やべー兄弟・弟の戦い(※でも将来もっとやべー兄貴に討たれます)

 春、それは希望と絶望の季節。新たな出会いに心躍らせ、お世話になった人と分かれる季節。萌え息吹く草花に心奪われ、杉の花粉に殺意を抱く季節。長い冬の終わりを告げる季節も、まだどこかに冬の厳しさが潜んでいます。
 本作は、そんな春の二面性を、日本人なら誰もがその名を知っているあの人物で描いた短編です。

 舞台は、源平合戦の終盤・屋島の合戦。「扇の的」のエピソードで有名なあの戦いですが、この合戦に臨んだあの人物――義務教育で習う出来事にネタバレも何もないと思うので書いてしまうと、源義経――の考えが、那須与一の目を通じて描かれます。
 戦いの天才としばしば評される義経ですが、従来は「浮世離れしているが戦いのことになると常人離れした鋭さを発揮する変人チックな天才」と描写されることが多かった(例:司馬遼太郎)気がします。しかし本作の義経は、作戦レベルだけではなく戦略レベルでも鋭さを発揮しています。そして何より、やべー奴です。

 本作の作者・四谷軒氏は、源頼朝を主人公に据えた長編『笹竜胆』を書かれておられますが、そちらにも義経は登場しており、ほんの少しの出番でしたがやべー奴の片鱗をのぞかせていました。そしてついに本作で、そのやべー振りが明らかに! どうやべーのかは、是非本作をお読みになられてください。『笹竜胆』を読まれた方なら、本作も間違いなく気に入られると思います。

 そして読み終えた後、もう一度冒頭を読み返してみてください。

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