万障2

岸亜里沙

万障2

魚住うおずみ龍央たつおは、目が覚めると朽ち果てた廃墟のような一室にいた。

頭部を殴られたのか、頭頂部から首にかけて鈍い痛みがある。

しかし頭部の痛み以上に、鼻腔をつんざくような悪臭が、脳内に強烈な眩暈めまい嘔気おうきもたらす。

あまりの臭気に魚住うおずみは思わず口と鼻を覆う。


「キキキ。やっと目が覚めたか」


後方から急に声がし、魚住うおずみは後ろを振り向く。

そこには大柄で短髪の男が立っていた。手には銃を持っていたが、それよりも異様にギラついた男の眼に魚住うおずみは恐怖を覚えた。


「お前とゲームをしたい。キキキ」


廃墟の中に響き渡る不気味な笑い声。

自分は此処ここで死ぬのかと、魚住うおずみは悲観した。


「着いてこい」


男にうながされ、魚住うおずみはヨタヨタと立ち上がる。

頭に銃を突き付けられた為、逃げられそうもなかった。

男に誘導され廃墟の奥へと進むと、悪臭はどんどんと強くなり、魚住うおずみたまらず嘔吐してしまう。

男は有無を言わさず、ニヤニヤと笑いながら魚住うおずみを無理矢理引きずるように連れていく。


辿り着いたのは、悪臭漂う浴室だった。

割れた鏡、古びたタイル、汚物のようなものがこびり付いた浴槽。

だが魚住うおずみが最も驚愕したのは、浴室の床に寝そべる死体だ。

死後、数週間は経っているのだろう。遺体は腐敗し始めている。


「キキキ。さあ、ゲームを始めよう。今から1時間以内に、この死体を解体しろ。頭、胴体、手足にな。出来たらお前を解放してやる」


男は死体を蹴りながら言う。


「ど、どうやって?」


「頭を使え。刃物が無くとも、お前には歯があるだろ。皮膚を噛みちぎり、骨を粉砕すりゃ解体くらい出来るだろ。キキキ」


あまりにも無謀な要求に魚住うおずみは絶望した。

此処ここに居ては死ぬだけだ。一縷いちるの望みに賭けようと、魚住うおずみは走り出す。

だが浴室から廊下に出た瞬間、魚住うおずみは男に羽交はがめにされ意識を失う。


しばらくして魚住うおずみは激痛で意識を取り戻す。

激痛の理由わけはすぐに理解出来た。


「逃げようとしたな。ゲームオーバーだ。キキキ」


男は手にを持っていた。

それは魚住うおずみの両手から切断した10本の指。


「た、助けて・・・」


弱々しい声で魚住うおずみは懇願する。

その瞬間、男は持っていた指を、魚住うおずみの口に突っ込んだ。


「どうだ最期の晩餐は?自分の指で窒息死出来るなんて最高だろ?キキキ」




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万障2 岸亜里沙 @kishiarisa

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