第5話
ここには同年代の子がいないから大変でしょう。少し遠くに若者向けのカフェがあるのでボランティアが終わったあと一緒に行きませんか?
白雪は歳の近い女性とのカフェに心が惹かれたが、施設を出ていいのかと不安になる。
職員さんに聞いてみないとと言う白雪に、それが難しければ施設の敷地内で飲み物片手に話しませんか? と食い下がった。
それなら、と白雪は外に出て、施設の裏にあるベンチに二人で座った。
美麗はりんごの形をしたかわいいコップを取り出し、蓋を外して差し出した。
「りんごジュースが入っているんです。どうぞ」
白雪は喜んでりんごジュースを飲んだ。久しぶりの甘い飲み物にごくごくと喉を鳴らし、あっという間に飲み干した。
「美味しそうに飲んでいただけて嬉しいです。もう一つあるのでどうぞ」
白雪は二つも飲んでいいのかと遠慮がちに躊躇ったが、笑顔で差し出す女性を無碍にできずもう一杯飲んだ。
しばらくすると白雪は体の中から熱くなってきた。
「実はこれカフェにあるジュースなんです。これから一緒に行きませんか?」
熱くて頭がふらふらする白雪は、判断能力が落ちて誘いに乗った。
白雪はひっそりとやってきた車に乗り込み、長い道のりで運ばれた。
甘いジュースに隠されたアルコールで酔ってしまった白雪は、美麗の熱狂的なファンの運転で歌舞伎町の繁華街に連れてこられた。
そして美麗たちは白雪を繁華街の片隅に寝かせ、かたわらにホストクラブの名刺を置いて写真を撮った。
その写真をファンの掲示板に載せると、ファンたちは白雪の醜態に失望し、評価は一日にして急落した。
今の時代見た目のいい女性は掃いて捨てるほどいる。白雪の唯一の取り柄である純粋さに傷がつけばあっという間に乗り換えられるのだ。
やはりこのグループのトップは美麗だ、という評判を目にして、これが当然だ! やっと人々が正しく評価した! と美麗は有頂天になった。
その後歌舞伎町で発見、保護された白雪は、自宅や施設のある関東を出ることになった。
施設の職員や利用者は、白雪を守れなかったこと、白雪が施設を離れることを悲しんだ。
アルコールで意識が朦朧としていた白雪は、運び込まれた病院のベッドで横たわっていた。そして偶然白雪が運ばれるところを見ていた人物が、白雪の病室に忍び込んだ。
その男性は白雪の顔を一目見て、自分のものにしたいと思った。
石油で財を成した王族である若い男性は、配下と共に人目を盗んで迅速に白雪を運び出し、自分の車に乗せた。
しばらく運転していると、白雪が車中で目覚め、男性は目覚めた白雪に自分の思いを熱烈に伝えた。卒業後、いや今すぐにでも白雪と一緒に過ごしたいと迫った。
家族と過ごす時間が希薄で、他者への恋をまだ知らず、人への好意をまっすぐに受け止める白雪が断る理由はなかった。
そして白雪は父親の意向で高校卒業後に男性と結婚した。
白雪は男性の勧めでアイドル時代のメンバーにも招待状を送った。
招待状を受け取った美麗は気乗りがしなかった。白雪を社会的に殺すほど憎んでいて、白雪は自分が手に入れられないような富を手に入れていた。
しかしここで参加しなければ不仲や薄情と言われるだろう。
渋々男性の祖国で行われる結婚式に参加し、受付で自分の身分を伝える。
広大な会場で案内人について行き、パーティーらしい雰囲気の場所に来た。
白雪たちの目も届かぬような広大な会場の一部。
そこで裕福そうな中年の男性が美麗に近づいてきた。
「君が花嫁が世話になったという女性か。噂には聞いていたがお美しい。我が家の花嫁にしたいくらいだ」
美麗は満更でもなかった。いつまでもアイドルやラウンジの仕事を続けてはいられない。一流の美人として富豪の嫁で人生を上がるのもいいだろう。
「今日は新郎新婦のために余興を披露して欲しいんだ」
ここで上手くいけば富豪の目に留まるチャンス。そう思った美麗の前に、真っ赤に熱された靴が用意された。
目を疑ってあたりを見回すと、期待するように視線を向ける人々、スクリーンに映し出された、こちらを凝視する新郎の顔。向こうでぐるぐると縛られて怯えるあの日の協力者。
この人たちにはお見通しなのだ。
いつの間にか両脇には屈強な男たちが控えていた。
逃げ場はもうない。
顔さえ残るなら、後のために足は捨てよう。美麗は意を決して熱された靴に足を通した。
正しく美しい白雪 夢枕 @hanehuta5
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