第2話 配属

 ——ソフトウェアを確認中。……異常なし。


「…………」


 警察署入り口にて。ラートはネクタイをしっかりと締め扉を開けた。

「こんにちは。ワイナー警部補はいらっしゃいますか?」

「ワイナー警部補ですか?少しお待ちください。お調べします」

「はい」

 受付にいた人型アンドロイドに声をかけると、アンドロイドはパソコンをいじり出した。

「……まだ戻ってきていません。もしよかったら中に入って待っていてもいいですよ」

「分かりました」

 そう言われ、ラートは軽く会釈をし警察署内部へと入っていった。

「……警部補のデスクはどこだ?」

 中に入ると、人間はもちろんのこと、警察アンドロイドも何体か稼働しているのが分かる。

 全てが同じ性別ではなく、人間と同じ性別になっている。男性、女性、その他。

 どうやらアンドロイドと人間は上手く調和をしているようだった。

 警察署内を歩き回り、ラートは給湯室にやってきた。

「おっ、これはこれは。頼もしいアンドロイド警察デカのお出ましだ」

 と、丸い机に肘をつきながら何かを飲んでいる男性に声をかけられた。その隣には30代と思われる女性警官も一緒だった。

「こんにちは。私はラート。YR300、プロトタイプです」

 ラートは軽く挨拶をしてやった。

「へぇ、プロトタイプか。ということは、なんかの実験をやってんのか?」

「いえ。私は任務遂行アンドロイドです。あなたの名前は?」

「俺か?アイド。ま、プラスチックの塊に名前を呼ばれる筋合いはねぇけどな」

 そう言って飲んでいた紙コップを突き出してきた。

「?」

 ラートはどういうことか分からず首を傾げると、

「コーヒー」

「……コーヒー?」

「さっさとコーヒー持ってこい!」

 ドンッ!と紙コップを突き付けられた。

「分かりました」

 ラートは平然とした態度でコップを受け取り、後ろの方にあったコーヒーメーカをいじる。

「ハハハッ。あー、何でも言いなりになるアンドロイドはいいねぇ」

 隣の女性と皮肉のようなことを言っているのが聞こえた。

 だが、ラートは何も動揺せずコーヒーを淹れた。

「アイドさん。コーヒーです」

 コーヒーを淹れ終わり、アイドの元へ渡しに行く。

「ほぉう。やっぱり従順なプラスチックだな。ハハハッ」

 アイドはコーヒーを受け取りもせず、ラートにわざと肩をぶつけ給湯室を去っていった。

「あの、コーヒー……っ」

 小さくため息をつき、テーブルにコップを置いた。


 分析——アイド FBI捜査官 年齢 42 性別 男 アンドロイドを嫌う傾向あり?


「…………」

 ラートはワイナー警部補のデスクを探すため所内を歩き回る。

「あった。ここが警部補のデスクか」

 デスクの上には「アンディー・ワイナー」というネームプレートが置いてあった。

 だがワイナーの姿は見当たらない。

「……」

 机上、その周りにあるもので、ワイナー警部補はどんな人物かを分析することにした。


 机上 家の鍵と車の鍵が一緒になっているもの ——ワイナー警部補は遠くにはいっていない?

 写真立て ワイナー警部補、大型の犬、7歳くらいの男の子との写真

 ヘッドホン 電源を付けるとクラシックの音楽が流れた ——クラシックが好き?

 電子掲示板 2年前のアンドロイド殺傷事件に携わっていた → 捜査は打ち切り


「2年前の事件……エマが言っていたことか」


「——あー……くそっ」

 と、後ろから声がしたので振り返ると、そこにはワイナー警部補が立っていた。

「こんにちは。私はラート。サイバー・エアリーから派遣されました」

「なるほど……。話は聞いていたが……まさか、アンドロイドだったとはね」

 と、疲れた様子のワイナーはドサッと椅子に座る。

「はぁ……俺のパートナーがアンドロイドかよ……」

そして、ため息混じりで小さく言う。

「あの、一つ質問していいですか?」

「……なんだ?」

「電子掲示板を見てみましたが、どうやらあなたは、2年前のアンドロイド殺傷事件に携わっていたそうですね」

「……それがどうした?」

「私の任務も、その事件を捜査することなんですよ」

「そうか。……でもな、その捜査はもう打ち切りになったんだよ。人間と違って感情は全く表さないし、何より事件現場の証拠になりそうなものは全く見つかってないんだ。例えば凶器についている指紋とかな」

 ワイナーは大きくため息をついて頭を抱えた。

「大丈夫です。私が捜査を代わればアンドロイドの行方が分かるはず」

「お前に託したいのは山々だが、もう捜査は打ち切りになってんだ。無理だよ」

「……そうですか」

 そうは言われても、ラートはここで引き下がるわけにはいかなかった。

 何か他の手がかりは——


「おいワイナー!ちょっとこっちに来い!」

 所長室のようなところから少し小太りの男性が大きな声で呼んだ。

「あー……一体何の用だってんだ」

 小さくそう言うと、気怠い体でノロノロと所長室へと向かった。

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機械と人間 minonライル @minon13

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