【声劇台本】城砦スケルツォ

紅璃 夕[こうり ゆう](ナニカ。)

【声劇台本】城砦スケルツォ

【登場人物】

①ルオ(ルオフォン/若風):

街に暮らす青年。

定職を持たず、その日暮らしでのらりくらりと過ごしている。

できる限りやっかいごとを避けて生きていたいのに割り切れないお人好しのため、面倒なことに巻き込まれがち。


②ジェンハオ(正豪):

行方不明の妹を探してこの街へやってきた青年。

実直で融通の利かないところがあり、信じ込みやすいため騙されやすい。


③ヨンおじ(ヨンカン/永康):

飯屋のおやじ。

声がでかいのに意外と耳ざとい。

ぶっきらぼうで口うるさいが、面倒見が良く情に厚いタイプ。


④リンシャオ(凌霄):

掃除屋『リンシャオ商会』の元締めの男性。

妖艶な雰囲気と嗅げばくらくらするような甘く刺激的な香りの紫煙を身に纏っている。

仕事に誠実で、『リンシャオ商会に掃除できないものはない』がモットー。



-----ここから台本本文-----


(①ルオによるモノローグ)

この街ではいつも犯罪が起きている。

店で買い物をすればぼったくられ、路地を歩けば金をスられ、運が悪ければ通り魔に刺される。

そんなどうしようもなく腐った街。


(街中を歩くルオ)

①ルオ「おはよー! 洗濯屋のおばちゃん。金物屋のじじいは……まーた小銭拾いしてんのか。(走る子どもとぶつかりかけて)おぉっと! 子どもは元気だなー! 走ってコケんなよー!」


(①ルオ)

だけどーーー。ここで生まれ育ったオレは、このろくでもない街が好きだ。




(ガクッと足を踏み外してコケそうになるルオ)

①ルオ「っとぉっ?! ……ってて、びっくりした。足元に何か転がって……え? 人? ……死んでんのか? ふーん、身なりは良さそうだな」


②ジェンハオ「……う……っ……はっ!」


(ジェンハオが突然ガバッと起き上がり、ルオが悲鳴を上げる)


①ルオ「っでぇっ?! びっくりした! 生きて……」


②ジェンハオ「い、妹! キミ、妹を知らないか?!」


①ルオ「……へ?」




(飯屋にて)

①ルオ「……なるほど。行方不明の妹を探して来たものの、店でぼったくられ金をスられ、挙句の果てに脇腹を刺されて倒れていた、と……」


②ジェンハオ「(食べ物で口をもごもごさせながら)ふや、はおれたのは腹が減っはからへ(訳:いや、倒れたのは腹が減ったからで)」


①ルオ「飯食いながら喋んな。……うぇっ?! てことは?! 金がねぇのか」


②ジェンハオ「うん」


①ルオ「食うな! 金も持ってねぇ見ず知らずの行き倒れ野郎にオレが奢ってやる義理なんざねぇっつーの!」


②ジェンハオ「……返してくれ。まだ食べてる」


①ルオ「食うなっつってんの! オイ、皿を掴むな! っちょ、ムダに力強ぇぇーーー!」


③ヨンおじ「……金がない?」


①ルオ「ヒッ!」


③ヨンおじ「なんだぁルオ? 金がねぇのにうちの店で飯食ってんのか」


①ルオ「ちちちち違う違うって! 俺じゃなくてコイツが!」


③ヨンおじ「ルオー? (間延びした単調なメロディをつけて)『わーるいこーとした子はー』?」


①ルオ「そ……『掃除屋さんにー連れられてー』……」


③ヨンおじ「そう、悪いことをした子どもを懲らしめる時に歌う歌だ。この街生まれなら誰でも知ってるよな?」


①ルオ「は、はひ……」


②ジェンハオ「……そうだ、掃除屋だ」


①ルオ「あ?」


②ジェンハオ「言っただろ、いなくなった妹を探してるって。この街の『掃除屋』と呼ばれる商店なら何か知ってるかもしれないと聞いてここへ来たんだ。えっと、名前はーーーリンシャオ商会」


①ルオ「帰る」


②ジェンハオ「えっ? ちょっと待ってくれ。話を」


①ルオ「関われっか、掃除屋なんかと! あいつらはここを根城にしてるマフィアだぞ。強盗、殺人、誘拐、なんでもやるって噂だ。もしかしたらアンタの妹ってのも掃除屋に攫われてーーー」


②ジェンハオ「でっ、でも……! 妹を探せるところは探し尽くして、もう何も当てがなくて……。何でもいいから妹に繋がることがないかって」


③ヨンおじ「その妹さんってのは、まだ小さいのか?」


②ジェンハオ「あ、はい……僕と少し歳が離れてて……。今は12歳です」


③ヨンおじ「12歳か……。そういや最近、夜に若い女性の歌声が聴こえるって客から聞いたな」


①ルオ「夜に? 女の歌声? そんなすぐ犯罪に巻き込まれそうなことするなんて、客引きじゃねぇの?」


③ヨンおじ「それじゃあ話題にはならんだろ。夜になるとどこからともなく女性の美しい歌声が聴こえてくるんだと。それはそれは綺麗な金糸雀カナリアのような声らしい。でも姿はどこにもない」


①ルオ「そりゃあこんだけ家が積み重なってて道の入り組んだ街じゃ、どこで歌ってるかなんて……」


③ヨンおじ「それが不思議なんだが、歌声は街のあちこちから同時に聴こえてくるそうだ。どれだけ大きな声を出したとしても、家が所狭しとひしめき合ってるこの街で声が反響するなんてことないだろ? そして聴こえてくる場所も、毎回同じという訳じゃないらしい」


②ジェンハオ「……妹かもしれない。妹は、歌を歌うのが好きだったんです。……もしかしたらどこかに監禁されてて、夜な夜な歌うことで僕を呼んで……っ!」


①ルオ「それだけじゃお前の妹かどうかなんで分かんねーだろ」


②ジェンハオ「お願いします! 一緒に妹を……その歌声の少女を探してくれませんか!」


①ルオ「嫌だよ! 第一お前、金スられて一文無しのくせに! タダで手伝わせるつもりか?」


③ヨンおじ「ルーオー?」


①ルオ「あ」


③ヨンおじ「『わーるいこーとしたヤツはー』?」


①ルオ「『掃除屋さんにー連れられてー』……」




(掃除屋)

④リンシャオ(羅宇が長い煙管を吸い、煙をふーっと細く吐く)

「やあ、お初にお目にかかるね。初めまして、リンシャオ商会の元締めのリンシャオだ。以後、お見知りおきを」


①ルオ「そそそ、掃除屋の元締め……?! 連れてこられていきなり出てくんの……?!」


④リンシャオ「そう、わたくしどもは掃除屋。『リンシャオ商会に掃除できないものはない』をモットーに、やらせてもらってます」


①ルオ「ヒィィィ……!」


②ジェンハオ「頼む! 妹を探してるんだ! 何か教えてくれないか!」


①ルオ「ばっ……! お前黙ってろ!」


④リンシャオ「妹さんを……? 飯屋の店主からは、無銭飲食だから片付けてくれと聞きましたがね」


②ジェンハオ「僕は妹を探してこの街に来た。リンシャオ商会なら何か知ってるかもしれないと聞いて……」


①ルオ「そうっ! それで、今街で噂になってる、夜中にどこかで歌うっつー歌声の少女がその妹さんなんじゃないかって……」


(④リンシャオ、煙管から口を離し、煙をふーっと吐く)

④リンシャオ「その陳腐な噂はわたくしも聞き及んでおります。けれど困りましたねぇ。うちは至って普通の掃除屋ですので。人探しだったら自警団とか、他所を当たっていただけませんか」


②ジェンハオ「頼む! この通りだ。妹を見つけてくれたら、か、金はないが……何でもする!」


①ルオ「ばっか、お前! こんなところで『何でもする』なんて簡単に言うな!」


④リンシャオ「何でも、ねぇ……」


(④リンシャオ、煙をふーっと吐く。あれば煙管で小机を叩く代わりにペンなどでカンッと机を叩いて)

④リンシャオ「(声を張って)ひょろひょろしたいかにも頭の軽そうな男と! 図体はでかいが融通の利かなさそうな男! こんなの連れてこられてもネズミ駆除の役にすら立たないんだよ!」


①ルオ「ヒイイイイッ!」


④リンシャオ「……まぁでも……金糸雀カナリアのような歌声、街のあちらこちらから聴こえる……」


(④リンシャオ、煙をふーっと吐く)

④リンシャオ「いいだろう。ではこうしよう。その歌声の少女とやらをここに連れてこい。そうすれば飯屋の金も払ってやる。お前たちも妹が見つかりWin-Winだ」


②ジェンハオ「……え」


④リンシャオ「ただし! もし連れてこられなかった時はうちで一番の汚れ仕事をしてもらう。一生な」




(夜の街を歩くルオとジェンハオ)

①ルオ「なんっでオレまで……。人探しも食い逃げもコイツだけだっつーのに……」


②ジェンハオ「す、すまない。巻き込んでしまって……」


①ルオ「いーよ! 今さらだし。やらねーとオレまで一生ヤバい仕事させられるんだ。とっとと歌姫探して終わらせよーぜ!」


②ジェンハオ「あ、ありがとう……」


①ルオ「しっかし聴こえねーな歌声。夜になったらどこからともなく聴こえるって言ったのに」


②ジェンハオ「……へっ? うぉっ! わわわわぁっ!」


①ルオ「あー? ああそこ気をつけな! この路地、配管が壊れてて上から水がバシャバシャ降ってくるんだ」


②ジェンハオ「こ、これは綺麗な水……なのか?」


①ルオ「さぁ? ゴミも窓から捨てるような街だ、色々混ざってんじゃねーの?」


②ジェンハオ「ええ……?」


①ルオ「待てよ……。配管、か」




②ジェンハオ「おい、落ちるぞ」


①ルオ「ヘーキヘーキ! この街はさっ、家と家が積み重なるように建ってて、上に行く階段もろくにないんだ。よっと! でもこうやって、配管を伝って登れば……」


②ジェンハオ「……猿かキミは」


①ルオ「あちこちで歌声が聴こえるってんなら、てっぺんまで行けばどこで歌ってるのか分かるかもしんねーだろ! ……っ、どわぁぁぁぁ!」


②ジェンハオ「危ない!」


(ガラガラと崩れ落ちる配管)


①ルオ「ひょー……」


②ジェンハオ「配管が落ちたぞ、いいのか」


①ルオ「いーのいーの。あちこち詰まってて使い物になってねーからさっ」


②ジェンハオ「……うん? あ、雨か……」


①ルオ「あー……これじゃ雨で音が消えて……歌声を探すのは無理だな」




(翌日、飯屋にて)

①ルオ「(盛大なくしゃみ)へぇーっくしょい!」


③ヨンおじ「なんだぁ? ルオ。風邪か?」


①ルオ「いや、昨日雨で濡れちまって」


②ジェンハオ「ぼ、僕も……(くしゃみ)へっくしっ!」


③ヨンおじ「なんだ2人共か。どうせ濡れたまま放っておいたんだろ。ったく、風呂にも入らねぇで……」


①ルオ「しょーがねーだろ! 寒ぃんだよたらいで体拭くだけじゃ」


③ヨンおじ「風呂だよ風呂! 湯船に入って体を温めるんだよ!」


①ルオ「おやじの家、風呂あんのか! なんだよ金持ちだな!」


③ヨンおじ「ちげーよ、近所の家と共同で使ってる風呂だよ。この街で湯をジャバジャバ使うなんて贅沢できるような金持ちじゃねぇよ」


②ジェンハオ「さささ寒いのでとりあえず……ワンタンスープとチャーハンください」


③ヨンおじ「あいよっ!(鼻歌を歌いながら去る)」


①ルオ「うぇっ?! お前、金は?」


②ジェンハオ「じ、実はここに来る前にこの街の治安のことは聞いていて……。持ってた財布の一つは盗まれたけど、まだ他にも持ってて……」


①ルオ「うええ?! 早く言えよ!」


③ヨンおじ(厨房からご機嫌なヨンおじの歌声が聴こえる。熱唱するその声は女性の歌声のように聴こえる)




(掃除屋)

④リンシャオ「……夜にどこからともなく聴こえてくる女性の歌声。歌はあちらこちらから聴こえる。そして街中を巡る配管……。姿が見えなかったのは恐らく、風呂場にいる誰かの歌声が配管を通して遠くまで運ばれたから。聴こえてくる場所が時々変わったのは、雨が降って配管に詰まった物が流れて歌声が出る場所が変わったから……」


(④リンシャオ、ふーっと煙管の煙を吐き出す)

④リンシャオ「いやぁ、水が詰まってどうしようもないこの街の配管を掃除するのにちょうど良いと思ったんですがね。ははは。まぁでも、歌声の出どころが分からないんじゃあしょうがない」


④リンシャオ「さて! 今日も今日とてこの街の綺麗を影で支えますかっと。みなさーん、お掃除の時間ですよー」



-終-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【声劇台本】城砦スケルツォ 紅璃 夕[こうり ゆう](ナニカ。) @kouri_yu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ