EP.2
「な、何を……しているのですか?」
温かさに手が湿る中。
向いた声の元は、訝しげに覗き込む。
「ああ……そうか」
「この世界じゃあ、必要のない動作だったね」
出会した、初対面。
挨拶すら前の段階で 英譚武 持ちだとバレ、所属を問われ。
わざわざ目的を話せば、問答無用で対峙が開始。
引き摺り出した腸を絞殺に使用してきた時は、流石に引いた。
(これが職業病、か)
肉塊の頭部を切り離す、無意識。
皮膚のキメ、瞳、髪質。
「それが、先日仰っていた」
「元居た世界での御仕事、ですか?」
「ククッ」
「クセは死んでも、治らないものだね」
包む頬を撫でつつ、少女へ苦笑一つ。
磨りガラスが、映すワタシを極限まで簡略化。
首の断面が、腕に血を這わす。
「はい」
「あわッ」
「あ、あの……」
受け止めた肉ボールが、聖職衣を飾る。
「彼女の容姿、捨て置くには勿体ない」
頭を抱える姿にトーテムポールを彷彿させる、客観視点。
戸惑い合わさり、愛らしい。
「いくらかは、値を期待できるだろう」
持ち上げた胴体、宙ぶらりん。
トロけた実を切り口へ押し込み、雑に担ぐ。
「そんなボロボロな状態、売れるのでしょうか?」
「ダメージジーンt……あーいや」
「傷をオシャレと呼ぶ生物も、希じゃあない」
・
「人間が売買される様、初めて見ました」
木々で編まれた家々、マッチか熊で一夜かそこら。
その癖、無駄に入り組むハリボテ発展で探すも一苦労。
「死んでいるにも関わらず、家畜を買うよりも高額が出されていましたよ」
終えた競り、視界へ入る少女は何処か嬉し気。
「ワタシよりも、喜んでいるね」
「ん……競りをしている際のリバティさん、とても楽しそうでした」
砂塵を撫でられた幼聖の、声色に乗せた心地好さ。
抑した口角も上がる、曠古に観する小才童のあざとい無縫。
「特殊な物を賭ける際の、ざわめきと粗々しい入札額上昇」
「ワタシ自身 予測に欠ける競売、久方ぶりで高揚してしまったよ」
弾いた硬貨、ギラギラと。
指間へ落ち挟まる表裏、胡散臭い貴族のレリーフが目を反らす。
「英譚の撃破 に お金の獲得、順調な始まりを切りましたね」
「ああ」
揺れる金髪、抱える金貨。
「ただ、こうなれば都市で売りに出したかったところかな」
「生物は腐敗考慮、ですから」
ぼやきに諭す稚拙。
「止まれッ」
「ッ!」
刺すような一喝が、張る背後。
ビクり瞠目する小動物。
「……」
「ど、何方でしょうか?」
共に振り返れば、陽を反射する女騎士一着。
流れる芦毛、黒ラバーのアンダースーツに添う鋼と近似。
虎視たるチャロアイトは荒削り。
「ほう……」
殺気の元手が抱えている箱なら、合致と憶測も難くない。
「!」
「アレは、確か」
「ククッ」
血縁が、消され煮えた、異相姉。
「妹さん、お気に召されましたか?」
「やはり貴様が……」
胸に手を当て、浅会釈。
さすれば濃くなるドス一層、食いしばる犬歯が肉に飢える。
「落札者は、彼女の姉だったのですね」
「多額を浪費してまでとは相当な愛情、あるいは欲情かな」
砂、摩れて。
「……よくも………」
「胴体の損傷は大きめですので、お召し上がりは御早めn__」
「P ASTELッ」
捲れた1ページ、間合い一人分。
生成されたパステルなカトラスを手に、ワタシへ飛びかかる。
「L OKI」
互いに鼻先、1/1スケールの瞳。
散りたる火花。
「クッ……」
振り上げ弾き、体勢崩れた深蒼は後方へ。
「それで殺したのだな」
軽く回し、肩へ掛ける黒柱。
クレセントのない機械的直角、わざとらしく L を連想させたデザイン。
雑に結んだ髪、カッターシャツとスーツパンツ。
モノクロなワタシが彼女にとって、死神以外ありえない。
「リバティさん、頑張って下さい」
「ククッ、性が出るねぇ」
灰犬を横目、激励のファイトポーズへ応える指ハート。
「ハァッ」
「おっと」
軌跡に倣い立てた柄が、水平より受け止めた斬撃。
涼しさ香るミントは刃、爽やか仰ぐレモンのナックルガード。
示すシルエット、Pに相当。
「よくも……よくも私の、愛妹を……ッ」
「……」
「アルファベットへ踏み入り狙うは、お前がゼータベット故か?」
剣幕に劣らぬチープさが、ムードを削ぎ落として失笑不可避。
「片割れへ勝手に、所属させないでほしいな」
「!」
「なn__」
空いた脚で、蹴り上げた腹部。
血反吐のエンジン、垂直射出。
「ガ__グッ__」
打って打って、木造に止められた勢い。
遅れた風圧に悔しくも木っ端微塵、そこに残るは汚れ芳紀。
「げほッ」
土煙の奥部、聞こえた喀血音に見積もるダメージ数。
「……どういう、意味だ」
「質問は、主題を付けてするものだよ」
掻き分けた先、直下俯瞰で ヘタる乱れ。
節足一本と成り果て、尚も千載一遇へすがる蜘蛛のような不快さ。
「ゼータとアルファ、どちらと違うのなら」
「何故、殺している」
放されたパステル。
「ワタシは、アルファベットにゼータベット」
「両方、壊したいだけさ」
「………訳は?」
俯くまま、続く質疑に潜む眉。
「なんとなく、気に入らないから」
何故、どうして、訳を。
物事、理由、物事、理由。
「そんな……筋の通らぬ抽象で、人の家族を裂いたと………」
不思議でしょうがない。
行動一つ一つに、いちいち背景を必要とする意義が。
その重さで善悪が値を変える固着は、理不尽で不愉快極まる。
「他生事でね、集光 用いて幼虫を焦がす事と同義なのさ」
「……るな」
樹脂玩具の淡さから、なまじ予期せぬ金切。
「__ふざけるなッ」
逆手持った刀身、その7cm程が左腰部へ突き沈む。
数読点後、閨秀らしからぬ形相へ狼狽の兆し。
「……貴様、本当に人間か?」
防がず、避けず、動じず。
災いの転じを含む一撃が、無意味に疑問符を増やすだけ。
死神の次は、怪神にでも見えているのだろう。
「急激な発展に後処理が追い付かず」
「”科学の産物” と誑かした汚染で、元居た世界はワタシのような存在を常態させた」
「ある人神様の御陰で、今となっては居心地良いが」
喉を鳴らした笑み。
証拠提示に垣間見せた、半分普遍と半分ギザ歯。
「元居た……世界?」
「一体、何を言__ッ」
水平に蹴り突いた脇、外内腹斜筋もろとも上行結腸へ抉り付ける。
「疑問を直ぐ口に出すのは、悪いクセだよ」
真横へフェードアウトした愚銀。
自動車に泳がされた児童を思わすバウンド、親の目離れた自業自得。
「ガァ……ァ……グ」
気付くと消滅していた刃。
およそ十数メートル。
多過ぎる間隔に、英譚武は形成を保てないらしい。
「もう……いい、どうでも………」
「妹を殺した、その事実だけでッ」
「……」
左右高速のステップから、迫る浅色。
「お前を葬るに、十分だッ」
カラフルな毀れ火。
つばぜる先、炎がワタシを逆撫でる。
「……」
「分からないな」
「はッ」
弾いては風を別つ撃。
「動かぬ生はただの肉塊、死者だとか仏とか、どうして態々慕うのかな」
死物へ涙する母、涙ながらそれを慰める誰か。
嗚呼、辛気臭い部屋。
空気を読んで向けた背、俯いた面はひたすらに億劫。
確かに家族の死は悲しい、ワタシだって寂しさくらい感じる。
けど。
それだけ。
「殺そうと殺せまいと、結果にある妹の死は変わらない」
「死で起因する悲壮や憤怒を、周りに強制させるな」
「黙れッ」
それ以上に何がある?
啼泣は流れず、次の瞬間に部屋へ戻り寛ぎたい思考。
反応なんざ、個々に委ねられたはずだ。
「ッ……」
散斬を掻い潜り、掴む首。
「苦手でさ、ずっと」
「勝手な同調意識による、追悼や哀悼の強要」
何故 周囲に合わせて哀しまなければいけない。
何故 過去を敬い、未来へ束縛を課す。
何故 口のない者へ当てたボヤきが、いちいち咎められる。
「それらを悖るワタシが、まるでさ……」
「ウ__ッ」
自由にさせろ。
「悪いみたいじゃあないか」
触れ合う頚椎と爪。
叩き投げる窒息寸での頭部、陥没と亀裂に遅ればせた衝撃。
「__ゴボ」
マッド質感な青は虚ろ、焦点も失せて。
まだ息がある、害虫。
「あー、そうだ」
「妹さん、随分と君を嫌っていたよ」
「!」
言に、愕然の瞳孔。
「いつも私の前を歩き、称賛され、お零れにあやかる滑稽な日々」
「そのくせ私を溺愛するお姉さん、心底恨んでいたそうだよ?」
「……」
「あれだけ激昂を振りかざして」
「当の妹さんが厭悪しているのは、他でもない貴女自身」
瀕死の鈍痛は既に、倒懸 足り得ていない。
這い伏す失意こそ彼女の患苦、ゆったりと染み去る色彩。
「オチとして少しばかり、酷でしたね」
「……そだ」
「嘘だ……うそだ、そんな……違う……」
溢る悔恨、嗚咽と拒絶。
「私の……妹は、そんな子じゃ……」
「嫌だ……うそt___」
空を遊ぶような一振。
バリも粗も無い、酷く美しい断面二対。
食道がクパクパと、未だ懺悔を垂れている。
「……」
完全な可燃物と化すまで、暫し静寂。
忍笑剥がれ、残債へポツリ。
「嘘だよ」
正確には、どちらかすら不明。
戦いが始まり、直後に飛ばしてしまったから。
「ククッ」
即席で出た、ただの虚妄。
「愛が多大である程、疑心は比例する」
「自身を砕くような大切に、向けるは一時の修飾でしかない」
・
「リバティさん、それ……!」
「心配には及ばない、時期に塞がる」
尻尾のない存在が、腕を振って代用。
駆け寄り開口一番、朱汁際立つ白へ憂虞。
「コレも売りへ、出しに行きますか?」
道端の偶然、誰かのボールを拾うように持ち上げた少女。
金に反する銀糸、まみれた泥へ張り付く雑草。
目が合うとつい、笑いそうになる。
「いや、打ち遣ったままで良いよ」
「こちらの通貨で稼いでも、意味がない」
「そうですか」
聞くや否や、雑に放られた汚球。
「お腹、空いてないかい?」
「……そういえば、少しだけですが」
「次へ行く前に、昼食としようか」
撫でると、付着した赤がミルクへ嵩む死臭。
心地良さげな稚児を穢す、他肉の軌跡。
「はい♪」
ニパりと、愛らしい賛同。
「ククッ」
繋いだ華奢が、温かい。
注文は、肉に決めた。
L0
ABCDEFGHIJKMNQRSTUVWXYZ12345678
9
ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ0123456789 新崎R @Sinzaki-R
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ0123456789の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます