きみへの手紙
百鳥
きみへの手紙
ぼくは「恋」というものが分かりません。
誰かに胸をときめかせたことも、誰かを思って枕を濡らしたこともありません。
恋人どころか友人すらいなかったけれど、それを孤独だとは思いませんでした。
道ばたの花や流れる雲を見ているだけで満たされていました。
そんなぼくの前にきみが現れましたね。
きみはぼくのことを不幸だと決めつけました。
友人も恋人もいない人生は空虚であると言って、ぼくにつきまとってきました。
あの時ほど腹が立ったことはありません。自分の中にこれほど激しい感情があったのかと驚いたほどです。
きみは幸せでしたか?
ぼくをからかって楽しかったですか?
返事もろくに返さない人間に一方的に話しかけてきて、あちこち振り回して……そして、唐突にぼくの前から消えてしまった。あいさつは大事だとぼくに口酸っぱく言ったのはきみなのに、それすらありませんでした。
葬儀の席で、きみが病気で余命いくばくもなかったことを知りました。最後の人生をぼくと過ごしたかったのだと知りました。
でも、ごめんなさい。
ぼくはまだ「恋」というものが分かりません。
あなたがぼくの胸にあけた、この穴の名前がいまだに分からないままなのです。
きみへの手紙 百鳥 @momotori100
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます