【KAC20255】アイドルのあなたと天下無双の剣士である君

桜森よなが

あなたと君

 あなたはあるアイドルグループのセンターとして、ステージの上で踊っていた。


 今日は東京ドームでの公演、キレキレのダンスであなたは観客を熱中させた。


 ライブが大成功に終わった後、帰りのタクシーの中で、同乗していた同じグループのメンバー、高浪にこんなことを言われた。


「お疲れ、今日の美樹のダンス、すごかったね」


「最近、調子いいんだ、よく眠れてるからかな? 布団を新しいのに変えたからそのおかげかも」


「睡眠は大事だよね。どこで買ったやつなの?」


「通販で買ったやつなんだけどね、『いい夢を見られる布団』て紹介のページには書いてあったな」


 タクシーから降りて高浪と別れた後、あなたは自宅へ帰った。


 お風呂に入った後、すぐにあなたはベッドに飛び込み、ふかふかの布団に包まれて眠った……。




 天下無双の剣士として有名な君は、仲間たちと共に冒険をしていた。


(これは昔からよく見る夢だ、現実はアイドルとして活動している方……だからは私じゃない……)


  今、君は仲間たちと共に、モンスターを討伐するために森へ入ろうとしていた。


  森の中に入ると、仲間たちと共にトロールの群れに囲まれた。


  しかし、仲間たちに不安な様子は一切なかった。


  君がすぐに、踊るように華麗な剣さばきで次々と敵を切り伏せていったからだ。


  その光景はまさに天下無双。


  敵が全て倒れた後、仲間の一人――弓使いのハミルが君に言う。


「前からすごかったけど、最近はいつにも増して無双してるな」


「ああ、今、絶好調なんだ。毎日ぐっすり眠れてるからだと思う。布団を新調したおかげだな、ある商人から買ったやつなんだけど、そいつは『いい夢を見られる布団』だって言っていたな」


 依頼を終え、家に帰ると、疲れていた君はベッドに倒れ込むようにして眠った……。





 今日はあなたがアイドルになってからずっと夢見ていた、武道館でのライブがある日だった。


(これは昔からよく見る夢だ、現実は剣士として冒険をしている方……だからは私じゃない……)


 会場のステージに立ち、証明の光に包まれたあなたは涙を流す。


 夢が叶った。


 こんなに大勢の客がいるなんて、まるで現実じゃないみたいだ。


 現実?


 あれ?


「どっちが現実なんだっけ?」

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