公園での一幕
凰 百花
荒唐無稽
いつも決まった公園のベンチで、その小さなお婆さんは日向ぼっこよろしくお昼寝をしている。
天気の良いポカポカとした陽気の日に、おばあさんはその公園にやって来る。いつものベンチに誰かが座っていると、そのおばあさんは通り過ぎていくだけ。
どうにもその場所を気に入っているみたいだ。
一度、おばあさんがいない時に座ってみるといい。とってもぽかぽかして、お布団に包まれているような気分になるから。
その日も、小さなおばあさんはそのベンチで日向ぼっこよろしくお昼寝をしていた。おばあさんはしわくちゃだけれど、とっても穏やかなお顔をしている。節くれだった指は、おばあさんのこれまでの人生を表しているのだろうか。
おばあさんを知っている人達は、おばあさんお気に入りのベンチに腰掛けない。何となく、おばあさんにすわってほしいからだ。
そんな穏やかな小さなおばあさんがそこにいるだけで、なんとなくみんなほっこりするから。
「見つけたぞ」
そんな穏やかな午後。コクリ、コクリとお昼寝をしているおばあさんの前に大男が現れた。
ムキムキマッチョのその男は、おばあさんを指差し睨みつける。
「こんな所にいるとは。さあ、俺と勝負しろ! 」
その時公園にいた人々は、どうしていいかわからない。小さなおばあさんが、なんでこんな強そうな乱暴そうな、武闘家みたいな男に絡まれているのか。
誰かが交番に走った。
誰も動けなかったその時に、一人の男の子が、おばあさんと大男の間に入った。
「おじさん、おばあさんに悪い事をしたら駄目だよ。弱いものイジメはいけないんだよ」
ふんっと大男は鼻で笑う。
「俺はこいつと勝負するために、ずっと探してたんだ。こんなところに紛れ込みやがって」
大男に睨まれた男の子はとっても怖かったけれど、頑張っておばあさんの前に立っていた。
「坊や、ありがとうね。大丈夫だよ」
おばあさんの声を皆は初めて聞いた。いつも一人だったので。おばあさんは、ベンチから立ち上がり穏やかで優しげな顔を男の子に向けて、その子の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だから、下がっておいでね」
おばあさんはベンチにその子を座らせた。
それから大男の前に立った。その姿はいつもの穏やかな雰囲気とは違った。鋭く真っすぐに大男を見据え、にやりと笑う。
「Shall we ダンス ?」
見くびられた男はカッと頭に血が上る。
「ふざけやがって」
次の瞬間、何が起こったのか理解できたものはいない。気がつけば男の巨体が宙に浮き、ズシンと音を立てて少し離れた地に倒れて立ち上がることはなかった。完全に気絶している。
「このザマで、私に挑戦したいとは。弱いものいじめはしたくなかったんだがね」
手をぽんぽんと軽く叩くと、凍りついている周囲を見回し、一礼する。
「お騒がせしました」
そう一言言うと、おばあさんは、帰ってしまった。
そして残念ながら、それ以降おばあさんは、その公園に来なくなってしまった。公園の常連の人々はそれをすごくさみしく感じている。
ある流派に『天下無双』という称号がある。最も強いとされた者に冠されるものである。その称号を息子に譲った彼女は、闘いに明け暮れていた日々に別れを告げたはずだった。
だが、偶にあの大男のように何を考えているのか挑戦してくる者が現れる。この老体になんの用があるというのか。闘いに飽いて息子に負けて、称号を譲ったというのに。
「昼寝するのに、良い場所だったんだけどねえ。またどこか新しい場所をさがすかね」
おばあさんはため息を一つついた。
公園での一幕 凰 百花 @ootori-momo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます