それにまだただの仮説

「っと」ふんっと力を込めペダルを踏み込む、踏み込めば踏み込むだけ進み、そのぶん疲れがたまる。かなり息が荒くなったあたりで目的地に辿り着く。

「はぁ……はぁ……ここか」

「おや、こんな早い時間に散歩かい?」どちらかと言うとサイクリングだ。

自分の家の前をほうきではくおばあちゃんが声をかけてくる。

「おはようございます、一つ質問いいですか?」ほうきのおばあちゃんは快く質問を受けてくれ、その答えは僕がここに来た意味を確かにした。

お礼を言って、その後うしろに振り向くと、そこは大きな焼け跡、ここが、城谷荘炎上事件の跡地だ。

そしてその横の、小綺麗な木の小屋に入る。

「あはは、来ると思ってたよ」

「まだニッコニコだな。俺を締めるのはそんなに楽しかったのか?」

そこには僕が最期に見た、あのかお楽々羅烏の姿があった。

「何からここがわかったんだい?」笑いながら、おどけて問う。

「簡単な話だ、新聞であの映像がどこの何かを調べたんだよ」

「簡単な話か?ネットで調べても出てきただろうに」

「あんな映像じゃネットで情報を探せないんだよ、一応画像検索はしたが、出てきたのは燃える家のフリー素材だけさ」

「ははっ笑えるな」

「笑えないな、全く」

「で、何しにきたの?殺されにきた?」

「まさか、僕に自殺の趣味はないよ」少しおどけて僕は言う。

「まあ話の続きだ、話せよ、ほら」

「続きも何もアレで全部さ、気になったから調べた。で、新聞で見たからここに来た」

「全部わかっててか?」

「今全部わかった」

「はいはいそうですか、じゃあ確認でもしようぜ」烏は手で"カモン"と言う。僕は"質問"でそれに答えることにした。

「お前は人を殺したことがある?」

「YES」

「それは意図的に?」

「YES」

「それは焼死?」

「YES」

「それは……」少し躊躇う。しかしもうここまで来たんだ、その必要はないことに気づく

「それは両親?」

「YES」

烏は一際大きく笑みを浮かべる、最期にみた、あの表情だ。

そして全て予想通り。僕の仮説が正しいことを、今目の前の殺人鬼が証明した。

情報というのは、数が命だ。あと記憶力。合計638枚の新聞紙で、欲しい情報が書かれていたのは7枚ほど、事件の進展などでの追加もあるため、実際の情報数で言えば二つだ。


【街頭インタビュー】虐待についてどう思いますか、親と離れ遊んでいる子供に聞く

R.Kさん(14)「私は親が怖いので図書室に毎日通っています、一緒にいる時間はできるだけ減らしたいですから」(その後記事が続く)

【城谷荘炎上、死亡者二名】

(前略)昨夜近隣住民の通報により消防隊が出動しましたが、建物は全焼、二名の死亡が確認されました。(中略)DNA鑑定により、死亡したのは楽々羅辛峰つらみねさん(31)、楽々羅翠斗すいとさん(42)と判明しました。警察は(その後記事が続く)


虐待。楽々羅烏を殺人へと突き動かすそれが一体なんなのか、僕は知らない、知ろうとも思わない。だがそれは確実に、俗に言うトラウマになっているし、見える形で残っていて、そしてそれを見られたくないという思いを植え付けている。そして、常に感情を押し殺し、過ごしている。

僕の命に手をかけた烏の笑みは、今までに見たことがないくらい綺麗だった。楽しげで、美しかった。

記憶の牢獄からの解放。まるでカセットテープを流したかのような記憶の再現。首に手をかけ、押し倒し、強く絞め、腹を踏み、殺す。僕も、そうやって。


「今回の事件は……こうだ。城谷荘が放火され、炎上しているところ、楽々羅夫妻はたまたま逃げ遅れ焼死。以上」

僕が情報をまとめ、その結論を論じるまでの時間で、烏は落ち着きを取り戻していた。


「烏……僕はお前が嫌いだ」


しかし今回の件で僕は考えを改めることになる。そう僕は……お前のことが大嫌いだ。

あんな楽しそうな面できるのに、いつも気怠げな雰囲気なのが嫌いだ。謎解きの手伝いばかり求めて、自分のことを何も語らないところが嫌いだ。ここまでこき使って、全く頼ってくれないところが嫌いだ!


彼女は、下唇を噛み締め、落ち着いたトーンで言う


「烏。私も、嫌いだ」声が、肩がじゃっかん震えている。

「死にたいか?」

「まさか、私に自殺の趣味はないよ」少しおどけて奴は言う。

「そうか、」

僕は烏の首に手をかける。そのか細い円柱を、強く握りしめる。呼吸の音に唾液の音が混ざり始める。一瞬、苦しそうな表情を浮かべるが、すぐ微笑む。これで、いいのだと。記憶の牢獄の改築。まるでカセットテープを流したかのような記憶の再現。首に手をかけ、押し倒し、強く絞め……そこで手を離した。烏はその場にへばりつき、フゥ、フゥと呼吸をしていく。

「これでチャラだ。」

「うふふっ……ありがとう、鶯」今まで見た表情のどれとも違う、悲しげな笑みを浮かべる。


記憶喪失なんてそう簡単にはならない。

しかし、記憶を乗り越えるというのは、いや、そんな大層なものではないか。

"塗り替える"というのは簡単だ。より強い、同じ色のペンキを使えばいい。


塗り替えた先にあるのは完治じゃない。でも僕は今、目の前の人間に対してこう思う。


殺人癖をもっているだけの、ただの探偵女子中学生がいる。

そしてもう何度か見た笑みを浮かべている。

この笑みを見るのが、最期だけじゃなくて良かった。

僕は本気で、死ぬほどそう思っていた。

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