エピローグ:新たな布団物語

 春の柔らかな日差しが「ふわり布団店」の軒先を照らす朝。店内からは活気ある声が聞こえてきた。


 「いらっしゃいませ! 今日は何をお探しですか?」


 陽子の明るい声が客を迎える。店の奥では、悠斗が真剣な表情で布団を仕上げていた。彼の作業台には「ダンサーズ・コンフォート」と名付けられた新作シリーズのデザイン画が広げられている。


 あの舞台から一年。「天才バレリーナ御用達」として評判になった布団店は、以前より格段に賑わうようになっていた。


 「悠斗、ちょっと手伝って!」


 母親の呼びかけに応じて店内に出ると、そこには見慣れた姿があった。


 「お久しぶり、布団職人さん」


 美咲が微笑んでいた。全国ツアーを終えたばかりの彼女は、少し日焼けした肌に輝くような笑顔を浮かべていた。


 「おかえり」


 悠斗の言葉は短かったが、その目には言葉以上の想いが宿っていた。


---


 午後、二人は初めて本格的に話をした公園のベンチに腰掛けていた。春風が二人の間を優しく吹き抜ける。


 「覚えてる? ここで私が『小さな一歩から始まる夢』って言ったこと」


 美咲が空を見上げながら言った。


 「忘れるわけないよ」悠斗は静かに答えた。「あの言葉がなかったら、今の僕はなかった」


 彼は以前とは違う自信に満ちた表情で続けた。「東京の寝具デザイン学校からの返事、今朝来たんだ」


 「え? それで?」


 美咲が身を乗り出す。


 「合格した。来月から週末だけ通うことになる」


 「やった!」美咲は飛び上がって喜んだ。「知ってた。悠斗くんなら絶対に受かるって」


 悠斗は照れながらも嬉しそうに頷いた。あの舞台以来、彼は少しずつ殻を破り、新しいことに挑戦するようになっていた。


 「それと、あの企画も通ったよ」


 「『ダンサーのための睡眠環境展』?」


 「うん。僕のデザインした布団が、東京での展示会に出展されることになった」


 美咲は感動した様子で悠斗の手を握った。


 「天下無双の布団職人への道だね」


 「まだまだだよ」悠斗は謙虚に言ったが、その目には確かな自信が宿っていた。


---


 夕暮れ時、「ふわり布団店」に戻った二人。


 「あ、見せたいものがあるんだ」


 悠斗は作業場から一つの小さな包みを取り出した。開けると、美咲が初めて店に来た日に注文した布団と同じ生地で作られた小さなクッションが現れた。


 「私たちの出会いの記念…」


 美咲は感動した様子でクッションを手に取った。


 「裏側も見て」


 クッションを裏返すと、そこには二人の名前と日付が丁寧に刺繍されていた。


 「悠斗くん…」


 美咲の目に涙が浮かんだ。


 「僕、決めたんだ」悠斗は真剣な表情で言った。「布団職人として最高を目指す。そして、君の夢も全力で応援する」


 「私も」美咲は涙をこらえながら答えた。「バレリーナとして世界に挑戦する。そして、あなたの夢も支えていく」


 二人の指が自然と絡み合った。


 「ねえ、美咲」


 「なに?」


 「僕たち、これからもずっと一緒に夢を追いかけていこう」


 「うん、約束する」


 夕日に照らされた「ふわり布団店」の窓辺で、二人は静かに寄り添っていた。布団屋の引きこもりと天才バレリーナ。まるで違う二人が出会い、互いの世界を広げ、共に成長していく物語は、これからも続いていく。


 そして二人の間には、「天下無双」を目指す確かな絆が、しっかりと結ばれていた。


(終)


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布団屋と天下無双のバレリーナ 本を書く社畜 @wata098765

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