お弁当箱
雲依浮鳴
お弁当箱
お弁当箱の蓋を開けるまで、ドキドキが止まらない。
今日は唐揚げが入っているのかな。
朝からそれだけが気になってしまい、午前中の授業は頭に入らない。
お弁当の時間になると、仲良しのアミちゃんとタケルくんの3人で集まって食べる。
いつもこの3人で、お互いにお弁当箱の中身を確認する。
2人が見守る中、私はお弁当の蓋を開ける。
今日も唐揚げが入っていますように。
・・・
私の家庭は裕福では無いが、貧しいわけでもない。
両親が日夜働いて、稼いできてくれているからだ。
だけど不思議なことに、2人の努力の結晶はシャボン玉のように飛ばされすぐに消えてしまう。
2人が言うにはこれが社会の仕組みということらしい。
難しいことは子供の私には分からないが、ニュースで食べ物が高くなるというのを聞いた。
アミちゃんもタケルくんも先生も、みんなが口を揃えて言うのだから、私が思うよりみんなを悩ませているのだろう。
私がこれをとても深刻な悩みだと感じたのは、アミちゃんのお弁当から、アミちゃんの大好きなトマトが無くなった時だった。
私はトマトがそんなに好きじゃないけど、アミちゃんはこの世の終わりのような顔をして、悲しんでいた。
タケルくんが悲しむアミちゃんのお弁当箱を見て、
「無くなってよかったな」
と、悪気なく呟いた。
それに対して、あのアミちゃんが、珍しく怒った顔をして
「お前の唐揚げもなくなればいいのに!」
と、今まで聞いたことのない大きな声で叫んだ。
驚いたタケルくんと私は、なんだかよく分からないままアミちゃんに謝った。
アミちゃんは2日経っても口を聞いてくれなかった。
なんで私も?と思ったけれど、そんな疑問よりも私のお弁当からも唐揚げが消えるかもしれないという方が嫌だった。
アミちゃんのトマト事件から今日で10日目。
今のところは私のお弁当箱と夕飯の品数は変わっていない。
これはママとパパのおかげだ。
ママは少しでも安く買えるように、自転車で走り回って食材を買ってきてくれる。
パパは同じ食材が続いても食事を楽しめるように、たくさんの工夫をして美味しい料理を作ってくれる。
2人のおかげで、私は変わらずご飯を食べられている。
ただ、嫌な事があるとすれば、私の家では食事中の会話が増えたことだ。
楽しい会話なら私も大喜びだけど、ママとパパはいつも楽しくなさそうに話を始めて、気がつけば2人とも大きな声でケンカしている。
ケンカのあとは2人とも悲しそうな顔をしているのが私は嫌だ。
もっと嫌なのは、ケンカの理由が私のせいだということ。
私は何も悪いことはしていないし、お家のルールを破ったことも無い。
なのに、ママもパパもお金お金と言ったあとは、決まって私の名前を出してケンカをする。
私が何かをしたのかと思って謝っても、2人は私は悪くないと言う。
大人って難しい。
・・・
そんな事をぼんやり思いながら、重たいお弁当の蓋を開ける。
2人の声が教室に響く。
唐揚げがブロッコリーになった!と驚き何度も確認するタケルくんと、
またおかずが減った!と悲しむアミちゃん。
2人に少し申し訳なさを感じながらも、
私は今日も、味のしない唐揚げを頬張る。
ー終ー
お弁当箱 雲依浮鳴 @nato13692
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