愛の果て

 とある街のとある中華屋。店内には店主と馴染みの客しかいない。

 店の角に置かれたテレビでは丁度、昼時のニュースが流れていた。


「ーー昨夜遅く、東京都新宿区歌舞伎町◯丁目のホテルの部屋で人が血を流して倒れているとの通報を受け警察が駆けつけたところ、男性が腹から血を流して倒れているのが発見されました。男性は都内在住の田島直也さん34歳。田島さんには自ら腹部を刺した跡があり、その後、救急搬送されたものの、命に別状はないとの事です。

 また、警察はその場にいた女性と田島さんの間に何かしらのトラブルがあっとみて……」


 店主がテレビから目を逸らし、やれやれと言ったように溜息を吐く。


「アホな男もいたもんだねぇ。しかし、ホテルで刃傷沙汰か、世も末だ」


 常連客もまたテレビから目を逸らし、手元の湯呑みを傾ける。


「カブキチョーつったらあれじゃねーの? エンコーだとかパパカツだとか……」


「かーっ。つまりその男は年甲斐もなくそういうことしてたってか、なら自業自得だな」


「まったくだ。……そんな事より、明日の東京11レース何買うか決めたか? 俺はな……」


 客と店主はそんな他愛もない会話で時間を潰す。


 愚かで哀れな男の行為の理由など、限りなく無垢で優しく冷酷な少女が、それに何を感じたかなど、彼らにとってはどうでもいい事なのだ。


 世はすべてこともなし。


 人と人とが交差する、東京新宿歌舞伎町。


 あの街は明日も変わらず、ネオンを輝かせるのだろう。

 あの街に終わりなどない。すべてはただ、続いていく。


 かざぐるまは、ただクルクルと回り。

 時たま絡み合っては、唐突にはぐれて行くだけだ。


 だが……そう。人は皆、田島と凛を心の内に秘めているのだ。

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愛したいほど殺したい ほらほら @HORAHORA

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