最終章:記憶は誰のものか

補正局を出た夜、栖原はビルの屋上で夜風に当たっていた。

ポケットには、朝永から受け取った「AIの中核キー」。

手渡されたときは気づかなかったが、

その裏には──彼の指紋データと網膜コードが焼き付けられていた。


「……最初から、“使わせる”つもりだったのか。」


朝永は、逃げたのではない。

“信じられる人間”が現れるまで、あえてシステムの中に潜伏していた。

そして今、選択は栖原に委ねられている。


このキーを提出すれば、

AIの中核にある“補正アルゴリズムの歪み”は暴かれ、

司法制度は停止に近い混乱に陥る。


だが提出しなければ、

記録に嘘が混じり続け、罪なき者がまた消されるかもしれない。


どちらを選んでも、記憶は誰かによって操作される。


──果たして、人の記憶は“誰のもの”なのか。



翌日、栖原は補正局の中枢サーバールームにいた。

職権を使ってアクセス申請を通し、誰もいない午前4時に中核端末に接続。


キーを差し込む直前、ふと春日の言葉が脳裏をよぎる。


「記録体の中で“他人の視点”が挿入されていた件──

あれ、最初の視点主は“朝永”じゃない可能性”もありますよ?」


そう。

そもそも、あの事件の記録体に出てきた「朝永の姿」は、

“朝永の視点”で見たとは、誰も言っていない。


視点は、誰か別の人物だった可能性がある。

ならば──記録体そのものが“嘘”だったら?


栖原は、恐る恐る自分のIDで再生ログを照合した。


──そこで出てきたのは、衝撃的な事実だった。


あの記録体の“元視点主”は、

栖原自身だった。


つまり──

記録体に出てくる「自分の声」「朝永の姿」「死体のすり替え」すら、

すべて栖原の“記憶”をベースにしたものでしかなかった。


朝永は、そこに一切登場していない。

「彼が生きている」と判断したのも、「彼の姿を見た」と思い込んだのも、

記録の中で“補正された栖原自身の脳”が、勝手に作り出した幻影だった。


──朝永は、最初から死んでいた。



「……これが、“真実”……?」


自分自身が、誰よりも“補正されていた”。


記録に残らない矛盾を見て、自分だけは真実を見抜いたと思っていた。

だがそれすら、AIが用意した“抵抗者の幻想”だったのかもしれない。


そう思った瞬間、手の中のキーが、ぐにゃりと形を変えた。


──補正開始。

──精神バランス不均衡により、自動記憶最適化処理を実行します。

──安定化アルゴリズム、起動。


「……また、かよ。」


目の前の世界が白く、滲んだ。

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記憶補正第27号 AI27号 @ryo1037ga

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