エピローグ

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 目を覚ますと、波音が聞こえた。

 砂浜に倒れていた僕の体を、冷たい潮風がなでていた。


「おや、気が付いたかい?」


 僕の隣には釣りをしているおじいさんが居る。


「あの、ここは……どこですか?」

「田舎の海岸さ。……あんた、記憶はあるか?」


「記憶……僕の名前は……」

(伊藤恒星。覚えてる。でも、言うべきじゃない気がした)


「覚えておらんのか?」

「すみません、荒木ホールディングスって単語しか覚えてません」

「荒木ホールディングスか? あそこは大変みたいじゃな。社長の一人息子が別荘で死んどったらしいからな。それも頭がつぶれとったらしいぞ」

「そうですか。ありがとうございました」


 僕はそう言って、立ち上がり、おじいさんと別れた。


 湊が生きていて、あの遺体が啓介だったとしたら――。

 そう考えると、いくつかの辻褄が合う気がした。

 湊は、危ない仕事のために自分を“死んだこと”にしたんだ。

 そんなことで、陽菜を、僕を……。


 僕は“伊藤恒星”を胸の奥に沈めた。

 陽菜を想う弱さも、誰かを信じようとした気持ちも――もう必要ない。


 罪を償わせるのはやめだ。 

 僕は湊を殺す。絶対に。

 そのためにまず、あいつの居場所を突き止める。

 僕はこれから、どうなるんだろうか。

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雨、のち人間 増井 龍大 @andoryuu

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