「植生」

 …この地域ちいきはね。

 植生しょくせいに、まるで統一感とういつかんがないんだ。


 本来ほんらいならば土地ごとに。

 特有とくゆう生態系せいたいけいがあるもので。


 あの地域ちいきには。

 この木が多く。


 この地域ちいきには。

 あの菌類きんるいが多い。

 

 …といった具合ぐあいのはずなのだけれど。


 この土地では。

 明らかにちがう。


 南に北に。


 共にいるはずの無い種が混在こんざいしている。

 下手をすれば一本一本、隣合となりあう形で。


 れたり生えたりを。


 季節も脈絡みゃくらく関係かんけいなく。

 かえしている。


 私はずっと。

 それを疑問に思っていたのですが ――


 …ああ、そう言えば。

 学園の生徒さんたちでしたか。


 だから、どうじもせずに。


 落ち着いた様子で。

 ここで撮影をしている。


 …ああ。

 ケースの中にある文献ぶんけんですか?


 そうです。

 植物園しょくぶつえんの夏の展示企画てんじきかくで。


 過去かこ、この地域ちいき動植物どうしょくぶつ紹介しょうかいした絵図えず


異方動植物記いほうどうしょくぶつき』。


 江戸の頃に出された奇書きしょで。


 幻想文学げんそうぶんがくのたぐい。

 …と、思われていたんですけれどね。


 展示された標本ひょうほんを見られましたか?


 本の上に並べられた。

 複数ふくすうの植物たち。


 ありえないですよね?


 先ほど言った。

 南方とか北方とか。


 ―― もはや、そういうレベルじゃあない。


 既存きぞんの植物から。

 明らかに逸脱いつだつしている。


 それどころか。


 なぜ、近年きんねんまで。

 だれ学会がっかいに発表しなかったのか。


 地元の人間だから。

 ありふれていると感じていたから?

 

 まるで最初から。

 見えてすら、いなかったかのようで ――


 …いや、分かっているんですよ。


 この場所は。

 何かが、おかしい。


 調べれば、調べるほど。

 山に分け入れば、入るほど。


 得体えたいのしれない植物が見つかり。

 れることなく成長せいちょうし。


 気がつけば。

 新たな種類とわり。


 法則性ほうそくせいもなく。

 成育せいいくしていく。

 

 ―― まるで、この土地全体とちぜんたい

 すべての空間くうかんゆがんでいるように。


 …まあ、私の視点してんも。

 本来ほんらいならばいびつなのですが。


 メガネ、落としちゃったんですよね。


 採集さいしゅう途中とちゅくで。

 斜面しゃめんで足を滑らせて。


 首もおかしな角度になってますし。

 おなかかない。


 何ヶ月も虫や鳥についばまれても。

 まるで、気になりませんし。


 …でも、いま目の前にいる。

 アナタ方の姿はハッキリと見える。

 

 周囲に生息せいそくする。


 常識じょうしきからはずれた植物たちも。

 前よりハッキリと見える。


 ―― そう、あの書物ですが。


 最初のページ。

 見開きのところ。


 頭のない二頭のヘビがからんでいるんです。


 頭同士がつながって。

 一つの生き物のようにうねりあって。


 …ヘビを永遠えいえん象徴しょうちょうとするところも。

 あるそうで。


 場合によっては。

 無限むげんすら表すことも。


 書かれた時代は。


 ちょうどこの土地の姫が乱心らんしんしていた頃と。

 同じだそうで。


 ただ、知り合いに言わせれば。


 古代からそのような風習ふうしゅうがあったという。 

 可能性かのうせいもあって ――


 ああ、めのない話ですみません。


 ともかくこの場所は。

 現在進行系げんざいしんこうけいで変わっていく。


 どこという話ではなく。


 街も土地も。

 すべてが、何でしょうね…

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教エテ、クダサイ 化野生姜 @kano-syouga

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