第11話 発車

 列車の先頭の方にいる僕と凪咲なさきは、ずっとホームで突っ立っているわけにもいかないので、列車に乗ることを決めた。



 かなり緊張する。



 どこへ行く列車なのだろうか。



 この列車は僕に何を見せてくれるのだろうか。



 そんな期待と不安を混ぜつつ、ドアの開いている車両に乗り込む。



 入るとすぐは、案外普通の列車のようだ。



 向かいのドアの入り口が見える、普通の通路。



 そこから、車内の広間に繋がっている。



「早く入ろう!」


「ちょっとは落ち着いてくれ……」



 緊張しつつドアを開けると、驚愕した。



 列車とは思えないような豪華な車内が広がっている。



 絨毯じゅうたんにソファ、オシャレなテーブルに照明。



 まさに、“走るホテル”という表現が相応しい車内だ。



「すごい!すごいよこれ!」


「確かにこれは凄いな……」



 何をすればいいかも分からない僕と凪咲は、ひとまずこの車両の席に座ることにした。



 柔らかい。身体を預ければ、すぐに丁度いい深さに沈み込む。



 くつろいでいると、どっと疲れが押し寄せてきた。



 しかしここで寝るのはまずいのではないか。



 そんな発想が出てきた。



 寝台列車ならば、寝台があるはず。



 なんとか体を起こし、既に眠そうな凪咲を連れて列車を歩いていく。



 入ったところの反対側まで歩けば、次の車両へ入るための扉が出てくる。



 それを開けば、2両目だ。



 そんなことを何両か繰り返していると、音が聞こえた。



 キーッ、という甲高い警笛の音。発車の、合図。



 その音と共に、ガタッと揺れた後、少しずつ走り始めた。



 数十分前に登ってきた駅が、遠のいていく。



 確かにあったプラットフォームの地面が、なくなる。



 まさに空を駆ける列車。



 もう走り始めたことだしと、今いる車両で寝てしまうことにした。



 扉を開ければ、決して広くはないものの、かなり豪華な個室がある。



 ここで寝ることになるのだろう。



 凪咲と2部屋に別れて寝ることにした。



 ベットの上に寝転がり、天井を見る。



 微かな振動と、カタンカタン、という音が聞こえる。



 それに誘われやってきた眠気に、僕は簡単に連れられてしまった。

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夏の僕と蒼穹の列車 海月六星 @yuatan

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