自愛の牢獄(じあいのおり) 未完プロット

史朗十肋 平八

冒頭あらすじ、と導入

 仕事から疲れて帰ってきたとき、ふと新しく購入した姿見がくたびれた自分ではなく姿勢のよい個性的な服装をした自分を映し出した。


 鏡像であるはずの自分と目があった瞬間、相手はにやりと笑い境界を越えてこちら側にやってきたのだ。

 異なる世界から来たという『成功者の自分』と勝ち組ではあるはずの『会社員の自分』が同じ場所にいる矛盾。

 成功者の自分は何年か未来より来ているらしく、投資などで収入を得られるので「このままこの部屋で同居してほしい」と持ち掛けた。

 不可思議ではあるが妖しさは変わらない、追い出そうとしたが「どう見ても身内でもあるし、自分は君だ。どうあっても、身分も罪も君に被るぞ?」と告げられた。

 「何も不利益のみではない。言ったように収入はあるから家賃や生活費は払うし、家の事は全てしよう。どうだ?」

 疲れていた自分は面倒になり、それを承諾する。

 それから別次元の自分との奇妙な生活が始まる。


 宣言通りに家の掃除や炊事洗濯など全て行い、人相を拒ましながら近所づきあいまでやってのける『自分』に得も言われぬ恐怖を感じるが、同時に生き生きとしながらのんびりと生活している様に見える『自分』に嫉妬心を抱く。

 家のこと全てを受け持ち、収入もある。自分の生活は随分と良くなったし、助かっている筈だが、それを与えられるほど恵まれる『自分』が妬ましいのだ。


 ある日、脚にあった湿疹が悪化した。

 むくみが原因で摩擦を起こし、じゅくじゅくとした傷になっていたのだが、入浴後その手当の為に救急箱の場所と中身を聞く自分に『自分』はどこか怪我をしたのか問う。

 答えながら傷を見せると険しい顔をして、普段の服装や仕事中の行動などを聞いてくるが、最終的に靴下やストッキングを確認しに行ってしまった。


「買い替えな。これを履きたての時、ちくちくしたり刺激が気になった時が絶対にあっただろう。君にこの材質は肌に合わない。」

 『自分』は紛れもなく自分自身なのだ。

 体質も同じであるからこそ、自分が自覚していなかった体質を向こうは知っていた。

 それを切欠としてか、様々なことを気に掛ける様になる。


「飲み会の帰りに耳の裏を痒がっているが、アレはアレルギーだろ。君、摘まみに甲殻類――イカ蛸、貝類、エビカニ辺りは避けた方がいい。アルコールも相まって反応が酷くなる。最悪呼吸器に来るアナフラキシー反応が出るぞ。」

「髪は伸ばしていい。伸ばしたかったんだろう?職場に相応しいというのは大体纏めてしまえばいいんだ。結ってやろう。」

「ケアは面倒だ。だが、これをしないと最悪血まみれになるぞ。自分でするならワセリンででも保湿しろ。自分がいるなら任せとけ、ほらやってやろう。」


 日に日に『自分』が手を出すことが増えるにつれ、徐々に綺麗になっていった自分を何処か誇らしくなり、調子がよくなる。




 だが、その様子を見た『自分』が言う。

「三日後の休み、予定は入れるな。絶対に休暇をとれ。」

 そうして病院へと検査に向かった。

 ―――適応障害、鬱、パニック、喘息、貧血etc

 最近の健康診断ではなにも引っかからなかったのにとショックを受けるが、『自分』曰く、「誤魔化せる部分とそうではない部分がある。それに気が緩むと症状が進むという人体の不思議も発生するもんだ。…随分気を許してくれたみたいだね?」

 微笑みかける『自分』に随分と自分はこの人に心を許していたのだと改めて思ったのだ。


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