先祖御霊大前之祀
琵琶湖。未だ地球があった昔、我が家の故郷には大きな湖があった。父上、母様と共に訪れた時のことをよく覚えている。幼い俺には自然など退屈なばかりで、邸宅での日常の方が余程華やかだ。只大量なだけの水を好んで眺め、何か安堵するように噛み締めていた父上は、その年の内に死を迎えた。
余りにも若い歳であった。父上の
半万年後に地球は爆発し、琵琶湖も吹き飛んだが、母様が作りし不朽の一輪は無事だった。
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「二百五十一年遅れの七千二百回忌、待たせてごめんなさい」
大地と大気を諸共に震わせ、
「随分ではない父上よ。生身での星間旅行は流石に堪えた」
「
吹き
「皆で参るともなれば、一期一会の思い出にしましょう」
浮島に置かれた小さな墓石の水鉢に水を張り、
「父上も御爺様も、地球極東の島国が故郷だったか、
これまで無言でいた女が、不満気に愛呼の背に立って囁きかける。黒と金をあしらった制服姿は、神々しきも禍々しきも感じられないが、人目を惹き付ける優美さを帯びている。愛呼は佇む姿勢を崩さないままに言葉を返した。
「遠回りな言葉は必要ないよ」
「勇士に敬意が足らずや、如何」
「先祖を敬うのは尊いけれど、分からんかね?彼は派手な祀りを好かない」
それだけを言われると、途端に女は黙り込んでしまった。反論できる筈もないから。平穏を求め続けた者ならば、安らかに眠らせてやるのが、特殊なれども道義である。しかし、理屈ではないのだろう。強者を絢爛に祀りたいのは、畏敬を受けた者の
「折角だ、父上に何か言いましょう。子孫が集うこの場こそ尊くあろうから」
深紅の
「我が家は
頬を赤らめて
「彼の島国には美麗な海があったらしいね。海面が天空を鏡の如く映し出すのだと。本当なら、祖父様が愛した地上現世も悪くないかもな」
「不勉強なり。それはフクオカに光景ありて、キンキには遠かろう」
「黙りな
「阿保らしい。只人共の地理なぞどうでもよし、如何」
呆れた様子で兄弟喧嘩を笑い飛ばした末の娘は、墓標へと歩み寄り身を屈めた。墓石に刻まれた名を指でなぞりながら詠唱を上げる。
枯葩 ---
星芒暦前---年 絶命
旧字から改められ、現代漢字で記されていた。没年は、彼の強かさからすれば余りの短命を示している。
「私の夢を聞いて。語るにも恥ずかしい
突然に風が吹き抜け、彼女の言葉を掻き消した。劇的な偶然ではなく、秘密の話を意図的に隠したのだ。秘めずともきっと、この場の者は嘲りなどしないだろうが。
「さようなら父上。八千四百回忌には遅れまいぞ」
「俺らは然る間に実家で会おうや」
「うむ。
「定期会合まで、君ら精々堕ちないよう、如何」
沸騰する空間が
華ある生涯を往く神々の
此れは絶えざる一族の物語。十万億土の造園を目論み、不滅の姓を刻む者達。
骸華之一族 Hurtmark @25511E2
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