AIのこもった贈りモノ。

さんまぐ

AIのこもった贈りモノ。

結婚生活20年。

夫の頭が草原から地肌の目立つサバンナになり、階段で先に降りるのを嫌がるようになってきた。

2人の子供達もようやく高校生になり、アルバイトを始めて、小遣いの心配がなくなった。その代わりに食事の時間がバラバラになって、いつまでも洗い物ができない不満は止まらない。

そして私といえば、年々健康診断の結果が悪くなる。


そんな今日この頃。

遂にこの日がやってきた。


【義母の旅立ちの日】


「長かった」とは言ってはいけないが長かった。

コイツは悪魔と契約していて決して滅びないのではないかと思ったこともあった。

それくらいしぶとかった。


まず、フラフラと危険な自転車運転中に、結構な速度のタクシーに引っ掛けられて、擦り傷だけで生還した後の「よし!自転車新しくなったわ!」で、「おいマジか」と呟いた。


その後も季節性の風邪やインフルエンザにもかからない。


コチラが家族4人でインフルエンザで死にかけていても気にせず遊びに来て、喋り倒して帰る蛮行に出てくれた。


あの時は夫と共に殺意が湧いた。

熱が辛くて頭から身体から痛がる子供達を「気のせいよ」、「近頃の子ども達は軟弱ね」と笑い飛ばした顔面に拳をめり込ませたかった。


普段温厚な夫が「全身の骨を粉々にされたくなかったら、今すぐ帰れババア」と恫喝してくれた時には惚れ直した。

だがまあ「もう、今更反抗期?ダメよ息子ちゃん」と言って、笑い飛ばした義母は帰ろうとしなかった。


しかし、20年も義理親子をしていれば関係性はできていた。


ムカついた時には「お義母さん、ムカつきますよ」と言って、明るい雰囲気で笑いに変えながらコレでもかと言ってやったりした。


とにかく、口が悪く、空気が読めない義母には口が悪い嫁になってやった。


形ができていて、まあそれでもいいか、このままやっていくのも悪くないだろうと思った時もある。


だがまあ、基本的に口は出しても金は出さない婆さんで、自分を世界の主役として考えている絶対主人公スキルの持ち主で、子供達からは忌み嫌われていた。


上の子でいえば、小学校一年生の時に学校の展覧会で絵が金賞を取った。

それをまだ何も本質が見えていない子供心で「お婆ちゃん、お爺ちゃん、絵を見にきて」と言ってしまった。


その日が好かれていた、最後の日だった。


「まあ!上の子ちゃん!私の為に金賞を獲ったのね!ありがとう!」


この言葉に上の子は本気で固まっていた。


そして、それは展覧会でも他の保護者達に「私の為に金賞を獲ってくれた」と自慢しまくっていて、必死に当時存命だった義父が、上の子に「婆さんは言葉足らずなんだ…言葉を知らないんだ。勉強ができないんだ」と言って慰めていた。


それしか慰めようがなかった。



そう、子ども達の行事も「この私の為に」と本気で思っていた。

下の子はまだ要領よく、婆さんとはそんなものかと思っていて、ここら辺では何もなかった。


だが、キレ散らかしたのは、幼稚園年長さんの時だ。

誕生日プレゼントをねだった下の子は若干6歳にて、殺人鬼のような顔をした。


下の子が欲しがったのは仮面デストロイヤーの変身ベルト。


コレがまた根深い話だった。

幼稚園年少では「まだ下の子ちゃんには早いわよ」と言って変身ベルトを買ってくれなかった。


買ってくれなかったならまだしも、私達が買うことすら「まだ早い」と言って認めずに、下の子に変身ベルトを強請るなと、誕生日プレゼントなのにごちゃごちゃ言い、仕切り倒した。


当然、私たちも私の父母たちも買ってやると言ったが、バレるとうるさいからとわずか4歳が我慢をして、折衷案で私の父のモノという名目で、私の実家に変身ベルトを買い、遊ばせてもらう名目で、置かせて貰って、義母に怪しまれない範囲で遊びに行って変身することしかできなかった。


もう、こそこそと変身できる日を楽しみにしている下の子の姿は、隠れて不倫している中年男性みたいで居た堪れなかった。


年中も「それはお兄さんのオモチャじゃない?」で断られていた。


そして年長ならと、誕生日を待ちに待った下の子は、「遂にきた!買うがよい!仮面デストロイヤー涅槃の変身ベルト!オプションの戒名セットまで買わせてやる!」と意気込んだのだが、「それは子供のオモチャよ?下の子ちゃんは、もう来年小学生のお兄ちゃんでしょ?恥ずかしいからやめなさい」と言われ、更に「嫁子さん、嫁子さんなら、わからなくても仕方ないかもしれないけど、きちんと躾けなきゃダメなのよ?」と私までdisってくれた。


このお誕生日プレゼントイベントが実はウルトラゴミイベントで、義母は無条件の手放しで買ってくれる訳ではない。


プレゼンテーションをして、熱意を伝えて、どれだけ欲しいかを訴えて、それでとりあえず馬鹿にされて断られる。

そんなシステムだったりする。


それは私もやられた。

結婚当初に本性を表した義母にやられた。


「夫婦生活に必要なモノを買ってあげるわね」

「掃除機?うちも新しいのが欲しいのよ。息子ちゃん、買ってよ。そうしたらウチにあるやつはまだ使えるからお嫁ちゃんにあげるわ」

「ほら、もう買ったからお金持って引き取りに来て」

「来てくれないから持ってきちゃった。お・か・ね☆」


今も耳に残るあのムカつくヴォイス。

今でもはらわたが煮えくり返る。

ちなみに掃除機は即日リサイクルショップ送りにした。

義母が請求してきた代金は夫が滅茶苦茶怒り狂って、義父が仲裁に入る形で有耶無耶にした。


もう、子供達にも、家族でいる限り隠し通せるモノではないので、ありのままを喰らってもらった。


お誕生日プレゼントは本気でクソイベントだった。

正確には「義母が買いたいモノを言い当てるクソゲー」でしかない。

そしてそれを気持ちよく買って「孫ちゃん達の欲しいものを買ってあげたの」と狂った認知で自慢しまくる。


本気で認知を疑って、夫に「お義母さん、病気とか…」と言ったら「昔からアレだ、マジムカつく」と言っていた。


上の子は、まだ女の子らしく「服、鞄、リボン」とかだったので、義母も上の子が本当に欲しいものではないが、そこそこのモノを買っていたので、小学校の展覧会まで騙されていた。


ちなみに夫はよくあるマザコン男ではない。

昔から義母をウザいと言っていたし、子供達の誕生日プレゼント事件を乗り越えて、ほかの事件も乗り越えて、本気で嫌になった所にトドメを刺してきた。



義父が定年後すぐに旅立ってしまった。

その時の葬儀を「勿体無い」と言い、最低ランクの家族葬にしやがった。

夫は妹と一緒に義母に怒ったが話にならなかった。


それどころか、夫が「俺が金を出すから親父をキチンと送り出そう!」と言ったら、義母は家族葬は何がなんでも押し通し、葬儀屋と夫、義妹ちゃんを呆れさせながら、支払い先だけを夫にし、喪主まで夫にさせ、周りから「キチンと親を送り出せないのか?」、「人でなし!」とクレームが入ると「本当よね」なんて言ってくれた。


これで、夫は裏では「母さん」ではなく、「あのババア」と呼ぶようになる。


その義母が70歳を過ぎたころ、急に外出先で倒れた。


最初は迷惑電話とか間違い電話を疑ったほどだった。

ちゃんとした電話だと判明しても夫は信用できずに、義妹ちゃんと実家まで確認に行ってしまう。



病院に行くと、義母は薬で眠っていて、医師から余命宣告をされてしまった。


なんとまあ、あっけない。

実家の母がピンピンコロリだったので、あの時もあっけないと思ったが、今回もあっけない。

一瞬でもそう思った自分を数か月後に呪った。



病室で眠る義母を見るといろいろと思い出す。

悪い思い出の方が多いが、一貫して身勝手なだけで、悪意の塊ではない。

嫁いびり、旦那いびりが好きなのではなく、自分以外の人間全てを振り回したい。

そんな人間だった。


その義母は言い方は悪いが、究極の心配性。

祝ってもらわないと不安になる。


なので、正月、誕生日、母の日、敬老の日、勤労感謝の日は盛大に祝いたがる。


それこそ子供達はアルバイトは休め、部活の大会も休め、検定試験ならなんとかして貰えと言われまくり、辟易とするたびに、夫が「もう長くないから耐えてくれ」と言っていた。


そして私にも「あのババアは貯め込んでいる。父さんの稼ぎは良かったし、退職金が支払われてすぐだったから、遺産は残ってる。すまないが耐えてくれ」と言うようになった。




そんな義母、昔から「余命宣告とか病気の時は隠さないで教えてね」と言っていたので、夫と義妹ちゃんがさっさと教えていた。


しおらしかったのはたった3秒だったらしい。

3秒ルールって意味が違うだろ?



それからの時間はある意味地獄だった。

義母は終活を始めた。


「口にすると早く死にそうだから言わないけど、キチンと遺書なんかは用意してるから安心して」


よくそう言っていた。


更に主人公属性が良くないのは、「私がいなくなって、この世界は平気かしら?」が口癖になった。


世界の平和を気にする義母は、次には「息子ちゃんと娘ちゃんは私がいなくて平気かしら?」なんて言い出す。



「あー、平気っすよ。もうアラフィフですよ?あの頭を見てください。輝いてます」


塩対応だが、義母には関係ない。

話しかけて返事があるだけで喜ぶ。

相手の顔と返事の内容には興味がない。


「言葉を遺したいんだけど、手紙にしたら息子ちゃんも娘ちゃんも孫ちゃん達もキチンと読んでくれるかしら?お嫁ちゃんって雑で適当でいい加減じゃない?いっぺんに渡さないで、毎年私のお誕生日と命日に手紙を渡せる?」

「クロヤギさんって素敵ですよね。読まずに焼きますね」


そんな会話もした。


そして義母は口癖兼、伝家の宝刀に「最後だから」を使うようになり、週末ごとにメシをタカリにくるようになる。


夫は金曜になる度に鏡の前で「耐えろ、耐えてくれ…」と鏡の向こうの自分の目を見て話すようになったし、呼応するように頭は眩しくなった。


まあ、寿司、すき焼き、天ぷら、焼肉、しゃぶしゃぶ、河豚、中華のフルコース、フランス料理のフルコースなどなど、本当にコレでもかと連れて行かされた。


子供たちは「家でふりかけご飯でいいから行きたくない」、「私、水でいいから行きたくない」と言っていた。


それでも義母は強制全員参加をさせる。

子供たちのアルバイト先まで乗り込んで余命わずかなこと、だから土曜のディナーは家族の時間だと言ってきたことで子供たちは本気で毛嫌いしていた。


とりあえず金を遺しても意味はないはずなのに、我が家の稼ぎを当てこんで、一円も使わない。

終盤は本当かもしれないが、歩くのも億劫だからとタクシーで来て、タクシー代金までタカリだした。


ちなみに我が家は土曜日、妹ちゃんの所は日曜日。


「レシート残しておいてあとで精算しよう」

「うん。本当だねお兄ちゃん」


そんな電話も聞き慣れた頃、義母は家にいられず入院をして最後を迎えるようになる。


「子供達は学校です」

「学校とお婆ちゃんならお婆ちゃんでしょ!お嫁ちゃんが意地悪してるのね!」

「アホですか?お義母さんはあと少し、子供達の人生は長いんです。だからこそ学校です」


そんなやり取りも慣れてきていて、まあそれでも皆よくやったよ。

妹ちゃんの所の旦那さんも、2人の一人息子くんも、本当に恨まれないように可能な限り通っていた。


それもこれも、枕元のカレンダーに書かれる、「息子ちゃん」、「娘ちゃん」、「嫁ちゃん」、「旦那くん」、「上の子ちゃん」、「下の子くん」、「お孫くん」の名前と、その下に営業成績のように「息子ちゃん」、「娘ちゃん」、「嫁ちゃん」、「旦那くん」、「上の子ちゃん」、「下の子くん」、「お孫くん」と名前が書かれた下に、正の字で何回来たか書かれていて、本気で顔を出さないと祟られそうだったからだ。


こんな事を言ってはいけないのはわかっている。


狙ったように忙しい、月末の火曜日の明け方少し前、義母の容態は悪化した。


電車はない。

タクシーか自家用車しか行く手段はない。

夫は「最後まで…」と憎々しい表情でハンドルを握っている。


到着すると医師からは「もう、手の施しようは…」と言われる。



皆の脳内は「やっとか」だった。

余命宣告を大幅に超過した義母。

本当に長い日々だった。



義母は息も絶え絶えのくせに、夫と義妹ちゃんを見ると、力を振り絞って「もうなのね、世界が心配だわ」と言った。

これには医師も「とても話せるなんて」と言って驚く。



そんな中、スラスラと話す義母。

コイツ、きっと暇なときに原稿を用意して読み込んでたな。


「泣かないで、息子ちゃん、娘ちゃん」


泣いてない。

イラついて眠そうな顔はしている。


「もう、お父さんも寂しがりやさんね。私に会いたいからって、早く迎えに来すぎよね」


そーかなー?

清々してたと思うし、あの葬儀に腹立ててると思うよ?

会いたくないんじゃね?


「大丈夫、私はコレからも2人といるわ。遺書は家に置いてきたのよ。一階の茶箪笥にあるから読んで。2人でいつまでも仲良くね」


そういって少しして、義母は早朝、日の出と同時に旅立った。



このばーさん、最後まですげーな。

毎日通って世話した私にお礼もなし、孫達にお別れの挨拶もなし。

当然、超過した分の医者代なんかを出してくれていた旦那くんにもお礼もなし。


本当に「主役ってわき役たちが助けてくれるものだよね」という、少年漫画の考え方で生きているので、自分は何でもやってもらえる。自分は何をしてもOKだと思っている義母。


眠いのに病院に連れて来られた孫達も、義妹ちゃんのところの旦那くんもブチギレめされてる。


だが話はそうじゃない。


「遺産だ遺産」


これは私の言葉ではない。

夫と義妹ちゃんの言葉だ。


義母の終活には葬儀社との手配も済んでいるらしく、病院にいても意味はない。

葬儀社からは「後はお任せください」「後ほどご連絡します」だった。


夫と旦那くんは仕事を休むと義理実家に突入した。

そこには孫達も全員いる。


全員で茶箪笥に向かうと、遺書なんて言っても便箋一枚だった。


【詳しくはQRコードを読み込んで。それで全部わかるわ】


「はぁ?眠いんだよ!面倒なことすんなよばーさん!」


義妹ちゃんの所の息子くんがブチギレながらスマートフォンでQRコードを読み取ると、変なサイトに繋がり、[確認しました。2階の押入れにどうぞ]と表示される。


「んだよいったい?」


そう言いながら、就活が済んで、不用品が処分されまくっていて、夫と義妹ちゃんの義母にとっての思い出の品がキチンと箱に仕分けされている2階の一室、押入れにそれはあった。



「なにこれ?」


私は思わず声が出た。


押入れの中に三角座りしているジャージ姿の義母に似せた人形が2体。


エンジ色とピンク色。


ちなみにエンジ色は夫が宇宙一嫌っている色で、その理由は我が家の外壁塗装をした時だが、義母の奴が工務店に「サプライズで息子を喜ばせたいの」と言い出し、工務店も義父達の頃からの付き合いで、顔見知りの事もあって、夫が選んだグリーングレー色の外壁は義母の好きなエンジ色にされた。


口をパクパクさせる夫に、工務店が「いい話じゃないですか、お母さんの好きな色にしたかったけど、お母さんは息子さんの好きな色にした。でも最後はお母さんの好きな色にするなんていい話だ」と義母の作り話に乗せられて、目頭をおさえてウンウンと頷いていた。


それから夫は、エンジ色が宇宙で一番嫌いになった。

その色の義母人形、そしてピンク色は義妹ちゃんが宇宙一嫌っている色だ。



これも内孫ではないのに、「嫁の子より娘の子」と言い、義妹ちゃんは嫁に行った身なのに、コレでもかと通い、これでもかと過干渉して、生まれる前に性別を調べていて、男の子だと言っても「ううん。娘ちゃんの子は可愛い女の子よ」と言って聞かずに、勝手にベビーグッズをピンク色にした義母。


当然旦那くんの家族は憤慨。


ちなみに言えば、ウチの上の子が先に生まれているので、義母からすれば2人目の孫、旦那くんの家からしたら初孫で内孫、盛大にやりたいのに、イニシアチブを譲った覚えはないが取られまくりで、旦那くんはご両親や親戚から「お前は婿に行ったのか?どういうつもりだ?」と怒られに怒られ、お嫁さんの立場の義妹ちゃんは泣いて止めても止まらない義母のせいで旦那くん側の義実家で立場はない。


ちなみに泣いていた姿は見られているので義妹ちゃんに同情的な声が多いが、それでも「…はぁ…、仕方ないことだけど…」と未だに何かの時に言われるようになってしまっている。


そして息子くんは、赤ん坊の時の服やらグッズがピンクしかなく、生まれた時から黒歴史と言っている。



とりあえず意味がわからない中、うちの下の子が「あ、なんか紙があるよ?」と言い、手に取って読み上げた。


-----

息子ちゃん、娘ちゃんへ

2人がコレを読んでいる時、お母さんはもう亡くなってしまったのね。

悲しいわね。

でも泣かないでいいのよ。

お母さんはあなた達の為に出来る限りの事をしましたからね。

-----


その書き出しから、とんでもないことが判明した。


この2体の義母人形はAIロボットだった。


なんでもテレビを見ていたら有名人のAIロボットが出てきていて、生前に考え方とか話し方とかを登録しておいてAIとして作り上げると、生前同様の話が出来るらしいと聞き、義母はコレだと閃いた。


「お金なんかより思い出よね!」


そう思った義母は終活を終えた残金を、子供達への遺産にせずに、全部AI義母に突っ込んでいた。

ちなみに…、テレビで見かけた会社には断られて、なんか怪しいベンチャー企業が引き受けてくれていた。


-----

私の死後、QRコードから起動したら、もう寂しくないわ。

終活の内容なんかも全部こっちの私が説明してくれますからね。

息子ちゃんも娘ちゃんも、まだまだお母さんがいないとダメなんですから、キチンとお母さんのいう事を聞いて、いつまでも仲良く元気でいるんですよ。

あ!そんな事言う必要もないわね。それはこっちの私が言ってくれるものね。

エンジ色の服を着てるのが息子ちゃん用、ピンク色の服を着てるのが娘ちゃん用よ!

-----


読み上げる下の子の声も震えている。


「貸して!下の子クン!」


義妹ちゃんが手紙を奪い取って読み上げて、「…うそ…、やだ」と言っている。


そんな中、上の子が「お母さん、なにこの【ウォン、ウォン】って音?」と聞いてきた。


確かに聞き覚えのない音がする。


義妹ちゃんの所の息子くんが「起動音?」と呟いた瞬間、皆がハッとした。


「やだ!消して消して消して!」

「止めろ!止めろ!止めろ!」

「スイッチ!スイッチどこ!?」

「緊急停止!緊急停止!!」



そんな声も虚しく、遺産を全て突っ込んだAI義母は起動して、やかましいったらなかった。



私は、人間の方がマシだったと心から思った。


「あら、お嫁ちゃん。嬉しい?あなたもロボットになりたい?うふふ。ダメよ勿体ないもの」


究極の無駄金に、勿体ないって言われたよおい。

もったいないお化けさん、勿体ないので連れて行ってください。


「私のお葬式の御香典は、お嫁ちゃんのお父様に最低3万円は包むように言ってね」


お前、私のお母さんが亡くなった時に3千円しか包まなかったくせに何言ってんだよ?


「あ、充電はキチンと直接にしてね。タコ足なんてやめなさいね」


この充電問題がまたウザかった。

充電が切れそうになると、コレでもかと叫び上げやがるAI義母。


「助けて!」

「早くして!」

「殺される!」

「死んじゃう!!」


人間の声でこれが出るわけで、警察が家までやってきたこともある。

そして充電してやっても、電圧が安定しないとか、電圧が悪いとか、ノイズが入るとかうるさくて、コンセントの位置も吟味もする。

そこまで持っていくのも重いしかさばるし、邪魔でしかない。


私達は、すぐにメンテナンスを言い訳に販売会社をAI義母に聞き出した。

販売会社にクーリングオフを願ったが、あの婆さん、余命宣告とほぼ同時に発注し、余命を超えて生き延びたしぶとさにより、クーリングオフどころか保証期限が無くなって、壊れたら実費になりかねない。


直す気がなくても、メンテナンスプログラムが邪魔をして、「カメラアイの調子が悪いわ息子ちゃん!連絡したから安心して!修理代よろしくね!」と勝手にやり出す高機…迷惑機能。


そしてリサイクル法とか、廃棄処分の費用がとてつもない額で、捨てることすらままならない。


キレた下の子が磁石を近づけた時、機械音声で「やめろゴルァ!?殺す気か!!」と凄まれた時は、ホラーすぎて夢に見た。


販売業者のお茶目な一面なのか、スリープモード(夜寝る時間)を設定出来るのだが、たまに「なんか目が覚めちゃった!折角だからお話ししましょうよ!」と夜中にやり出す。


ちなみに24時間睡眠はできない。


「健康な睡眠は8時間よ!」とか言って設定の最長は8時間で土日祝も起こされる。昼寝もしない。生前の義母は昼寝好きで、よく寝てたから、あっちのほうがマシだった。


壊したい。


家を空ける日なんかの設定も、行き先を伝えて、証拠を見せないと意地を焼く。


更にプライバシーはない。

青くなったのは「上の子ちゃん、Wi-Fiを見たけど、彼氏がいるのね」と突然ぶっこんでくれた時だ。

私は上の子に相談されていて、「お父さんは心配しちゃうから、ちゃんとお付き合いが続きそうってわかって、お父さんの機嫌のいい日に報告しようね」と話しておいたのに、AI義母は団らんにぶっこんでくれた。


当然、怖い顔になる夫。

私が「まだ付き合いたてのお試し期間でいちいち報告の必要がないよって言っておいたの、来週で一か月だから、その時に言おうねって言ってたんだよ」と言ってフォローしたのに、AI義母は止まらなかった。


「彼氏に下着の色を聞かれて、好みの下着にするなんて言っちゃダメよ」なんて団欒でぶち撒けやがった。


無関係な顔でさっさと夕飯を流し込んで逃げようとしていた下の子も、「ブラウザのダークモードは履歴が残らないだけで、バレバレよ?18歳になってないのだからアダルトサイトに接続しちゃダメでしょ」なんてぶち撒けられていた。


そんな産廃。

もとい、AI義母が役に立ったのは、葬儀の席で参列者達に勝手に挨拶しまくった事。


その葬儀だが、義父の10倍以上の豪華な式にしていた。

夫が「余命宣告しないで殺せばよかった」と言っていた顔は本気の顔だった。


戒名も勝手に文字数増やそうとしていて、それは墓石に彫る内容的にバランスがおかしいと後から変えたが大変だった。


ああ、後1番役に立つのは、くだらない迷惑電話や詐欺電話にAI義母が応対する事だろう。

これはプログラム上、勝手に買い物をすることはできず、相手の話し相手になって「いいわね欲しいわ」までは言うのだが、最後は機械音声で「私はAIプログラム。商品の売買は許可されていません。この通話は録音いたしました。商品を送り付けた場合、通報します」と言ってガチャ切りする事だった。


それでも邪魔には変わりない。

素直に死を受け入れてくれ。

昔の人たちは立派だった。


そういえば、義妹ちゃんが夏日の炎天下に黒い服を着せて外でお茶会をやってみるらしい。

結果次第ではウチもやろうと思っている。


(完)



最後に----------


GW期間中にカクヨムに会員登録すると、図書カードが抽選で当たるキャンペーン実施中!カクヨムに会員登録していない方は、ぜひチェックしてみてください。 https://kakuyomu.jp/info/entry/2025gw_cp


というキャンペーンがやっていましたので、一個短編を載せようと思いさっさと書いてみました。(散歩の暇つぶしで書きたくなりました)

いつもより読み直しとか甘いので、優しい目で見守ってくれたら嬉しいです。


そもそもこの話は、万博のニュースを見た家族から、AIマツコさん?AIのロボットを遺す話をされた時に閃いたモノです。


実際にAIロボットがいくらで作れて、どんなモノかなどは知りません。

イメージとか勢いとかフィーリングで書いています。


それでも楽しんでもらえたら幸いです。

ここまで読んでくださってありがとうございました。


------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AIのこもった贈りモノ。 さんまぐ @sanma_to_magro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ