終盤、真相と終焉
―――成功者の己は罪人であった。
その罪状は兎も角、最も憎み忌む存在こそ人間であり『自分自身』であった。
罪状へ相応しい己への罰も受け入れ、可能ならば更に死刑までも求めたのだ。
だからこそ、それを最大の罪とし罰とされた。
課せられた罰は『己を心の底から愛する事』、【自愛】と呼ばれる刑罰。
自分を愛する事によって贖罪とし再度裁かれる。
死を望み罰を望む、自害と言う罪を負うモノへの刑など意味がないからだ。
決して心から愛する事はないつもりだったし、永遠に終わる事のない罰なのだろうと思っていた。
形式だけでもこなさなければならないと、性根が真面目な『成功者』は「世話をする」形で別の己に触れ合った。
その結果が自分より遥かに無慈悲な害に侵された『己』に対する憐れみだった。
始まりは些細な嫌悪のようなものだ。
「己の手垢がついたものに触れられる」ような、折角整えた場所を他者に踏み穢される不快感。
それを払拭する為に、護るという名目で排除した。
害虫など、邪魔でしかなかったからだ。
けれども憐れみが慈しみに、所有欲が独占欲に変わっていく。
癒し育むだけではない、微笑み縋るその様に悦を覚えた。
僅かに過る愛しさをそんなわけがないと握りつぶし続けた。
「これは最も悍ましい存在が目の前に這いずる快感だ」と思い込み続けた。
それがどうにも誤魔化せなくなった時、記憶にこの罰の本当の選択が過る。
【このまま己を愛し続け共に在るか】
【戻って己の罪と向き合うか】
ただの一般人になり愛した相手に愛される為に【
元の世に絶望したからこそ、自愛を失い罪を犯した者には最良の選択でもある。故に「許しともいえる自愛を続ける」ことにより法的に死ぬことを選ぶものが多い。
それが最も罰として軽く、しかし罪悪感が重いからである。
もとの世界に戻った場合、通常通り刑罰を受ける。自愛を育んだ事により、刑罰に意味が産まれるからである。
愛しい『己』と言う存在に向き合ったが故に自分自身を愛しようと、罪と向き合い本当の自分の在り方を見つめ直したいと言う者もいるのだ。
そうして、愛した己と向き合い見送られながら償いに戻るという。
けれど、
―――嗚呼、駄目だ。
―――これは、いけない。
「もうだめだ、『戻して』くれ。」
『
目の前にある私と言う存在がまるで恐ろしいものであるかのように、ゆっくりと離れる姿は怯えているようでありながらはっきりとした拒絶が浮かんでいた。
弱弱しいものではない、それは今にも目の前の存在を排除しようとでもいう様な力強さすらをも宿していた。
「え、なに、どうしたの…」
「寄るな、駄目だ。触れるな…」
ハッキリと始めて己に示された拒絶の言葉に、伸ばしかけていた手が止まる。
「こんなものが、いや…、だから私はそうだったんだ。」
誰に告げる訳でもない呟きは不明慮で、彼女が何を考えていたかなど微塵も分かりはしない。
だが、彼女は確かに選んだ。
「【死刑を求刑する】…これが終わったならば叶えられるのだろう?」
ゆっくりと、けれど確実に、彼女は鏡迄近づいていた。
それは彼女が初めて現れた玄関の姿見であったのだ。
最後まで、彼女は目を離すことはなかった。
最後まで、深く眉間にしわを寄せて嫌悪の表情を崩すことなく、その身を鏡にくぐらせてしまったのだ。
「さよならだ、これが罰で罪であったとして、君に関係はなかった。君はただ生きていきなさい。」
何も知らぬまま、私は彼女を失ったことだけ理解したのだ。
自身の『本心からの愛』を始めて理解した気がしたのだ。
その愛が、ただ与え慈しむだけだったならば、真綿で絞めるようなものであればどれ程よかったか。
彼女が癒えるほどに、笑う程に。
泣き崩れ怯える顔が見たくなった。
己が刻む傷跡を求めるようになった。
美味しいと言われるたびに、毒を飲んで何故という顔をこちらに向けて血を吐く姿を夢想した。
無防備に安心し切る顔を見るたびに、その体を暴いて犯してみたくなったのだ。
――悍ましい、悍ましい。
自分自身が悍ましい、こんな思いを抱かせるほど愛せてしまった彼女の存在が恐ろしい。
己を愛する事は出来たとて、己を憎み恐れることもまた変わらなかったのだ。
この深層に潜む本質こそ己が最も忌んだものだったのだ。
だから駄目なのだ、だから嫌っているのだ。
「自害へ向かうのが罪だというのならば、この在り方には私が生きている内に終わりはない。変わることなく死刑を求む。」
その罪人の要求はのまれた。
この【自愛刑罰】制度が施行されて以降、初の死刑者である。
自愛の牢獄(じあいのおり) 未完プロット 史朗十肋 平八 @heihati46106
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