史実警察の望んでいる(かもしれない)の異世界を覗き見る
龍軒治マンソン
史実通りに書く現実
みなさん。史実警察を怖れていますか?
史実警察とは、異世界物に「中世に○○はない!」と文句を言ってくる人。
例えばジャガイモ、トウモロコシ、ハンバーグあたりが有名ですね。
筆者も異世界長編書く前から書き始めた頃は、怖れていました。
しかし、ある日気が付きました。
史実警察どころか、普通の人も読んでないじゃないか!
いや、そこが問題じゃない――問題ですけど。
そこから史実警察も怖れずに自由に書きました。
そこで、史実警察を怖れて書いていたらどうなっていたか、ふと疑問に思ったのです。
無駄に知識がついたせいで、他者の異世界物を見て「おいおい、こんなの史実警察が怒っちゃうよ!」と思ったりもしましたが、正直ツッコミ疲れました。
今回は、史実警察に言われそうな中世に無いもの、有るものを探っていきたいと思います。
ふはははは。同じようにツッコミ疲れするがよい。
■メイドはいない。いないこともないが、メイド服は無い
異世界物と言えばメイドです。
みんな大好き、メイドです。
では、このメイドが中世にいたかと言うと……メイド服のメイドはいないが正解。
当時のメイド――使用人は圧倒的に男だらけだったのだ。
女の使用人がいないこともないが、少数派。
雇い主によっては、家族同然に扱われることもある緩い関係もあった。
これが変わったのは、使用人税が出来てから。
男の使用人を雇えば、税金を取られたのだ。
そう。女の使用人なら税金は取られない。
そこから女の使用人が増えていき、19世紀にイギリスで制服として生まれたのが、メイド服である。
なので、史実警察に文句をつけられないように書こうとすれば、メイド服の使用人はいないことになる。
なお、みんな大好き(?)メイドのご主人様への御奉仕。いや、使用人か。
これは契約に入っていたことも。
合法。
■女性用の下着は無い
ブラジャー? ねぇよそんなもん。
中世以降と言えば、コルセット。
だが、これはどちらかと言えば腰を絞るもの。
それ以前は、布を巻いて胸を小さく見せたり、揺れないようにしたり。サラシに近い。
もしくは、胸の下にベルトや紐を巻いて持ち上げて強調させたり。
両極端である。
それはコルセット時代でも変わらず、大きく見せる方がいい文化と、小さく見せる方がいい文化が入り混じる。
現代に見るストラップ付きのブラジャーが誕生するのは、20世紀。
なので、中世にブラジャーはない。
――と思われたが、10数年前にオーストリアの城で現代の形に近いストラップとカップのあるブラジャーが見つかった。測定で15世紀のもの。
誰か現代から転生したか?
存在しても、普及は全くしていなかっただろう。
実際に使用されていたのなら、もっと実物や絵画が残っているはずである。
トップスはこんな感じ。
ではボトムスはと言うと……安心して下さい! 履いてませんよ!
ボトムスの女性用下着は、18世紀後半に誕生する。ハンバーグよりも遥かに遅い時代だ。
最初の女性用下着は、ドロワーズ。
ただ、このドロワーズも、今で見るものとは、少し違う。
当初は、股のところにスリットが付いていたのだ。
なんのために?
履いたまま出せるようにである。
出すって、変な意味じゃないからね?
ということで、史実警察が望むような書き方をすると、あの子もこの子もみーんなノーパン。
パンツが存在しないんだから、仕方ないね。
ちなみに男用はあったよ!
乗馬の際に中が見えるからと、履いてた女の人も。
■お茶、コーヒー、チョコレートは存在しない
これらはジャガイモやトウモロコシと同じで、大航海時代以降に入ってきた物。
お茶は歴史の教科書にも出てくる東インド会社が、17世紀に明(現在の中国)や長崎の出島から持ち込んでいる。
コーヒーはエジプトを征服したオスマン帝国を通じて、17世紀にイスラムのワインとして、ヨーロッパへ伝わる。
チョコレートは飲み物。カレー的な意味ではなく。
滋養強壮の飲み物として知られていた。
これを最初に見たのはコロンブスだが、インドにしゃかりきで興味は示さなかった。
ヨーロッパに伝えたのはアステカ帝国を征服したスペイン。16世紀の話。
これが今見かける固形になったのは、19世紀と遅い。
では、みんな何を飲んでいたかというと、お酒。
ヨーロッパは水が生で飲めなかったため、アルコールの入ったお酒が一番安全な飲み物だったのだ。
子供もお酒。
未成年がお酒いいのか? と思うかもしれないが、未成年飲酒禁止になったのは、ここ100年ぐらいの話。歴史の長さはチャイナドレスとあまり変わらない。
■食事は手づかみで
食事シーンとか、ナイフやフォークで上品に食べている。
現実は、フォークを使っていたのが、中世だとイタリアの極一部だけ。
手は神が与えた物として、道具を使うのは悪魔の行い! と聖職者激おこ案件だった。
それでも道具使う人は、ナイフとナイフで食べていた。ナイフで切って、ナイフに刺して食べる二刀流。
フォークの出番は、ほぼない。大皿から取る時ぐらいである。
その頃のフォークは2本歯。
近世に入ると道具使って食べた方が便利じゃん! となるが、普及はあまりしない。
2本歯フォークも、間隔が広すぎて食べにくいと3本歯に進化。
現代の4本歯フォークが生まれたのは、17世紀。
まだ手づかみ文化が残っていたイタリアで、上品に食べようと3本歯フォークを改造してパスタを食べやすいようにした。
これ以降、ようやく道具を使って食べることが普及した。
スプーンも、その辺りから普及し始める。
それまでも使わなかったわけではないが、多くは器に口をつけてスープを飲んでいた。
■風呂は朝
今と同じ感覚で風呂は夜。
なんて描かれがちだが、実際は朝風呂である。
これは理由がいくつかあり、風呂は身を清める行為という考えがあったこと。
なので一日の始まりに、身を清める。
もう一つは、風呂はパン焼くついでにお湯も沸かしていたこと。
お湯も今みたいに「お風呂が沸きましたー」と簡単に沸かせない。パンを焼く窯の熱を利用して沸かしていた。
なので、お湯が用意出来るのがパンを焼く朝だから。
ま、風呂シーンが夜に出てきても「風呂キター!」でツッコミ入ったの見たことない。
■ベッドはギシギシ言わない
スプリングのマットレスが生まれるのは19世紀。
それまではいいものだと羽毛やコットン。そうでなければワラ。
多くはワラベッドで、シーツを貫通して痛い。
燃えやすいから、明かりも使えない。
営み? 明るい昼間に麦畑や草むらで。
ドリフターズの誰かさんと誰かさん。あの世界である。
あの原曲は18世紀生まれだが。
■SとMという言葉はない
この言葉は19世紀に生まれた。
女性のお尻に挿入して投獄されたサドさんと、女性と鞭でぶたれる契約をしていたマゾッホさん。
偉大な二人の作家から、ドイツの精神科医が変態性欲として紹介した。
書き手は変態であれという言葉が込められている(かどうかは分からない)。
■そもそも、魔法使ったら死罪
史実警察を怖れていたら、まず書けない描写。
魔女狩りが始まったのは中世の頃から。全盛期は近世に入ってからではあるが。
魔女と言っても、犠牲者の2割は男だった。
天候不順は神の仕業? いや、魔女だ!
あいつは薬を調合して治してやがります。治療は聖職者の仕事なのに!
予言? 人々を惑わせるな!
とりあえず死罪にしたい。あいつは魔女だ!
と、色々挙げてまいりましたが、みなさん時代劇を思い出してください。
岡っ引きなのに十手持ってる。
というか、十手の基本は身分証明証なのに、堂々と腰に差してる。
江戸が終わる頃にアメリカで生まれた機関銃が出てくる(子連れ狼のは、全弾一斉発射ではあるが実在した武器)。
それどころか、明治時代にイギリスで生まれたマキシム機関銃出ちゃったよ!
ペリー来航前の時代なのに拳銃が出てくる。
時代考証重視でも、見栄え優先した作品だってある。
小説は大衆娯楽。
史実警察なんて気にするな!
よいカクヨムライフを。
史実警察の望んでいる(かもしれない)の異世界を覗き見る 龍軒治マンソン @kbtmrkk
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