夢想

@jgt_senzaki

夢想

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 起きてすぐ文直ウェンジーは野営する仲間達を見て回って尋ねる。

「皆、無事か」

「大丈夫ですよ、ここに死者は居りません。フォ将軍、あなた以外は」

 文直は雑兵達にそう言われて、胸を撫で下ろす。

 そうだ、死んでも尚ここに在るのは自分だけ。

 文直は爪の伸びた両手を見下ろし、鋭い牙の間から息を吐く。

 ――僵屍キョンシーになったのはわたしだけだ。


「また、皆が殺される夢を見たのか」

 玲月リンユエは馬上から、手綱を持って傍らを歩く文直に話しかける。

 文直はこくりと肯き、申し訳なさそうに言う。

公主ひめさま、今朝は失礼致しました。睡熟おやすみのところを起こしてしまって」

「構わんさ。真っ先に無事を確認しに来てくれたのだろ」

 嬉しげに微笑して玲月は、ところで、と話を転換する。

「そろそろわかったのか。夢で我們われわれが誰にどう殺されたのか」

 5回前の夢くらいから玲月はそれを尋ね続けている。

 だが、今回も文直は首を横に振った。

 そうか、と玲月は呟き、総帥らしく凱旋のみちく歩兵達へ視線をやる。勝ち戦後の緩んだ空気が漂う行軍。玲月はそれを眺めながら口を開く。

おまえが見ているのは、おまえが皆を殺す夢か」

 文直は瞠目して玲月を見る。

「死んだ、ではなく、殺されたと言いながら、凶器も殺した奴も不明と言う矛盾は、つまり、そういうことではないのか」

 追及する声音は優しかった。

 文直は泣きそうになりながら肯き、観念して吐露した。

わたしは戦場で命を落とし、気付いたら人ならざる鬼になっておりました。未練なんてないはずなのに。公主を守って死ねたことに悔いなどないはずなのに。不安なんです。自覚のない恨みや妬みで傷つけてしまったらと」

「これは儞の未練ではない。私のわがままだよ」

 玲月は馬を止め、語気を強める。

「文直ともっと一緒に居たかった。だから、僵屍にしたんだ。故郷へかえり、棺桶に入るまでの束の間だけでも共に居たいと願った、これは私の恣であり、恋だ」

 だから怯えるな笑っていろ、と玲月は弱弱しく微笑んだ。

 驚き、喜び、最後に切なさが胸を過ぎったが、文直は涙を堪えた。

 ――愛しいあなたの望みなら。

 恭しく拱手きょうしゅして文直は、穏やかに微笑んでみせた。


 その日以後、文直は、あの殺伐とした夢を二度と見ることはなかった。

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