嗚呼、因果応報
猫屋 こね
この者、身勝手につき・・・
あるところに、世界中全ての格闘術を修めた天下無双の男がいました。
男はとても傲慢で、とても暴力的です。
そんな男は近隣の飲食店から出入り禁止にされていました。
それも当然です。
男は酔うと周りの客に絡む癖がありました。
絡んで聞かせる内容は、男の武勇伝ばかり。
みんな嫌な気分になります。
しかもその話をつまらなそうに聞くと、暴力を受けるのです。
これには店側も黙っていられません。
男を出入り禁止にし、もしまた店内に現れるようなら警察に通報すると言ったのです。
男は従うしかありません。
何故なら男は御上には楯突かないと決めているからです。
父親が警察のトップだからということもあるのでしょう。
もし飲食店で暴れたという話を父親が知ったら毎月の小遣いを貰えなくなります。
従うしかないのです。
というわけで男は今、近所の駄菓子屋で児童達に自分の武勇伝を聞かせています。
端から見れば、とてもうざったらしいでしょう。
しかしこの近所の子供達はとても純粋で純真です。
真面目に男の話を聞き、とても感動するのでした。
これには男も大満足です。
たまに途中で帰ってしまう児童もいましたが、幼児には手を上げないという最低限の倫理や道徳はあるようでした。
毎日のように駄菓子屋に入り浸る男。
仕事はしていません。
親から貰える小遣いがこの男の唯一の収入源なのです。
世界を旅し、あらゆる格闘術を修めたのも全て親の七光りのおかげ。
格闘術を極められたのはこの男の努力かもしれませんが、元々金銭的な援助が無ければ何も成せなかったのです。
この男は堂々と胸を張って生きられるような存在ではありませんでした。
ある日、1人の男の子が男に話します。
「おじちゃん。そんなに強いんなら、お化けにも勝てる?」
純粋な質問に、苛立ちを覚える男。
男は自分の話さえ聞いて貰えればそれでいいのです。
質問をされるのは嫌いでした。
しかも自分を試すような質問は腸が煮えくりかえる思いです。
「勿論勝てる!」
男は見栄を張ります。
実際にはお化けと闘ったことはおろか、出会ったこともないのです。
それともう一つ。
男は訂正させます。
「それに俺はおじちゃんじゃない!これでも52だ!」
男の子は男の圧を受け、泣き出してしまいました。
これはばつが悪いと、その場から離れる男。
自分は何も悪くないのに、と思いながら帰り道を歩いていると、町外れにある一軒の家が目に付きました。
以前から幽霊屋敷の噂がある家です。
男は小躍りしました。
いや、これはコンテンポラリーダンスです。
間違いありません。
コンテンポラリーダンスです。
男はダンスを踊りながら100m先にある幽霊屋敷に2時間かけてたどり着きました。
無遠慮に不法侵入を果たす男。
そうなのです。
この男の辞書に秩序という言葉は存在しないのです。
中に入った男は、早速一組の布団に目を止めます。
6畳程の広さの部屋でしょうか。
その部屋の中を、その布団の負のオーラが充満していました。
これは確実にお化けだ。
男はこの布団がお化けであると確信しました。
そしてつまりそれは、この布団で寝て、何事もなく起きることが出来れば、布団のお化けに勝ったと言っても過言ではないということ。
男は早速布団に入りました。
思ったより埃っぽかったですが、それでも頑張って寝ます。
そしてものの3秒で夢の世界に行くことが出来ました。
その夢の世界。
とても良い夢でした。
ずっと続けばいい。
もう起きたくない。
男は願いました。
全てが思い通りに行くこの世界が現実になればいいのに・・・
ですが勿論そう上手くいくようなものではありません。
夢はただの夢なのですから。
男は目を覚ましました。
そして窓に映る自分の姿を見て愕然とするのです。
何故なら・・・
男は年老いていたからです。
一体何年、何十年ここにいたのか。
ヨロヨロと身体を起こして外に這い出しました。
そこは・・・
何も変わっていなかったのです。
そう。
時間が過ぎたのは男の時間だけでした。
男だけが先に進みすぎたのです。
ではどれだけ男の時間は進んでしまったのでしょう。
簡単なことです。
未成年の時以外で男がこれまで使い込んだ親のお金。
本当だったら男が働かなければいけない分進んでしまったのでした。
この布団の名前は『因果お布団』といい、これを使って眠った者に因果に応じて果報を与えるというものだったのです。
男はこれからどうなるのでしょう。
きっとこれまでの報いを受け、もう傲慢にはなれず、コンテンポラリーダンスを踊り続けるしかないのでしょうね。
めでたしめでたし
嗚呼、因果応報 猫屋 こね @54-25-81
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