フェミニスト饅頭
藤泉都理
フェミニスト饅頭
饅頭って知っているかい。
そうそう、俺の大好物のつぶあんをたっぷり詰め込んだ小麦粉、砂糖、卵の丸いお菓子だよ。
じゃあ、饅頭の起源は知っているかい。
うん、饅頭の始まりさね。
むか~しむかしの中国、三国志っていう後漢末期から三国時代にかけて群雄割拠した時代を記録した歴史書。うん。難しいって。あとで自分で勉強しなね。その三国志でよく知られている軍師、諸葛孔明が氾濫した川を鎮めるために、小麦粉をこねて捧げたものが始まりとされているだってよ。
その頃の饅頭は今みたいにあんこが入った甘いお菓子じゃなくて、羊と豚の肉を入れて蒸した肉饅頭で「
「蛮頭」っていう名前は、川の氾濫を鎮めた地にあった「土地の民である蛮人四十九人の首を切って、川の神に供えれば氾濫が抑えられる」っていう言い伝えに由来してるんだねえ。
その饅頭の起源から考えたばっちゃんの話を聞きたいかい。
にやにやにやにや。
人を遠ざけてしまいそうな悪い笑顔を向けては、祖母は膝の上に乗せた私に祖母自作の話を聞かせたのであった。
むか~しむかしの話だよ。
とても、とてもね。
フェミニストですから。が口癖の臙脂が言うにはね。
利休川っていう澄んでいてきれいな川が、その川の名の通り、黒ずんだ緑色に変わったかと思ったら、その濁った川で遊んでいたり船で通っていたりしていた者たちが尋ねられたそうだよ。
草饅頭を寄こせ、草饅頭を寄こせってね。
老若男女複数の人間の声が一つに重なったような不気味な声音だったそうだよ。
その声に従った者は助かったが、その声に従わない者は川に引き込まれて溺死させられていたそうだよ。
犠牲者は一人。
その心霊現象を恐れた民がどうにかしろって役所に詰め寄った結果、お役人の臙脂に解決するようにってお鉢が回ったってわけさ。
そして、臙脂は饅頭屋の群青に草饅頭を作るように依頼したってわけさね。
四十九個。
老若男女無性別複数性別様々な人型の饅頭を作るようにってね。
草饅頭だけど草色だけじゃなくて、四十九個それぞれ別の色の草饅頭をってね。
みんなの助けになるならと、群青は眠らずに頑張って四十九個の草饅頭を作ったんだよ。
なのにねえ。
臙脂はこれじゃあだめだって、作り直せって言うんだよ。
そんでもって、四十九個の饅頭は処分するって持ち帰っちまったんだよ。
お金を支払わずにね。
最初は臙脂の言う通りに作り直していた群青だったけど、おかしいなと思い始めたんだ。
四十九個の草饅頭を利休川に流しても心霊現象が収まらないなら作り直す事も厭わないが、臙脂が勝手にだめだと判断して持ち帰ってるだけなんだから。
群青は自分で四十九個の草饅頭を利休川に流そうと決めたんだ。
どうしたって、何回も何回も草饅頭を金を払わずに持ち帰る臙脂が怪しいって思っちまったんだよねえ。
けど、臙脂の判断は間違ってなかったって、群青は気付いたのさ。
利休川に直接四十九個の草饅頭を流しても、川が清らかにならないし、心霊現象が収まる事はなかったからさ。
何がだめなんだろうなあ。
今まで作った四十九個の草饅頭の書き留めていた絵をじっと見つめていた群青は或る事に気付いたんだ。
四十九個の草饅頭は全部悲しい表情をしていたんだって。
だから、群青は四十九個の草饅頭に悲しい表情だけじゃなくて色々な表情を焼き印したんだって。
それを臙脂に見せたら合格だって言って、今迄の草饅頭のお代も支払って持って行ったんだってさ。
それから臙脂がその合格した四十九個の草饅頭を利休川に流したら、不気味な声も聞こえなくなったし、川も澄んだきれいなものに戻ったんだって。
めでたしめでたし。
「どうだい? ばっちゃんの考えた物語は。って。眠っちまってるねえ。しょうがない子だ」
「まあ。そもそも胡桃を抱える事もできやしないんだけどねえ。そんな事をしたら、腰をいわしちまうばかりか、二度と歩けなくなっちまうよ。はあ。もっと若かったらねえ。なんて。言いっこなしだよねえ」
(2025.4.16)
(参考文献 : https://column.enakawakamiya.co.jp/japanese/manju-history.html)
フェミニスト饅頭 藤泉都理 @fujitori
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