新しい朝

新しい朝が訪れた。春の陽光が窓を通して静かに差し込み、薄明かりの中で美咲は目を覚ました。今日は卒業式から数日が過ぎ、何かが少しだけ変わった気がする。心の中に渦巻いていた不安や恐れが、いつの間にか薄れていたことに気づく。


 以前の美咲なら、朝が来るたびに心が重く感じていた。新しい一日が始まるということが、いつもどこか恐ろしいもので、やり過ごさなければならない試練のように思えた。夜の静けさが唯一、彼女を包み込んでいた。しかし、今、ふと感じるのは違った。昨日までの自分と、今日の自分は、何かが変わったような気がする。


 「おはよう、美咲。」


 寝ぼけまなこで目をこすりながら、耳に届いたその声に、美咲は驚いて顔を上げた。窓辺に立つ天音の姿が見えた。天音は、何の前触れもなく、いつものように静かに彼女の部屋の中に入ってきていた。


 「天音……?」


 美咲は驚きながらも、思わず微笑んだ。天音は美咲が寝ている間に、しっかりと準備をしていたらしい。小さなカップに入った温かいコーヒーを手に、美咲に差し出してくる。


 「これ、温かいのが飲みたくて。」天音は何気なく言ったが、その言葉には心からの思いやりがこもっているのがわかった。


 美咲はそのコーヒーを受け取ると、深く一口飲みながら天音を見つめた。いつの間にか、自分の中で何か大きな変化が起きていることに気づく。それは、天音と出会ってから少しずつ育まれてきた感情だった。天音の存在が、今や美咲の心にとって欠かせないものになっている。


 「ありがとう、天音。」美咲は微笑んだ。その笑顔を見て、天音も自然と微笑んだ。


 しばらくの間、二人は何も言わず、ただ静かな時間を共有していた。しかし、その時間が次第に二人の心を近づけていくことを感じていた。美咲の心の中で、「何かを変えたい」と強く思う気持ちが芽生えてきた。


 「美咲、私、少し怖いんだ。」


 突然、天音がそう言った。美咲は驚き、天音の方をじっと見つめた。


 「怖いって、どうして?」


 天音は少し躊躇いながらも、深呼吸をしてから答えた。


 「これから先、私たちがどうなるのか、分からないじゃない。でも、今は…こんなに近くにいて、いろんなことを感じられることがすごく幸せなんだ。だけど、もし…もし私たちが離れたらって思うと、どうしても不安になってしまう。」


 美咲はその言葉を聞いて、心がじわりと温かくなるのを感じた。天音もまた、未来に対して不安を抱えているのだと気づき、思わず手を伸ばして天音の手を取った。


 「私も、天音と一緒にいることがすごく大切だって感じてる。未来がどうなるかなんて分からないけれど、今この瞬間、二人でいることが幸せだと思う。」美咲はその気持ちを素直に伝えた。


 天音は少し驚いたように美咲を見つめ、そしてその目が優しさで満たされていくのを感じた。二人の手がしっかりと絡み合い、心の距離が少しずつ縮まっていくような感覚が広がった。


 「美咲…」天音が静かにその名を呼ぶ。美咲はその声に、心が震えるのを感じた。そして、二人の間に流れる空気が、少しずつ熱を帯びてきた。


 「ねぇ、美咲…」天音はもう一度呼びかけながら、少しずつ顔を近づけた。その目には確かな決意と、愛情がこもっていた。美咲はその瞳を見つめながら、心の中で静かに息を呑んだ。


 そして、天音がついに美咲の唇にそっと触れるようにして、キスをした。その瞬間、世界が静まり返ったような感覚が広がった。美咲はその唇の温かさ、優しさを感じながら、しばらくそのまま動けなくなった。


 そのキスは、優しくて、切なくて、でも強い思いが込められていた。天音の気持ちが、ひとしずくずつ美咲の中に流れ込んでくるのを感じた。美咲もその気持ちに応えるように、もう一度天音を抱きしめ、深いキスを返した。


 それから、しばらくの間、二人はお互いの気持ちを確かめ合うようにキスを交わし、少しずつその距離を縮めていった。どんなに遠くにいても、今はこの瞬間が大切だと、二人は心から感じていた。


 やがて、キスが終わると、二人は顔を見合わせて微笑んだ。その微笑みの中に、言葉では伝えきれないほどの深い絆と愛情が溢れていた。


 「これからもずっと、こうして一緒にいようね。」天音が静かに言った。


 美咲はその言葉に、心から頷いた。「うん、ずっと一緒だよ。」


 二人はそのまま手を繋ぎ、静かな朝を迎えながら、新しい未来に向かって一歩を踏み出す準備が整った。美咲は、初めて「朝」が怖くないと感じていた。そして、その朝が、これからもずっと続いていくことを、心の中で確信した。


 どんな未来が待っていても、二人なら一緒に歩んでいけると、心の底から思えた。

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秘密のひとしずく 結城夢羽 @yuishiroyumeha

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