『なな〜約束〜』

阿知尚康

第1話

私は十数年前、エンタメ業界でアクションを活かした表現者として、自らも夢を追いながら人に夢を与える事を生業としていました。


ところが、四十歳を過ぎた辺りから突然、悲劇に見舞われたのです。


それはまず、目の病気でした。


見た目には分かりづらいのですが、左目がほぼ見えません。


日本では、馴染みのない加齢黄斑変性と言う病名ですが、欧米では失明原因の第一位になっているのです。


悲劇は、続きます。


長年に渡り肉体を酷使してきたせいもあり、膝が変形性膝関節症になり、激しい動きや走る事も正座をする事も出来なくなりました。


そして、膝の負担の影響で変形性股関節症を発症してしまい、あぐらをかく事も困難になる始末。


更に、四十肩で腕が挙がらなくなり、原因不明の頭痛にも悩まされました。


極めつけは、度重なるストレスからパニック症を患ってしまったのです。


当然、こんな状態ではアクションは愚か、思うように表現者としてのパフォーマンスが出来なくなりました。


そして結局、廃業を余儀なくされたのです。


それからと言うもの、暫く何も手につかず腑抜け状態になりました。


夢を諦めるとこうなってしまうのか…


こうして十数年が経ち、たまたま見ていたテレビ番組で衝撃を受けたのです。


それは、今の子供達が抱く夢のランキングのコーナーでした。


何と上位を占めていたのが、公務員と会社員だったのです。


中には、今の時代らしいユーチューバーもありましたが。


しかし、公務員と会社員も素晴らしいですが、夢と言うよりは少し現実的過ぎて…


私達の頃は、プロ野球選手やパイロットでしたから。


そう、夢のない子供達が増えているのです。


その時、昔の表現者時代の血が騒いだのです。


しかし、今の私に何が出来るのか。


こんな身体と精神の状態で…


それから、出来る事を色々考えた結果、まず一番身近な娘に夢を与えなければと思い、小学生の娘のななが大好きな小説を昔に、少し書いていた事もあったので、再び書いてみようと決意しました。


そして、「パパは、小説を書くから読んでね」とななと約束をしたのです。


「夢は変えてもいい、夢に年齢は関係ない」


と己に言い聞かせ、新しい夢への“私の挑戦”は、始まったのです。


それから何編か短編小説を書いて、ななに読んで貰いました。


すると、“約束”をテーマした地域のエッセイコンテストに、ななが応募したところ小中学生部門で、優秀賞に輝いたのです。


審査をした方から「起承転結がしっかりしていてとても良く書けていましたよ」と褒めて頂きました。


しかも、ななが「パパの小説を読んで起承転結を学んだんだよ」と言ってくれたのです。


とても嬉しかったです。


私の夢は、確実に小さな一歩を踏み出しました。

              

 

             おわり

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『なな〜約束〜』 阿知尚康 @achinaoyasu

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