第4話
「―――あちゃあ」
私は思わず頭を抱えた。
目の前に、割れたガラスが飛散している。
「やっちゃったぁ」
部屋に置かれた段ボールを一旦どかし、ガラスを片付けるためのスペースを確保する。
――私は、週末の引っ越しに向けた荷物の最終調整をしていた。
棚の奥から服やアルバムを引っ張り出し、家具の掃除をして業者の人に預ける。
その間、様々な思い出の品が手元に転がり出てきた。
昔大事にしていたぬいぐるみ。幼い頃の家族写真。誕生日に友達からもらったブレスレット。
その中に、1つ、ガラス製品があった。
「…これ、いつもらったんだっけな」
…確か、6歳の頃だったと思う。
その日は、私の住んでいる地域では珍しいホワイトクリスマスで、両親がすごくはしゃいでいたのが印象に残っている。
私も、思わず家の外に出て――そこで、一面が真っ白に染まっていく様を見た。
ふわりと舞い降りる雪が、世界を、淡く包んでいく。
その光景にすごく感銘を受けて――その勢いのまま、私はクリスマスプレゼントと称してそれをもらった。
「もう、あれから10年以上経つのか…」
割れたガラスを慎重に集めながら、ふと、少年と少女を模した小さな人形が目に留まった。
どうやら、ガラスが飛散した際に一緒に飛び散っていたらしい。
壊れていないか不安になって確認したが、どうやら人形は無傷のようだ。周りに家や雪だるまを模したものも一緒になって転がっていたが、全て問題なさそうだった。
それらを地道に拾い上げて状態を確かめていると、ふと部屋の扉がノックされた。
「はーい」
「ちょっと美奈子、なんか音がしたけど、何か落としたの?…って、あら」
部屋に入ってきたのは母だった。床を見て驚いている。
「何これ…ガラス?危ないじゃない」
「ごめんごめん。でも、大切なものだからさ。一応持っていきたくて」
「…でも、壊しちゃったんでしょう?そのスノードーム」
母がそう言って、部屋の隅に置いてあった掃除機を手に取った。
「大切って言っても、最近はずっと棚に仕舞い込んであって、全然眺めてなかったじゃない。また新しいの買えばいいんじゃないの?」
「――ダメだよ」
私の言葉に、母が息を呑んだのを感じた。
「ダメだよ、そんなの。確かに、最近はすっかり仕舞い込んじゃってて、見れてなかったのは事実だけど…。でも、だからって、捨てるのは違うと思う。これには…このスノードームには、私の想いが詰まってるんだもん」
「美奈子…」
「ドームはバラバラになっちゃったけど、中身のミニチュアは無事みたいだしね。せっかくだから、業者さんにでも頼んで作り直してもらうよ」
「…そう」
母は私の頑なな姿勢に絆されたのか、少し表情を和らげて頷いた。
「…美奈子がそうしたいって言うなら、全然構わないわ。物は大切にするべきだものね」
「そうそう!…それにこういうものって、取っておくこと自体に意味があると思うんだよね。思い出を大事にするのに、理由なんて要らないし」
「…それもそうね」
母に微笑みかけ、私は拾った人形達を綺麗な小箱にしまった。
ガラスと一緒に散ってしまった銀箔を集め、まとめて袋に入れる。
「…そうだ。今度スノードームを作る時は、虹色の粉とかにしてもらおうかな〜」
「へぇ、そんなことが出来るの?」
「なんか、最近だとオーダーメイドでそういうのも作れるらしいよ」
――もしそんなことが出来たら、きっと新しいドームには、永遠に虹色の雪が舞い続けるんだろう。
そう思うと、そんな光景も少しだけ見たくなってしまって、私は小さく声をあげて笑った。
白銀の箱庭 天園千星 @TwincleStar1116
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