矢が射抜いたのは、扇か、それとも戦局か

春の海に揺れる、たった一振りの扇。
那須与一が放った矢が、それを正確に射抜いた瞬間、
歴史はひとつの岐路を越えた。

だがそれは、ただの名場面ではない。
源義経が放ったのは、戦略という名の火矢だった。
五艘の小船。百五十騎の寡兵。
それで挑んだのは、数千を擁する平家の水軍。

なぜ、あえて無謀に見える賭けに出たのか。
なぜ、漁師の村に火を放ったのか。
そして、なぜ義経は「遠くではなく、近くを見ろ」と言ったのか。

「拙速は、巧遅に勝る」
その信念が突き刺したのは、屋島の防衛線だけではない。
それは、戦を読むという知のあり方への挑戦だった。

これは、与一の矢が語るもうひとつの屋島。
伝説の裏に隠された、緻密な戦略と、
人間の決断の重みを描く、もうひとつの真実である。

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