天下無双の大剣豪ムサシ・ブレード
澤田慎梧
天下無双の大剣豪ムサシ・ブレード
「天下無双の大剣豪、ムサシ・ブレードただいま推・参!」
予定よりも早く帰宅すると、リビングにヒーローが現れていた。
――いや、これはいくらなんでも端折り過ぎだし現実逃避過ぎるだろう。
きちんと、目の前の事実と向き合おう。
予定よりも早く帰宅すると、夫の涼介がヒーローごっこをしていた。
右手に携えるのは「
特定の動作をすると必殺技を叫んでくれる優れもの。
腰には「DX五輪ベルト」が燦然と輝いている。
こちらは体の動きに合わせて五色のLEDがピカピカと点滅する。
どちらも特撮ヒーロー「大剣豪ムサシ・ブレード」の変身玩具だ。
もちろん、子ども向けの。
ベルトなどは長さが足りないのか、荷造り用の紐で無理矢理に延長している。涙ぐましい。
その変身玩具を身に付けた涼介はと言うと、歌舞伎役者もかくやといった見得を切ったまま固まっていた。
「ええと、念の為に訊くけど。……何してるの?」
「ち、違うんだ! これは違うんだ!」
正気に戻った涼介がカネシゲを背中に隠しながら言い訳を始めた。
途端、
『隠し剣・
と、カネシゲが勇ましく必殺技名を叫んだ。
なるほど、後ろ手に隠すと「空の太刀」と判定されるんだね。一つ勉強になった。
「いいよいいよ、隠さなくて。男の子には、童心に帰りたくなる時があるんだよね。アラフォーを『子』って呼んでいいのか、ちょっと悩むけど」
「だ、だから違うんだってば!」
カネシゲを隠せないと悟ったのか、涼介が今度は両手を体の前でぶんぶんと振って「違うんだ」の動作をとる。
『守りの剣・水の太刀!』
カネシゲがまたも吠える。
ふむ、モーション検知は完璧らしい。きっと良いセンサーを使っているのだろう。
子ども向けの玩具とはいえ、侮れない。
「そ、その……さ」
「何?」
「どこから見てた?」
「涼介が奇妙なダンスを踊ってたところから」
「全部じゃーん! って、違うよ! 奇妙なダンスじゃないよ! 『変身剣舞』だよぉ!」
恥ずかしさからか、涼介が両手で顔を覆う。
『鋼の剣・地の太刀!』
おお、身体の前でカネサダをかざすと、全身の防御力を上げる「地の太刀」と判定されるのか。
これも原作通りだね。
ちなみに、「変身剣舞」というのは、ムサシ・ブレードにおける所謂「変身ポーズ」だ。
主人公がカネサダを鞘から抜き放ち、剣舞を行うと超人ムサシ・ブレードに変身する。
結構激しい踊りだからか、涼介の足元には布団が敷いてあった。おそらく防音マット代わりだろう。
マンションの下の部屋の人、物音にうるさいからなぁ……。
「ち、違うんだ! む、息子に買い与える前に、危険な玩具じゃないか確認してたんだよ!」
「あの子、こういうのはもう卒業してるけどね」
「うっ……」
ちなみに、息子はもう中一で、今日は部活の合宿で外泊だ。
「もう、だから恥ずかしがらないでいいってば。私も帰りが遅いし子どもも外泊だしで、羽目を外したくなったんでしょ?」
「うう……面目ない」
「いいよいいよ。女連れ込んでたとかだったら、そのカネサダで動かなくなるまで殴るけど。違うでしょ?」
「ぶ、物騒だなぁ……しないよ、浮気なんて」
涼介が肩をすくめると、カネサダが『疾風の剣・風の太刀!』と叫んだ。
どうやら、水平に構えたと判定されたらしい。これはちょっと、疑惑の判定。
「分かってるわよ。――さて、夕飯まだでしょ? 涼介の好物の餃子買ってきたからさ……そうね、久しぶりに二人で『ムサシ・ブレード』でも、観る?」
「お、いいね~!」
現金なもので、涼介は二つの好物で釣ると、先程までの気恥ずかしさも忘れてノリノリになっていた。
ま、そもそも特撮好きが縁で結婚した私達だ。子どもの目がある時は中々オタ活できないけど、久々に夫婦水入らずのオタ活をするとしよう。
その晩、私達は涼介が敷いた布団の上に寝そべりながら、仲良く「ムサシ・ブレード」観賞会としゃれこんだのだった。
(おしまい)
天下無双の大剣豪ムサシ・ブレード 澤田慎梧 @sumigoro
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