第9話 サプライズ





「ごほごほっ、ゥエエエ……はむっ」


 もぐもぐ……ごっくん。


 俺は仰向けになったまま、震える右手で【異空間】を描き、緑のキノコを取り出す。

 身体の傷口が少し治る気配と、完全に枯渇していた魔力が僅かに戻る。


 それでも、身体は動ける気が全くしないので、さらにキノコを貪り食う。


 早数十分、そこらのカタツムリと駆けっこしたら、ぎり負けるぐらいまでには動けるようになる。


 結論、まじで運が良くなければ死んでいたかもしれない。


 十分後―――――――。


「えぇ……っと、あった!」


 回復した俺は、脱ぎ捨てたロングコートを見つけて被り直す。ついでにカゴも見つけて中を覗く。


 幸いにも木の実は潰れていないようだ。良かった良かった!探し直しとか地獄だもん。


 っにしても、やばかったな、まじ。

 俺は、横にある竜の死骸を見つめ、触れる。


 そして俺は、【異空間】の魔法陣を描き竜を収納する。カゴを背負って、未だに聳え立つ土の壁に向かって歩きだす。


 竜を殺せたのは、正直奇跡に近い。

 昔より魔法の腕が上がっているのは確かなのだが、成体の竜を倒せる程ではない。


 怪我をしていて成体ではなく、魔力も少なくなっている個体だったのが不幸中の幸いだった。


 ましては、この身体は子供なのだ。

 俺が、いくら神族とのハーフとはいえども、無理がある。魔力の波動による魔法の感知ができなかったら、最初で肉塊に変形させられていただろう。


 うん、怖っ!


 なんか、相手の魔力が少なかったから【スター統治ガバー】が決まったのは良かった。


 【スター統治ガバー】とは物体を操るものではない。


 物体に宿っていている魔力に侵入する魔法だ。侵入したあと、その物体の魔力をすべて自分の魔力に変化し、支配、操り、統治する――それが【スター統治ガバー】だ。


 さっきのは、竜の身体に巡らさせれてる魔力回路に魔力を侵入させて、思考及び行動をコントロールした結果だ。


 まあ、簡単な話。以下の条件が揃えば良い。


①相手の魔力の波動を感じられている

②魔力の質、量を考慮し自分の方が高い

③【スター統治ガバー】に込められた魔力が相手の粘膜に触れている


 んで、俺の勝ち!……っということです。


 万物に魔力は宿るといえども、竜と人間の魔力回路は違う。ここが懸念点だったけど、まぁ成功だ。

 違うからこそ、魔力操作の勉強にもなる。一瞬だったから、よくわかんなかったけど。


(はぁ……もう少し見れば、もっと魔力操作が上手くなったら魔力の消費が抑えられるのに)


 ないものねだり、っていうやつだろう。


(それをいうなら武器もだな)


 しばらく、歩いて土の壁の元に辿りつく。歩く壁に触れる。抜け道は、ないか。……よし、壊すか!


 背負っているカゴと着ているコートを地面に、静かに置く。


 すでに、土埃で汚れている右手を固める。もう、残り少ない塵みたいな量の魔力を集める。深く息を吸って、吐く。


 そのまま〜、右ストレートォォォォォォ!


 土の壁が轟音と煙を立てて崩壊する。人が1人通れるぐらいには穴が空く。反対側からを覗けば、子供のように喜んでいるアルスの姿が見えるだろう。


 まぁ、ただの子供なのだが。


「――っしゃ!一発だぜぇ!」


 カゴとコートを取ってスキップする。今日は疲れたから、冒険者ギルドに果実を提出して終わりにしよう。んで、カイに頼んであの広い庭でも借りて解体するか。


 あの辺りは、人通りが少なくていいからな。


 いや、その前に街の偉い人に報告しておいた方がいいか?竜が、比較的魔力の薄いこの森にくるなんて異常ともいえることだ。


 街についてからの予定を考えながら、俺は帰路につくのだった。勿論、ちゃんとコートを着込み、フードを展開しておいた。


 じゃなきゃ、殆どの人が唖然として話にならない。ほんまに、なんでやろ???





――――。





 城壁前ぐらいについたのだが、兵士たちが騒がしい。疲れているからそのまま、検問を素通りしようとしたら、俺を以前捕まえた兵士に声をかけられる。


 なによ〜、俺は報告があるんですけど〜?


 ちなみに俺はこの人のことを、恨んでもいるわけでも、赦しているわけでもない。まぁ、処刑場に連れて行かれたのは俺が悪いんだけどな。


※処刑場ではなく、観光案内所です。


「おい、あんた!あの森の方から来たけど大丈夫か!?」

「んぁ?どういうことですか?」

「あれだよ、あれ」


 兵士が指を指したほうを見る。……ああ、あの竜が出した土の壁のことか。そっか、そうだよな、街からも見えるぐらいの高さだもんな。


「何があったかは分からないが、この時期だから警戒するべきなんだ」

「あれは竜の魔法ですよ」

「……ん?今、なんていった」

「だから竜の魔法ですって、ん?もしかして、偉い人以外にも報告したほうが良かったか?」


「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ???」」」


 はぁ……疲れているとは言え、判断力が低下しているな。良くない、良くない。

 突然、静止して大声をあげて、唖然とする兵士たちに声をかける。


「うん、そうだよ、そうだよな。っじゃ、報告したいので……なんか人を呼んでください」

「お、おう……分かった。そこで待ってろよ」


 お前ら、こいつを案内していろ!と叫んで兵士の中でも強そうな人が、あたふたしながら何処へ走っていった。


 俺はその間、門の兵士の休憩場みたいなよく分からない所へ連れて行かれた。

 うーん、ソファがふかふかだぜ!


「はい、どうぞ」

「わぁ〜、ありがとうございます」


 兵士の人に差し出されたお茶とお菓子を受け取る。相手に、バレないように軽く匂いをかぐ。

 ……毒の類は特にないか。


 ここら一帯で摂取していけないものはない。森で育っている以上は、そういうのを把握していないと生きていけない。


 まぁ、敢えて摂取しまくってある程度の耐性はつけたけどな。じいちゃんによって、強制的に。つらかったでやんす………。


「ん〜、これ、美味しいですね」

「あははは、それは良かったです」


 残った兵士の人達と、当たり障りのない会話を続けること、数十分。扉が勢いよく開き、息を切らした兵士と、初老のような男が入ってくる。


「ハァハァ、すまない。随分とお待たせしてしまったようだ」


 そういうと、男は乱れたネクタイを直しながら、向かい側のソファにゆっくりと腰を掛ける。


「いえいえ、も伺うする予定でしたので。むしろ、来ていただき助かりました」

「……ほう?それは、何故ですか?」

「お恥ずかしながら、場所を把握しておらず……」

「それは、それは」


 兵士の一人が、お茶を男に差し出す。男は、お茶を一口飲み、喉を濡らす。

 兵士が全員、部屋からでる。そして、初老の男は口を開く。


「申し遅れました。私、冒険者ギルド、ハルゴーグ支部、副ギルド長、ボレトルと申します。現在不在となっておりますギルド長と領主様に変わりまして、大伺いさせていただきました」

「これはご丁寧に、僕の名前は……っと、失礼しました。フードを被ったままでした」


 やんべー、この人偉い人だろ。フード被ったままとか、処刑とかにならないかな?大丈夫……、であれ!


 フードを脱ぎ、目を合わせる。副ギルド長、ボレトルさんの目が、大きく見開かれる。


「改めまして、僕はアルス・ワードといいます。どうぞ、よろしくお願いいたし――」

「気がつかず、申し訳ございません!」

「――ふぇ?」


 目の前で、素早く土下座へと変形した副ギルド長。頭が床に練り込むんじゃないか、って程だ。


 んん????どういうことだ?……もしかして、俺の対応が完璧すぎて、ってことか!まぁ、ね。一人称も俺から僕に変えたしな。


「その特有の金髪!まさか、テイス王家縁の方だったとは!」


 はい、違いましたー。俺の対応の「た」の字すらありませんでしたー。


 ……ってかさ


「すみません。我ながら無知で申し訳ないのですが、金髪って王家縁の印なんですか?」

「はい!気づかなかったとはいえ、申し訳ございません!何卒!処罰はなしに――」

「あの〜、勘違いしてる所申し訳ないのですが、僕は王家縁の者ではありません」

「……………はい?」


 顔だけを、チラッとこちらに向けてくる。


「僕はただの一般の家庭で生まれた者です。だから、顔をあげてください」

「……はぁ、そうなのですね」


 副ギルド長のボレトルさんは、土下座状からゆっくりと起き上がり、ソファに座って安堵のため息をつく。


 もしかして、フードを取ったら誰も唖然となるのって、この金髪のせいか?だったら、納得がいく。突然、国のトップが目の前に来るみたいなもんだからな。


 日本で言う所の、ある日、いつも通り散歩をしていたら天皇陛下に会うみたいなもんか。


(ん?厳密には違う気がするな)


 ボレトルさんは、深々とこちらに頭を下げる。


「こちらの早とちりですみません」

「いえいえ、勘違いは誰にでもあるものです」

「そう言っていただけると、助かります。……ただ、年寄りの独り言として聞いてほしいのですが」

「はい」

「たまーに、遠い先祖に王家と混じっている家系があるのは知っていますね?」


 うん、知らんぞよ。

 ボレトルさんはそのまま続ける。


「金髪は直系にしか出ないのですが、本当に極稀にですが、先祖返りで金髪がでる人がいます……おそらくあなたはそれだと思います」

「へー」

「そして、純粋な金髪の人は王家の血がほしい家系にものすごく狙われます」

「ん?何故ですか?」


 なんで欲しんだろう?


「国が傾いて、いざって時に、必要なのですよ」

「いざって………っ、成る程そういうことですか」

「はい」


 普通に理解したわ。質問が無駄になってしまった。次からは、気をつけなければ。


 え?何がなんだが分からない、だって?

 やれやれ、理解していない諸君に伝えておこう。


 要は、クーデターだ。


 国が弱った時に、自分たちの家系が国を乗っ取ったとしても、正統性がない。これを理由に、クーデターで弱った直後から他国を受けることになる。


 これは、最悪の状況ともいえる。


 故に、王家の血を取り入れることで、自分たちの正統性を成立させて、他国の大義名分を潰しておく……というのが狙いだな。


 国同士の戦争においては、民衆に対する大義名分が出だしでもっと重要視される。


 副ギルドのボレトルさんが、口を少しあけて、目をパチパチさせている。


「すごいですね、この一瞬で気がつくなんて」

「いえいえ」

「まだお若いのに……もしや前世が策士、軍師、その類だったりしませんか?」

「またまた、そんな御冗談を。僕のような人間が指揮を執ったら、全員早死にですよ」

「謙虚ですね?……それでは、話を戻しますよ」


 二人は同時に紅茶を口に運ぶ。


「つまりは、有力貴族に攫われる危険性がある……ということですね」

「はい、攫われて種馬にされるだけなら、まだしも口封じに秘密裏に普通に殺されます。その際に、派遣される貴族の私兵もかなり強い、冒険者でいう最低でAランクはあり、世界の上澄みとも言える存在ばかりです」

「……追われて、生きて帰った人は?」

「さぁ?私は聞いたことがありません」


 わぁーお、怖すぎる。そんな、爽やかなな笑顔で言うことではないね。たまたま、今までそういう人に会ったことがないだけか。


(真面目に課題だな、この髪色)


「さて、話が大分ズレてしまいましたね」

「……あ、本当ですね」

「すみません、話が長いもので……それでは、竜の件について報告をお願いします」

「はい、わかりました」


 俺は、起きた事を話した。


 朝方、依頼のために森へ行ったら竜に襲われたこと。

 その竜が、かなり若い個体で、何故か重い怪我を覆っていたこと。


 救助を期待して、時間を稼いでいたら、たまたまこと。


 町まで戻るのに時間がかかり、魔物たちによって荒らされている可能性があるので、死体があるかどうかはわからないこと。


 ……これに関しては事実だが、事実ではない。


 まず、条件次第で操れることを知られたら危険人物として認識されるだろう。んで監禁or軟禁、良くて監視。なんなら、殺されるかもしれない。


 そんなのは、まっぴらごめんだ。


「……以上が報告となります」

「なるほど、」


 これは、調査の必要がありますね、とボレトルさんは小さく呟くと、部屋に入っていたばかりの兵士に指示をした。


「兵士長さん、ハルゴーグ騎士団と冒険者ギルドに調査依頼を、今すぐに出して来てください。ギルド長と領主様に『早く戻って来い』と連絡してください。わかりましたか?今すぐにです」

「は、は、はい」


 兵士長と呼ばれた男は、急いで部屋から出ていった。ドアが閉まる音と同時に、ボレトルさんがこちらを改めて向き直す。


「ご報告ありがとうございました」

「いえいえ、当然のことをしたまでです」

「そう言って頂けると助かります。報酬は追って手配しますので」


 やっと、俺は報告が終わったので部屋を立ち去ろうと、ボレトルさんが声をかけてくる。


「あぁ、アルスさん。その髪の事はここだけの秘密にしておきます……それで、命を狙われない方法がありますよ」

「それは、なんですか?」

「一つは、髪を金色以外に染めること、これが最も簡単です。んで、次が単純明快、二つ目が――」


 ボレトルさんは、ソファから身を乗り出す。


「誰にも負けない強さを持つことです。――強さとは、貴族が手を出せない社会的地位、もしくは物理的な強さのことですよ?」


 そういうと、身を前の状態に戻して紅茶を一口飲む。片方の口角をあげる彼に、苦笑しながらフードを深くかぶり直す。


(誰にも負けない強さ……か)



 うん!また今度、髪を染め直そう!


 俺は、部屋を出た。



――――。



 冒険者ギルドに、依頼品を提出しにいった時のことだった。修理された……魔テレビ?とかいう、デカめのテレビに冒険者たちが群がって、騒がしい。


 自分と同じで、依頼の報告をする新人冒険者から、昼もかなり下り坂というのに、もう酒を飲んでいる魔法使い。

 かなり、存在する人間は多種多様だ。


 受付のカウンターに向かっているであろう列が3〜5列ほど、横に展開している。


「……はい!次の方どうぞ〜」

「依頼を達成しました」


 順番が回ってきたので、すぐさまそう答える。報酬を受け取り、冒険者ギルドを後にした。




――――――――。




「アールスくん!」

「うん、近い」


 カイの家のドアを開けると、目の前にエルフの顔があった。

 思わず出てしまった僕の言葉を、気にすることなくカイは、少し下がりながら続ける。


「ねぇ、魔スマホって持ってる?」

「いや?ないけど」

「持ってないか〜!」


 今日、初めて存在をしったからな。

 俺の言葉に、にやにやしながらカイはポケットから何かを取りだす。


 取り出した物体を手渡ししてくる。


「あげるよ、それ」

「これは…、魔スマホ?」

「うん、いいよ」

「そのセリフは『いいのか?』って言ってから発動するモノだぞ」

「うふふふふっ」


 楽しそうに笑ってカイは、リビングに戻っていった。

 苦笑しながら、手洗いうがいをしたあと、スモールサイズ、ユニとカイがいるリビングへ移動した。


 そこで、初期設定しようと思ったのだが…、全く仕組みを理解することができなかった。

 それを、見かねたカイがソファから近づいて来る。


「アルスくん、助けようかい?」

「頼むわ」

「OK!」


 カイに、魔スマホを手渡しをする。

 にしても、まじで難しいな。12年(+数年程度の前世)生きてきて、はじめて理解できなかった。


「あっ、アルスくんとユニちゃんちょっと、こっち向いて」

「ん?」「きゅ?」


 呼ばれたのでそちらを向く。


 パシャ。


 小さくシャッター音が聞こえる。


 カイが自撮りモードで、写真を全員一緒に撮ったようだ。

 不思議に思う俺とユニを置いて、カイは満足そうに魔スマホを弄る。


「はい、できたよ」

「おぉ、ありがとう」


 カイから魔スマホを受け取る。


 早速、画面を覗いてみると目にはいってきたのは、先程撮った写真だった。


 右手側に大きく笑顔なカイの顔が写り、真ん中に不思議そうな顔した俺、左に見返り美人姿とまごうことなき、子馬モードのユニとなっている。


「これは?」

「うふふふっ、サービスだよ!」

「きゅ?」


 うふふふっ、うふふふ、とカイはどこまでも明るく笑う。


(待って!?これ、俺のスマホなんだが!?)


 今のカイに言っても、さらに笑うだけだろう。


 しかし、俺はこれをなんというか、まぁ、その。

 


 

 悪い気分にはならなかった。

 


 






??????まで 残り2日




 

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星は堕ちて道となる クワイエット @horikoshin

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