便利すぎるAI社会。でも「正しい答え」をこなすことが、本当の幸せなの?

 AIを通し、すごく現代的なテーマが描き出された作品です。

 主人公の樹くんは、「マッチョ」が大好きな少年です。頭の中にあるのは、いつも筋トレのことばかり。もちろん、好きな飲み物はプロテインです。

 そんな彼が、ある時に恋をしました。同じ学校にいる十六夜さん。そんな彼女とお近づきになりたいが、樹くんが何かを考えようとすると「マッチョマッチョマッチョ!」という感じに筋肉のことしか浮かびません。

 そうして巷で流行しているAIの「アリス」をインストールすることに。

 フレンドリーに対応してくれるアリス。物事を的確に指示してくれ、あれよあれよという内に十六夜さんとお近づきになれることに。

 ……でも、何かがおかしい。本当にこれでいいのか?

 十六夜さんと親しくなれてデートをしている自分は、本当に「自分自身」だと言えるのか。アリスが作り出した「虚像」に過ぎないのではないのか。

 このテーマは、AIが実用化される未来において、確実に世の名に降り注ぐ問題となることでしょう。現代でも「スマホ依存」とかで行動が規定され、更にマニュアル的に「何が正しいか」の答えが提示されるような状況にもなっています。

 「自分らしさってなんだろう?」
 「幸せな人生ってなんだろう?」
 「正しい選択を取ることは、果たして『最良』の選択なのか?」

 これからの時代、多くの人が考えなければいけなくなる問題。そうした問題が樹くんを通して提示されていきます。

 マッチョ大好き少年のコミカルな姿で笑いを誘いつつ、「これから」について深く考える機会もくれる、とても素敵な作品です。