宇宙で一番心のキレイな花嫁

秋犬

もうすぐ春が来る

 子守奉公をしているリエが梅のつぼみを見ていると、背後で大きな声が聞こえた。


「パンパカパーン! あなたは宇宙一の幸運を手に入れました!」


 そこにいたのは、緑色に光る毛皮を着た生き物だった。生き物は直立して、首にあたるところに蝶ネクタイのようなものをしていた。


「やかまし! せっかく寝たところだったのに起きたらどうしてくれんべ!」


 背中の赤子をあやしながらリエが怒鳴ると、妙な生き物はしゅんとした。


「そ、それはご無礼を……しかし、そんな生活ともオサラバです!」


 緑の生き物は、先ほどより声量を小さくして続けた。


「申し遅れました。わたくし銀河系列国立結婚相談所のエージェント長を務めております、ジャラアカ・モクレーンと申します」


 そう言うと、ジャラアカは毛むくじゃらの中から名刺を取り出してリエに渡した。しかし地球の言葉ですらなかったため、ひらがなしか読めないリエにはさっぱりわからなかった。


「そのじゃらあかさんとやらが、おらに何のようだべ?」

「実は、あなたを是非お嫁さんにしたいという方がおります!」


 ジャラアカは毛むくじゃらの中から見合い写真のようなものを取り出した。


「セイファート銀河第六恒星系第三惑星出身のキラ・キントさんです。彼が宇宙一のスーパーコンピュータに『この宇宙で一番心のキレイな人を探してくれ』と尋ねた結果、天の川銀河太陽系第三惑星に存在する松戸まつどリエさん、あなたが選ばれたのです!」

「へえ、よくわかんないけど、そのキラキラさんとやらがおらをお嫁にしたいって言ってんのか?」

「はい。キラ・キントさんは超大金持ちでそのうえイケメン、心優しい宇宙一の男。断る理由のない話でございます。よろしければ、こちらにサインを」


 リエは差し出されたペンを受け取って、キラ・キントの写真を見る。確かに良い男であった。子守奉公もせず、お姫様のように過ごす日々を少しだけリエは夢見て、そしてペンをジャラアカに返した。


「おら、いかねえ」

「一体何故!?」

「だってそんな遠くにお嫁に行ったら、おっとうとおっかあに二度と会えないかもしれないし、この子の面倒も見れねくなっちまうからな」


 リエの言葉を聞いて、ジャラアカは微笑んだ。


「なるほど、スーパーコンピュータは正しかったようですね」


 それから「どうぞあなたが幸せに過ごせますように」と述べて、ジャラアカは空に飛びあがって消えた。後にはただ、春の予感が立ち込める空が広がるばかりだった。


<了>


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